第16話 一人ぼっちの駆除隊

「与作ぅ・・・ここは辛いだぁ・・・はよ迎えさ来てけろ〜・・・与作ぅ〜」


・・・


与作はガバっと布団を跳ねのけた。


悪い夢を見ていたような気がする・・・


寝汗でびっしょりだった。


夜明け前、東の空が薄ら明るくなる頃の・・・いつも通りの時間だった。


与作は起きると直ぐに囲炉裏に柴をくべてお湯を沸かす。

ちょっと温くなった頃に手ぬぐいを濡らし体を拭く。

そして上着を着こむと囲炉裏の火を火縄移し、鉄砲を背負って罠の見回りに行く。


畑を歩いているとポチがアンの家から走って来るのが見える。

三回ほど与作の周りを回り早く行こうとせかす。


罠場は遠くない・・・むしろ近い


小さい村の畑を横切り、林の中に入るとそこはもう罠場だ。


与作は罠を掛けた辺りを遠くから目を凝らして観察する。

ここ数日、足跡はあるものの罠に掛っていたのは狸ぐらいだった。


狸さ掛かると面倒くせぇでな。

頭ば棒っこでゴツンと叩ぇてな、フラフラっとした隙にムシロさ包んで罠ぁ外すんだ。

なぁに、奴さん暫くぼーっとしてっけどな、思い出したように森さ消えていくだ。


また、狸ば掛かって無えと良いなぁ・・・


相当気を使って罠を掛けるのだが、獣道に罠を掛けると感の良い奴は暫くの間、そこを迂回してしまう。

頃合いを見て迂回している所をちょっとだけ掘ってやると別の道を使いだす。

そのうち元の道を歩くようになり罠に掛ってくれる。

ちょっと気の長い話だ。


・・・もういい加減・・・シシさ掛かってくれねぇだかな


3つ目の罠を見ると様子がおかしい。

罠と同じ高さまで登ってみると木の根元に鹿が座り込んでいた。


・・・掛ってる。


ポチを見るとポチもこちらを見上げている。


・・・よしっ


与作はそっと忍び寄り観察する。

座り込んでいるので掛かっている罠の状態は見えない。

10センチ位の角が付いた若いオス鹿だ。


・・・撃つか? 槍で留めるか?


もうちょっと近づく。

鹿は与作に気が付いて逃げようと跳ねる。

罠は右前脚を大きく捉えている。どうやら前足も折れたりはしていないようだ。


これなら足さ外れて逃げたりせんな・・・


槍を抱えてジワジワと間合いを詰める。

ワイヤーは木を回り込んで短くなっている。


コッ


槍の根元で頭を叩く。

鹿はフラフラと前足を折る。


喉元から槍を入れて直ぐに抜く。


ベェェェェェ


ひと鳴きすると横に倒れ込んだ。


次に耳の下を突くと血が流れ落ちた。


与作は鹿の背中で槍を拭うと穂先を鞘に収めた。


もう鹿の目には光が無い。


ロープを鹿に結び付けるとあぜ道まで引っ張っていく。

そして畑の真ん中にある木からぶら下げると残りの罠を見に行った。


今日は鹿二つか、上出来だべ。


別な罠にも鹿が一頭掛っていた。残念ながら猪の足跡はあるものの、未だ罠に掛る素振りは無い。


罠の見回りが終わるとポチにせかされるようにアンの家まで行き、鳥小屋の扉を開ける。

開けた瞬間、待ってましたと言わんばかりに若鶏が飛び出して地面をつつき出す。

八尾が用意していた鶏用の餌を茶碗に一杯蒔くとダッシュして餌を食べだす。


ポチは伏せて鶏達が餌を啄んでいるのを見つめている。


さて、後は鹿さバラシて干し肉さ作って、畑の雑草も抜いてやらんと・・・

今年は広さが倍だで忙しいだ。さ、家さ帰って朝飯さ喰うてとっとと仕事せねば。


そう独り言を呟いた後、与作はしばらくの間、東の空を見つめていた。


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