043
・・・・・・声が・・・聞こえる。誰だ!?五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。もう体中が痛いんだ。もういいだろう。俺は頑張ったと思う。だから、そんなに!!騒ぐなよ!!・・・何の名前を?・・・・・・。今度はなんだ?ドンドンドンドンと壁を叩くような音が聞こえる。誰だ!?五月蝿いな。俺は、寝てるんだから、ん!?母さんか!?起こすなって俺、言ったじゃないか・・・。なんで、ったく。・・・うるせーな。ガンガン!部屋の扉を叩くんじゃねーよ。
「わかったから・・・。いま、起きるよ・・・。」
俺が目を開けると、俺のすぐ後ろでファムが結界を叩いて叫んでいた。泣きながら、がむしゃらに結界を叩いている。
「ユウタさまーーー!!嫌です!!死なないで!!!お願い・・・ユウタさまーー!!」
会場は静まり返っていて、ファムの結界を叩く音と声だけが響いている。くっそ!なんか変な夢を見ていたようだ。気を失っていたのか!?だんだんと記憶が戻ってくる。体は相変わらずに痛い。だけど、まだ動く!!まったく、自分のタフさに呆れるようだ。俺はファムのほうを見て、叩いている手に合わせるように結界越しに手を当てる。ファムは俺のその様子に叩くのをやめて同じように手を合わせてくれる。ファム・・・手、傷だらけじゃないか・・・。まったく、無理、してさ。
「ユウタ・・・さま。・・・うぅ。ん。」
ファムはもう降参して欲しいと言いたそうだが、ぐっと我慢してくれている。俺はそれがとても嬉しかった。こんなボロボロでもファムも俺をまだ信じてくれているんだ。そんなことを思うと力がみなぎる様だ。ルイスのほうを向くとルイスもフラフラではあるが、それでも今は余裕をみせるようにヤレヤレと呆れた態度を取っている。そして、俺は宝刀の場所を確認する。俺から離れて左端のほうに転がっている。あの距離ならこの体の傷では走り込んで行っても、途中で魔法でやられてしまうだろう。そうなれば回復もできずに俺は・・・。だとしたら・・・もう、ルイスに突っ込むしかない。詠唱を始めたら真っ直ぐルイスへと向かって一気に決めるしかもう手がない。
「御霊よ・・・そこから、離れてもらえないかな。結界があるとはいえ、あなたの止めを一気に刺すほどの威力を打ち込むとなるとその衝撃でファムさんに怪我をさせてしまうかもしれないだろう。」
俺はファムのほうを見ると、ファムは首を振る。ここから動くなということだろう。ファムはそれを見越して俺の傍にいてくれているのか。
「お前にもファムさんを想う気持ちがあるのなら、・・・巻き添えに、するなよ。死ぬのは・・・御霊、お前だけだ!!」
そう言ってルイスはゆっくりと詠唱を始める。本当に一気に決める気だろう。
「ファム・・・聞こえる?」
俺は小さい声でファムに語りかける。
「はい・・・ユウタ、さま。」
「俺は勝つよ。大丈夫。行ってくる・・・。・・・終わったらさ、盛大な、婚約式・・・やろうな。」
「・・・・・・。」
ファムは涙を流す。だけど、そうなりながらも笑顔を作ってくれる。
「はい・・・。・・・早く帰って、いちゃ、いちゃ・・・しましょう。」
相変わらずの可愛さにほんと惚れ惚れするよ。俺は詠唱途中のルイスに向かってフラフラと走り出していく。体中が痛い。走るだけで、痛みが巡って意識が飛びそうになる。それでも、後ろで俺を信じてくれているファムがいると思うと我慢ができる。俺は無我夢中だった。あのニヤついたルイスの顔に一発入れてやりたいと、それだけで必死だった。
『ワタシノナマエヲヨベ!!!』
何かに俺は呼ばれるような声を確かに聞いた。夢で聞こえた声なのか!?俺は声が聞こえたと思うその方向へと目をやると、宝刀が淡く光っていた。お前なのか!?宝刀が俺に語りかけてきたのか!?・・・信じられない!ありえない!!・・・でも、ありえないことなんてないだろう?ここは現世界とは違う!!異世界じゃないか!俺の常識なんて通じるわけがない。だったら今聞こえた声だった気のせいじゃない!!現実なんだろ!?
俺はその声に従うようにその名前を呼ぶ。護神の宝刀の名前を力強く叫ぶ!!
「フラガ!カリバン!!!俺の元にこい!!!」
宝刀は俺の声に呼応するように俺の左手へと飛んできた。俺はそれをしっかりと掴む。宝刀を掴んだその瞬間、体中の痛みが消えていき、傷が一気に回復していくのを感じていた。最初の時のゆっくりな回復ではない。ゲームで例えるならポーションでの回復じゃないもはやエリクサーレベルの回復量だ。俺の回復していく状態を見たルイスは左手を俺に翳してあの見えないなにかを俺に飛ばしてきたようだ。
「避けるんだ・・・。できるはずだろ!!」
避けるんだ。避けるんだ!!避けるんだ!!!俺はこんな感じの練習をしたなにかを思い出す。なんだったのかは正確には思い出せない・・・。だけど、俺はどこかで目では追えないなにかを俺は必死に避けようとしていたはず。その時は3回とも首に打撃を受けてしまったが、なんとなくでも掴んだはずだ。その感覚を!どうやっていたのかの記憶はない。感覚しか残っていない。でも、できるはずだ4回目はきっと避けられる!!俺は目を閉じて集中をする。のど元にまで何かが接近する気配を感じるんだ。俺はハッした瞬間にクルリと横に回転をする。今、確かになにかを避けた感じがそこにはあった。目には見えないなにかを俺の横を過ぎていくような感覚が。俺は回転したあと、そのままルイスへと突っ込んでいく。そして・・・。
「おらぁあぁーーー!!」
右腕を杖ごと粉砕して横っ腹に宝刀を打ち込んだのだった。当然に杖は折れ、ルイスの右腕もおかしな方向を向いている。魔法の詠唱中で無防備だったためかなりの一撃を加えることができたのだ。俺の渾身の攻撃にルイスは膝をついて、倒れそうになるが左手で体を支えてなんとかまだ持ちこたえている。だが、動くことはできないようだ。
「がは・・・あぅああ、ああ・・・。」
ルイスは血を吐きながらも、倒れないように堪えている。もう、さすがに決着だろう。俺は宝刀のおかげで体の傷はほぼ治りかけている。ルイスは杖も折れ、右腕は変な方向へと曲がりもう戦える状態ではない。
「貴様は・・・なん、なんだ!?貧弱な・・・ただの純血、種じゃ、ないのか!?」
ルイスは倒れそうになりながらも叫ぶ。
「俺があの神の力を、手に入れる為に・・・どれだけの時間を!!あれさえあればこの世界、にィー・・・俺はぁ!!貴様はなんなのだ!!俺の邪魔を!!世界の邪魔をしや、がって!!!」
「・・・・・・。」
俺はなにも言わずに宝刀を左手に持ち替えて構えをやめる。
「ルイス、降参しろ。俺はお前を殺すつもりはないよ。ファムとの儀式を取り下げてくれればそれでいいんだ。だから・・・」
「貴様は!!あの時、死ねば良かったのだ!!戦場へと召喚されてそのまま死ねば良かったのだ!!!なぜ!?なぜ、戻ってきた!!!俺がぁ!!禁忌とわかっていても、死ねるようにやってやったんだ!!!なぜ死なない!?貴様ら、御霊とはいったい・・・なんなのだ!!」
「・・・俺に聞くな、ルイス。それは俺も知りたい所だよ。」
ルイスは、はぁはぁと苦しそうにしている。このままじゃ、本当に死んでしまうかもしれない。MC神官に言って俺の勝利宣言をしてもらおう。そう思った瞬間。結界が激しい音を立てて破壊された。地震か!?足元が揺れている。それだけではない。空気も振動しているようだ。
「ルイス・シーザー・・・貴様・・・転生石に干渉したのか!?」
アスタさんが物凄い形相で舞台上へと上がってきた。それは、もうあのファムと仲良さそうにしていた感じではない。まさに鬼・・・いや、修羅とでもいうのだろうか、とんでもないオーラを放っている。
「アアア、アスタ、さん?ちょっちょっとまだ、決闘は、終わって・・・。」
俺は言い終わる前に、前方からの衝撃波みたいのに飛ばされて舞台から落とされてしまった。アスタさん、あんたがやったのか!?それは物凄い衝撃で俺はまったく抵抗ができなかった。舞台の下でうずくまっているとファムが駆け寄ってきて俺を起こしてくれる。ファムの顔はとても強ばって絶望に震えているようだった。
「ファム?アスタさん・・・どうなってんの!?なんかめっちゃキレてるよ!!」
「ユユ、ユウタさま。逃げましょう。ここここに、いたら、おばあちゃんに・・・殺されてしまいます。」
「は!?なんでさ。なんで俺たちが殺されなきゃ、いけないのさ!!ねえ、ちょっと!!ファム!?」
ファムは恐怖からか、震えて何も言えずにいる。周りの観客も我先にと逃げ出そうとパニックになっている。・・・いったいどうなってんだ!?
「御霊様、大丈夫ですか!?」
フィリアさんとリーナが俺の傍まで来てくれていた。リーナもファムと同様に震えている。
「フィリアさん?これ、どうなってるの??アスタさん、めっちゃキレてる。」
「御霊様。大神官様は転生石の最重要管理者で転生石を神と崇拝するほどに信仰しております。それにルイスは干渉したのかもしれません。それは大神官様にとっては神の領域を侵したのと同然で・・・。」
「え!?うそうそ、じゃあ、なに?まさか、アスタさん・・・。ルイスを!?」
フィリアさんは目を伏せて頷く。ルイスが殺される・・・アスタさんに・・・。俺は急いで舞台へと上がろうとするがリーナが必死になって俺を引っ張る。
「だめだめだめー!!!やめて!!おにいちゃんもころされちゃう!!もうむりなの。だいしんかんさまはだれにもとめられないの。」
「いや、だって。このままじゃ、ルイスは・・・」
「御霊様!!転生石への干渉は神官としては御霊殺しに続いての禁忌なのです。それこそ、その場で処刑されてしまっても文句は言えません。そんな罪人を庇えば、あなたも同罪と見なされてこ、殺されてしまいます。あなた望みはこんなところで死ぬことではないのでしょう!!?もう忘れてしまったのですか!?あなたが死んでしまったらファムは!?どうするんですか!!」
・・・だって、だって・・・。ルイスが今、目の前で殺されてしまうんだぜ?ファムのおばあさんのアスタさんに・・・。そんなこと見過ごせっていうのか!?俺は、俺は。・・・できない。俺はリーナの手を外して、舞台に登ろうとする。すると、ファムが俺を制止するようにふわっと浮いて舞台へと上がり俺を見つめる。
「ユウタさま。・・・私も行きます。いいですよね?」
「ファム・・・。」
「ファムちゃんまでなにをいっているの?だいしんかんさまなんだよ??いくらファムちゃんのおばあちゃんでも、ファムちゃんこころされ、ちゃうよ!!」
ファムはふぅっと一呼吸を入れてフィリアを見る。
「フィリア様、リーナを連れて避難してください。おばあちゃんの爆裂の魔法が最悪、発動したらこの会場は消えてなくなってしまうかもしれません。」
「ファム!?ダメよ。何を考えているの!?やめなさい。一緒に逃げるのよ。」
ファムは俺の顔を見てニコっと笑い、言う。
「フィリア様?・・・私はもしかしたら自分にできることが、ユウタさまの為にできることがまだなにかあるのかもしれません。そう思ったらもう、私は、ユウタさまと共に行くことしか考えられないんです。・・・ごめんなさい。」
「・・・ふぅ。ファム。ありがとう。わかってくれてるみたいだね。行こう!!」
リーナは必死に抑えていた手を離してくれた。それを見て、俺も舞台上へと上がる。舞台の上では、恐怖に怯えて座り込み後ずさりしているルイスがいる。そして、体の周辺から火花が弾けるようにオーラを放出し続けるアスタさんが少しずつルイスへと近づいている。本当の最終局面はこれからのようだ。
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