第7話 弓を張り合わせた接着剤

「ねぇべるで、膠って接着剤は何処から手にいれたのよ?」


「オネェサマ、作ったのデス 膠の大まかな情報は有りまシタので、

こちらの「わーるど」に合わせて素材を厳選しまシタ

鹿の脚って皮つきで廃棄してマスよね それを使いまシタ。」


八尾は解体するとき、足は中足骨(膝より下)の部分は皮を残して処理する。

肉が無いからである。

埋める前に、そこから皮と腱を外して煮込む。

煮込んで、煮込んで、煮込んで、煮込む。


そして皮を捨てて濾したあと、さらに煮込んでトロトロにする。

平たい器に入れて冷ますと固いゼリーとなる。

干すとカラカラになるが、また煮溶かせば使える。


昔からある接着剤である。

「元側わーるど」・・・八尾の元居た世界の情報である。

が、同じものがこちら側にも存在する・・・らしい。


使ったのは、ほんの少しだが、作る手間は同じなので大量に作った。

短冊状に切ったものが、軒下に干されてカラカラになっている。


「ねぇべるで・・あんたアレとは連絡取ってるの?」

「わーるど」関連に直接アクセス出来なくなったアンは、べるでに聞いた。


「あれ・・・の事デスか?オネェサマ」

・・・なんの事だ?


「嫌そうな顔すんじゃないわよっ」

・・・表情に変化は見られないのだが。


二人は今お風呂に一緒に入っている。

もちろん薪の節約の為である。他になにがあると言うのだ・・・


先日、八尾の部屋の物について、色々聞いて一緒に調べた所、シャンプーとリンス、ボディソープが発見された。

さらに小さい石鹸まであった。

それらは消耗品なので、幾つでも取り出せた上に、端末右上の数値も減らない。

タダ、只、ロハであった。ホテルのサービス品だからだろうか?

大きな衣装ケースの中に段ボール箱が入り、その中に袋が、またそれがジップロックに入れられていたので

気が付かなかったのだ。

そう、やたらと階層が深い所にあった。


そして、それを使ってべるでが頭を洗っている。

湯船にはアンが浸かっている。

風呂にも慣れて、今はのぼせることも無い。


アンは頭を洗うべるでをジッと見ていた。

さらっとした深い緑色の髪の毛。

それを覆いつくそうとするシャンプーの泡。

髪の毛は長く、肝心な所はすべて髪の毛と泡で隠れている。 

・・・残念である。 もっとも文字であるから残念がる必要もない。


「アレには・・・たまに元側のわーるど情報を集めることをお願いしていたのデスが

・・・早く戻れとウルサイのデス。

なので、今はブロックかけてマス」


「えー、じゃぁ情報は手に入らないのね。」


「なにかお調べ事デスか?」


「う~ん、大した事じゃないんだけどね」


アンは八尾の部屋に気になっていたものがある。


「スリングショットって有ったでしょ?なんか言葉の響きとしてワクワクするのよ。」


「スリングショット・・・ですか、マイロードに直接伺った方がよろしいのデハ?」


「う~ん、タケルに聞くのも、なんか部屋漁ってるみたいでイヤじゃなくない?」

・・・どっちなんだ?


「あんたさ、やっぱりちょっと情報取ってくれない?」


「情報・・・デスか? あまり気のりがしまセンが」

手桶で頭を流しながら、べるでは嫌そうに言った。


泡はフワフワと側溝に流れて行った。

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