第10話 熊目線 ※後半グロイです。ホントに

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食事前、寝る前の閲覧はお酒下さい。

・・・ちがった・・・お避け下さい。

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山のオヤジは腹が減っていた。


冬眠から覚めたオヤジは、手近に見つけたフキノトウやアザミを食べ、留め糞を出した。

留め糞を出して暫くすると、猛烈に腹が減り始めた。


毎年、目覚めの餌は、倒木の影で育ったカブトムシの幼虫や行者ニンニクに根曲竹、

他にも色々と芽吹く春の恵みだ。


春って良いなぁ、旨いなぁ とむしゃむしゃする。


このカブトムシの幼虫ってのがまた旨い。

鼻でほじって爪で引っ掻いて倒木の下を攫う。

邪魔になったら倒木なんて爪でぺぃっと弾き飛ばす。

その下は取り放題だ。軽く探ればザクザク出てくる。

猪の奴も、重たい倒木の下までは手が出せない。

たんまり残っている。

ぷちっと言う音と共にミルキィな体液が潤びる。

おがくず臭いが甘い。 冬眠明けはこれに限る。


もし餌を食べてる最中に若い奴が迷い込んできたら、脅かして追い払う。

俺の餌場は俺のものだ、誰にも渡さねぇ。


と、そんな毎年だったのだ。


ところがどうだ、起きてみれば未だ斜面に雪が残り、春の芽吹き等ない。


一体全体何がどうなったんだ? 

地球温暖化はどうなんったんだ?寒いじゃないか。


老齢のオヤジは困惑していた。


腹は減る。餌は無い・・・

猪やリスが食べ残したドングリを鼻で探して食べる・・・

だがそんな物では腹は膨れない。


俺はオヤジだ。本来落ちてるものなど喰わない。

ドングリは木に実っているのを枝ごと毟って喰うもんだ。

この俺が拾い食いなんぞするなんて・・・

あ、カブトムシの幼虫は落ちてるんじゃなくて、そこに居るんだからな。

拾ってるんじゃねぇぞ。


あぁ腹減った。


・・・・

・・・

・・

「くそっ ついてねぇなぁ・・・」


「ゴルノ村が飢えてるってぇからよぉ、安い雑穀買い占めて高値で売ってやろうってよぉ

一足ちげぇでロハスの野郎に先越されるなんざ、兄ぃも焼きが回ったもんだよなぁ

でもよぉ、俺の人足代はきっちり払ってもらうぜぇ」

・・・解説ありがとう


「ちきしょうめ、ロハスの野郎、ここ最近調子こきやがって

あいつが米だ小麦だ、粟や稗の方は格安だなんて売っちまうから

全く売れなかったじゃねぇか てめぇの人足代なんて知るかってーの」


「おい、忘れた訳じゃねぇだろうな、人足代はきっちり証文書いて貰ったからな。

お白州に訴えりゃ、前科持ちの兄ぃなんざ島送りだぜ」


「前科持ちはおめぇも代わりねぇじゃねぇか・・・

いや、待てよ、ゴルノ村が飢えてるって話はハンターギルドの連中からの話だったよなぁ?

で、奴らん所には役場の天下りがいるじゃねぇか?

俺達ゃ善意で救援物資の米をな、届けに行ってるって事にしてな、

行きに盗賊が出て持ってかれたって事にすりゃぁ見舞金が出るんじゃねぇか?」


「兄ぃ、盗賊だと役人の調べが入るだろ、口裏を良く合わせねぇとボロがでるぜ?」


「じゃ盗賊じゃ無くて熊ならどうだ?」


「熊ぁ? 熊は未だ早ぇえだろ? あいつら毎年出て来んのは4月じゃねぇか

だから兄ぃも、熊はまだ出ねぇから安心安全だ なんて言ってたじゃねぇか」


「いやいや、聞いた話だけっどな? 穴持たずってぇ熊って奴もいるってよ」


「そうすっとオスの熊かい?」


「なんでぇそりゃ?」


「だって穴持たず・・・」


「バレネタ喋ってんじゃねぇ。 冬眠しねぇ熊公だ」


「冬眠しねぇ熊? そんなもんがいるのかよ? まさか出るんじゃねぇだろうな」


「出ねぇって、そんな沢山いねぇって~の 滅多なもんじゃねぇらしいぜ」


「兄ぃよ、疲れたなぁ」


「とっとと荷物を捨てちまうか。俺も疲れてきたぜ」


「兄ぃ、疲れてるからって俺の荷物を引っ張らないでくれよ、俺だって疲れてるんだぜ」


「馬鹿野郎、前にいる俺がどうやっておめぇの荷物を引っ張るんだよ」


「だってさっきからチョイチョイ引っ張るじゃねぇか」


振り返ると山オヤジが居た。

お兄いさん、落とし物・・とは言わない


腰を抜かす二人、倒れた拍子にこぼれる雑穀。


へぇ、お前ら旨そうな物持ってんじゃん。ちょいと喰わせろよ

背負子の雑穀を喰いだすオヤジ


背中の荷物を喰われて気が気でない子分。

「ひ・ひぇぇぇぇ」

腰を抜かしたまま這いずって逃げる。

その拍子に荷物が倒れて、雑穀はザラザラと音を立ててこぼれる。


オヤジは子分が逃げていく方向をみると兄ぃも腰を抜かして座り込んでいる。


へぇお前も旨いもん持ってんの?ちょっとソコでジャンプしてみろよ。

と近づいていく。


気が気じゃないのは兄ぃも同じ。

顔にオヤジの息が掛かる。

泡喰った兄ぃは懐からドスを出して刺さずに振り回した。


痛ぇ


ドスは熊の肉球を切り裂いた。


痛ぇえなこいつ。


オヤジは右手でドスを払う。近くにあった兄ぃの顔も・・・


吹き出る鮮血、飛び散る肉片。

オヤジは流れ出る血をなめようとした。


ぼりっ ・・・・うっかり噛んでしまった。


くちゃっくちゃっ


なんだ?こいつ、皮、超柔らかくてうめぇじゃん


あ?、こいつ何一人で逃げてんだ って足遅せぇな えいっ。


バシッ ・・・背中からのひと叩きで骨が折れて動けなくなる子分。


ずる、ずる、ずる ひきずられて兄ぃのそばに連れられる。


こいつら、いつも尖った太い針を飛ばしてくる奴らだよなぁ?

あの長いびよーんってする奴もってねぇとこんなに弱ぇえの?

なに?俺様最強じゃん?


かぷっ みち、みちみち・・ 

 

「痛ぇ、痛ぇ、痛ぇ、痛ぇよぉぉ」


うわっ皮やらけぇ 脂ものってるし、言うことねぇな

なんで今までこいつら狩らなかったんだろう。

良いおやつじゃん。

これから腹減ったらこいつだな。


「痛ぇ、痛ぇ・・・もう勘弁してくれ、痛ぇ、痛ぇよぉぉ」


かぷっ みち、みちみち・・ 


「あ、兄ぃ、もう大丈夫だ、い、痛くもなんともなくなった。

寒いけどよ・・寒い・・・さむ・・・」


ぼりっ ぼりっ ぼりっ


咀嚼音だけが森に響いていた。


うん、雑穀と肉、いい取り合わせだ。

のこりの一匹は土に埋めて明日のお楽しみだ。


兄ぃはこれでも修羅場を掻い潜ってきた人だった。

それが災いとなった。

気を失わなかったのだ。

これから自分にも起こることを、夢の中の出来事のように見つめていた。

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