045

「そんな・・・おばあちゃん・・・。本気・・・なの!?」

ファムの言う爆裂の魔法なのだろうか・・・。物凄い熱量を感じる。それはまるで業火に包まれた隕石のように俺たちへと向けて飛んで来ようとしている。

「ワタシヲツカエ!!!」

俺の頭の中で声が響く。ああ、わかった。わかってるさ。俺は右手と左手の両方で宝刀を持ち、盾にする。こんなもので防げるようなものじゃない気がするのだが、それでも俺は声に従って宝刀を目の前に出す。

「はぁあああぁあああ!!!」

アスタさんは大きな声と共に炎の塊を俺へと飛ばす。絶望が俺へと近づいてくる。俺は目を瞑り、祈る。・・・俺たちを護ってくれ・・・フラガカリバン・・・。

炎の塊が宝刀に当たるその刹那に淡い緑のシールドが俺たちを包み込む。そして、炎の塊が弾けて消えてしまった。いや、印象的にはシールドに吸収されてしまったようだ。

「うぉあああぁあ。」

俺は驚いて腰を抜かす。助かった・・・助かったんだ。アスタさんを見てみると、驚いた様子ではあるが、意外というわけでもなさそうだ。

「アアアスタさん?む、無駄ですよ。俺には、こ、このほほ宝刀があります、から・・・。」

俺は思ってもいないことを慌てて言う。言わないほうがカッコ良かったのだが、テンパっていたのだ。

「なぜだ?なぜ、そんな奴を庇えるんだ!?御霊様よ・・・。お前はその宝刀の鞘が守護してくれることなんて知らないんだろう?死ぬのが怖くないのか!?」

「怖いよ!!怖いに決まってるだろ!!!」

俺は慌てて言い返す。死ぬのが怖くない人間がいるわけないだろう。俺なんてこんなことを言いながらも手はブルブル震えているし、いつだってこんな目に遭うたびにちびりそうだよ。

「それならよりわからぬよ。なぜ、庇えるのだ。」

「・・・信じているから・・・。」

「自分の強運を・・・か?」

「いや、アスタさんを・・・ですよ。」

アスタさんは俺の返答の意味をしっかりと理解したようだ。そして、いつもの呆れ顔へと変わっていく。

「・・・・・・バカだなお前は。バカだバカだ、大馬鹿者だなこの御霊様は。」

「・・・いや、そんな風に言われると、ちょっと・・・。」

「バカ孫にバカ御霊で、ほんとに呆れるわ!もういい!!勝手にせい!・・・おい!!誰か!!ルイスを懲罰房へ連れていけ!!!」

「ちょっと・・・アスタさん?懲罰房って・・・。」

「御霊様!罪には罰を与えねばならぬ。これは私も譲れん!!・・・だが、殺しはせぬ。これは御霊様へ傷をつけた詫びに対する大サービスだ・・・。もう、何もいうな。」

そう言って、アスタさんは舞台から去って行った。それに続くように神官がルイスを連れて行く。決して丁寧に運んでくれているわけではないのだが、アスタさんは殺さないって言ってくれたんだ。きっと大丈夫だろう。ふふ・・・それにしてもサービス精神が旺盛なんだな、アスタさんは・・・。

「ユ、ユウタさま・・・もう、こんなことはやめてくださいね。私・・・ユウタさまと本当にやっていけるか心配になってきました。」

ファムは震えながら俺に近づいてギュッと手を握る。

「俺だって、こんな命を張るようなことはもうたくさんだよ・・・。次はファム・・・俺をなんとか止めてくれよ。」

「フフ・・・フフフッ。はい、わかりました。・・・あ、でも。やっぱり難しいかもしれません。」

「・・・ん?なんで?」

俺は座り直してファムのほうを向く。ファムも俺の正面に改めて座り直す。

「私は、ユウタさまのそんなバカなところも好きだからです。」

ファムは俺の頬にキスをする。

「ファム・・・ここはほっぺたじゃなくって、口にするところだろ?」

俺は自分の口に指を指して催促をする。するとファムは予想外の俺の返しに顔を赤くする。

「もう!!みんなが見てるところでは絶対にしません!ユウタさまのいじわるーーー。」

気がついたら俺たちを囲むように観客が集まっていた。そこにはリーナもフィリアさんもいる。観客は何かを言っているが、なにを言っているのかがいまいちわからない。殺されなかった安心感と恐怖からの解放で俺は眠たくなってきたようだ。

「くっそ・・たく、ない。・・・ファム。・・・なんだ・・・っていう・・・ん・・・。」

「ユウタさま!?ユウタさま!!!しっかりしてください!!ユウタさま!!!」

俺はファムへと倒れ込むように眠りについた。


「・・・うぅ。」

目を覚ますと・・・ここは、あの部屋だ。初めてこの世界で死にかけてファムと一心の儀式の約束をしたあの、部屋だ。俺はその時と変わらず、ベットで寝ていて、足元のほうのベットにうつぶせて眠っているファムがいる。

「ファム?」

「ん・・・。すいません。・・・少し眠ってしまっていたようです・・・。」

「俺はまだ・・・こっちにいれる。みたいだね・・・良かった。」

俺は本当に安心をした。また、現世界へと知らない間に強制送還でご褒美もなくお預け状態になるのかと思ったのだから。ファムは椅子を俺に近づけて、すぐ横に座ってくれる。俺も少し起き上がるように座る。体がだるい・・・というか、クラクラする。オカシイな。宝刀のおかげで体は回復しているはずなのに・・・。

「ユウタさま?今回はちょっと出血量が多いみたいです。こちらの世界では純血種の人へ輸血できる者がいないので、どうしようもないみたいです。宝刀の治癒も血液を作ることはできませんので、完全に回復するには・・・あちらに戻る必要があるようです。」

「そう・・・なんだ。はは・・・結局は、か・・・。戻りたく・・・ないなぁ。」

「だめですよ。ちゃんと帰って体を治してください。このままこっちにいたら、本当に死んでしまいますよ?・・・私はまだ、死にたくありませんからね。」

「そうだよな・・・。はぁぁあぁ・・・。」

俺は深々とため息をつく。こんなのばっかりだな。いつまで経っても婚約式もできないし、ファムと約束した部屋で二人でお話しもできていない。次に目覚めた時はスムーズに儀式ができるのか・・・。なんだか嫌になっちゃうな・・・。

「どうしたんですか?ユウタさま。」

「いや、さあ。次に目覚めたら、また180度世界が変わっているとかってなってたら嫌だなぁって思ってさ・・・。儀式も本当にできるのかな?」

ファムは驚いたような顔をしている。そして、顔を赤らめて嬉しそうに、幸せそうに笑う。

「ユウタさま。大丈夫です。次に目覚めたらすぐに儀式を行いましょう。・・・ファムはユウタさまが目覚めた時には必ずすぐ傍におります。ユウタさまが次に目覚めるのが、たとえ、3日後でも、10日後でも、1年後でも、10年後でも、100年後でもずっとずっとあなたの傍で待っております。」

「・・・ファム。」

「ですから、・・・安心してお帰りください。・・・ユウタさまの顔、ひどいことになっていますよ。そんな顔を見ているファムは辛いです。早く元気になってください。」

ファムは寂しくはないのだろうか。まるで、俺を早くあっちの世界に帰したいようだ。・・・いや、悪く考えるのはやめよう。ファムは絶対に俺のことを思って言っているんだろう。ふうっと一息ついて、自分の腕を見る。すると、光の玉が薄っすらと出始めていた。送還へのカウントが始まっているようだ。

「もう・・・時間がないのか・・・。」

「あはは・・・よかったぁ。早く、帰らないと・・・し、死んじゃいますよ。・・・ほら?光の玉がたくさん・・・出てきてる。ふふっ。き、綺麗ですね。」

ファムは笑顔のままだけど、言葉を詰まらせながら言う。そんなファムを見ていると涙が溢れてくる。・・・俺は最近・・・泣いてばっかりのような気がする。

「帰りたく・・・ない・・・な。帰り・・・」

ファムは俺を抱きしめる。ギュッと力強く・・・。

「ユウタさま?・・・知っていますか?あなたが消えるときは必ずファムはあなたを抱きしめているんですよ?えへっ・・・もう幸せ、者。なん・・・だから!!」

俺は目を閉じる。あーあぁ。もう。ほんっとに可愛いな。もう、めちゃくちゃにしてやりたい。絶対にすぐに帰ってきてやる。すぐに帰ってきて即、婚約式だ。そして、ファムの家に行って・・・そして、そして・・・。

「・・・いってらっしゃいませ・・・。」

俺は弾けるように光の玉となって消えていった。

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