044

「アスタさん・・・だめだ!!ルイスを殺しちゃ・・・うぉあ!?」

俺はアスタさんがルイスへと近づく方向の前に出たのだが、アスタさんが手を振るとさっきほどではないが衝撃波が発生して俺は簡単に飛ばされる。ファムが俺を受け止めるように止めてくれる。

「ユウタさま!大丈夫ですか!?」

俺は心臓がドキドキとしていた。アスタさんの表情を真正面から近くで見たのだが、それはもう、めっちゃキレていた。怖い・・・死の恐怖を感じた。

「だ、大丈夫。・・・ファムは俺の後ろにいてくれ。絶対に、前には出ないでくれ。」

俺は宝刀をファムに見せて、これがあるから大丈夫とアピールする。ファムもそれをわかってか大人しく言うことを聞いてくれる。

「・・・はい。」

そんなやりとりの最中にもアスタさんはルイスの前に立ち、ルイスへ向けて手を翳している。横から見るその表情は冷淡で冷酷さを感じさせる。

「ああぁ・・・や、やめて・・・。くだ・・・。」

俺は慌ててルイスとアスタさんの間に入る。

「アスタさん。ダメだ。こいつは過ちを犯したのかもしれない。だけど、それくらいで殺すなんて、そんなのは間違ってる。だから・・・。」

「それくらい・・・だと!?」

アスタさんは俺の腹に向けて手を翳す。ドゥボン!!

変な音がした。にぶく、嫌な音だ。俺は体に力が入らなくなり、膝をつく。たぶん、あばら骨辺りの骨にヒビが・・・いや、最悪折れているかもしれない。

「ううぅ、ごぼぁ・・・。ああ。」

俺はそのまま血を吐きだす。気持ちが悪い・・・。頭がクラクラする。俺はアスタさんを見上げる。俺に対しても変わらない冷酷な表情を向けている。殺される・・・俺は本気でそう思った。

「大神官様!!お願いいたします。ルイスに弁明の機会をお与えください。お願いします。」

アスタさんはファムのほうを向く。ファムに対してもその表情は変わらない。

「・・・ファムよ。わかっているのだろう?転生石に手を出すということがどんなことなのかを。まさか・・・お前までそれを忘れたわけではないのだろう?」

「そ、それは・・・忘れては、おりません・・・。でですが・・・。」

ファムが震えている。実の祖母相手でも恐怖を感じているのだろう。だめだ!このままファムに相手をさせては俺みたいにやられてしまうかもしれない。俺はだんだんと痛みが引いていくのを感じて立ち上がる。アスタさんはルイスへと向けて手を翳したので俺は慌てて、右腕を差し出した。・・・ゴキゴリュ・・・。

「うわあああ!!!あああ、ああ!!」

俺の右腕がおかしな方向を向いている。異常な激痛が頭に響く。これがもし宝刀を持っている左手だったら・・・そう考えると俺は痛みの苦痛よりも死の恐怖に怯えてしまっていた。ファムは顔を真っ青にして、声も発せられないぐらいに固まってしまっている。俺の様子を見たルイスが小さく笑い出して吐き捨てるようにいう。

「クズの御霊よ。余計なことを、するな!!お前はファムさんとさっさとゴミ共と一緒に逃げればいいのだ。ぐぅ・・・ふう、ふう。」

こいつ・・・さっきまで怯えて死にかけてたくせに・・・。

「フフ・・・ハハッ。グッ・・・つう。お前の言うこと、なんて聞く、かよ。死にかけの神官は大人しく、黙ってろ・・・。」

「なん・・・ども、言わせるなよ!御霊ぁ!!俺を見下、すなぁぁ!!」

「ルイス!?やめて!!!」

ルイスは俺に左手を翳して俺を後ろから襲おうとしていた。だが、次の瞬間。ルイスの左手はおかしな方向に折れ曲がってしまう。

「グあぁああ・・・。」

ルイスはそのまま仰向けに倒れ、気を失ってしまったようだ。いや、もしかしたら死んでしまったのかもしれない。倒れているその姿は右腕、そして左手が普通じゃない方向へと曲がり見るも無残な状態になっている。アスタさんは止めを刺すかのようにルイスの頭へと向けて手を翳す。俺はルイスを庇うように体を出し庇う。

「御霊様、これ以上邪魔するのであれば、あなたも殺すぞ。・・・いいのかい?せっかく拾った命を無駄にするのかい?」

「アスタさん、俺は死ねない。だけど、ルイスを殺させるわけにもいかない。お願いだ。こいつにチャンスをあげてくれないか?・・・最後にもう一度だけ。チャンスを・・・。」

「御霊様よ。奴のさっきの行動に気づかなかったのか?お前を後ろから殺そうとしていたぞ!?そんな奴をなぜ庇う?罪には罰を与えるのが私の・・・大神官としての役目なのだよ。」

ファムはルイスの状態を調べている。少しほっとしたようにして俺を見て頷く。ルイスは何とか生きているいるようだ。だが、状態を考えると早く治療をしないとやばいかもしれない。俺は慎重に言葉を選ぶ。俺がアスタさんを説得できないとルイスだけじゃない、俺だけではなくファムにまで危害が及ぶかもしれないのだから。

「俺は、ルイスを殺すために決闘を受けたんじゃない!男として・・・ファムに手を出すこいつを懲らしめる為にやっているんだ。それをアスタさんがどんな理由があったとしても殺してしまったら何のために命を懸けたんだがわからないじゃないか!!」

「決着はもうついておる。その後に奴をどうするかなど、御霊様には関係ないであろう。さあ、そこを避けるんだ。」

「いや!!だめだ。できない。俺はファムに似たこいつをアスタさんに殺させるわけにはいかないんだ。たとえ、俺がここで死ぬことになっても俺はこいつをあなたには殺させはしない。絶対にだ。」

アスタさんは明らかな動揺を見せている。冷酷な表情から少しだけ変化が見られる。俺は、感じていたのだ。ルイスからファムに似たなにかを。それを俺は見過ごすことがどうしてもできないのだ。

「クク・・・何を言っておる。奴とファムが似ている・・・だと!?どこが似ているんだ!!こんな禁忌を侵す者とファムのどこが似ている?御霊よ。いい加減なことを言うなよ!!心して答えてみよ!!」

俺は目を瞑り、考える。とりくつろった言葉じゃない。本当に、俺が感じたそのままのことを言葉にする。

「・・・ルイスとファムは同じ信念の強さを持っています。ファムがそうであるように奴にも強い信念、いや、願いがあってそれを叶える為に、目的を達成する為に死にもの狂いで生きている。確かに、ルイスが取った行動は非道でクズとも思えるようなものだったけど、きっとなにかがどこかで掛け違えてしまっただけなんだ。だから、もう一度、ルイスにチャンスをあげてくれ。お願いします。」

アスタさんは少し考えている。そして、ふぅっと一呼吸を置く。

「話にならないな、御霊様よ。避けないのであればお前もルイスと共に死んでもらおう。」

アスタさんはゆっくりと右手を上へと上げてなにかを唱えている。ファムはルイスを抱えるように、俺は二人を庇うように手を広げる。

「まとめて死ぬがいい!!」

アスタさんは俺たちに右手を向ける。アスタさんの体中から炎が溢れ右手の前で一つに集束している。アスタさんの瞳は真っ赤に輝いていた。



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