042

正面から飛んでくる空気弾は宝刀で弾き背後からくる空気弾は勘で避ける。だが、飽くまでも勘なので完全に避けられるわけではなく、腕や足をかすったり当たったりもしている。だけどこれでいい。致命傷にさえならなければ謎の回復で痛みは引いていく。あっという間に距離を詰めた俺はとにかく宝刀を打ち込む。ルイスが手を翳すとやはりなにかに阻まれ、さっきと変わらない。

「くっそ!お前!なんなんだよーーそれは。」

「それは僕が言いたいところです。あなたはただの御霊ではないのか!?」

だんだんと腕が疲れてくる。場所や位置を変えながら巧みに動くルイスを追いながら、脇差サイズとは言え、鞘付の刀を振り回しているんだからそう長くは続かない。そろそろ、なんとかしなくては・・・。っと、俺はここであることに気づく。ルイスは右手で持った杖を絶対に離さないのだ。それは右手で持っている杖では一切のガードをせずに、左手を翳して俺の打ち込みをガードしているんだ。それは、どんな態勢になっていても必ずだ。・・・これは、ちょっと・・・試す価値があるんじゃないのか?俺はとにかく思いついたことをやってみることにした。

「おらぁーーー!」

渾身の力で右胴へと打ち込むと当然のように左手を翳してガードする。俺はその瞬間にルイスの持っている杖を蹴り飛ばす。不意を突かれたのかルイスは杖を手放してしまったのだが、左手を伸ばすと飛ばされた杖が空中で停止している。

「ここだぁ!!」

俺は倒れそうな態勢から体をひねって再度右胴へと宝刀を打ち込んだ。

バキッ・・・ぐりゃ・・・。鈍い音が聞こえる。綺麗に決まった右胴はルイスの体にめり込んだ。俺は確かな手ごたえと嫌になる感触を感じていた。正直、気持ちいいものではないのだ。人の体に刀を打ち込むなんていうのは・・・。

「がはぁ・・・あうぅ。・・・ふぅふぅ。」

空中で停止していた杖は床へと落ちて、ルイスは膝をついて崩れる。

「ルイス、負けを認めろ・・・。手負いのお前じゃ、たぶん・・・俺には勝てない。だから・・・」

ルイスは俺を睨みつけながら歯を食いしばる。

「貴様・・・貴様などにこの俺が・・・。」

「ルイス・・・。」

「ゴミクズがぁぁーーーー。この俺を見下すなぁぁーーー!!!」

張り裂けんばかりの声で叫んだと思ったら、俺は見えないなにかに足を掴まれて逆さづりにされてしまった。くっ油断した!?ルイスは俺に右手を翳していたのだ。左手ばかりに集中していたのがアダになってしまった。ルイスは俺をそのまま床へと叩きつける。頭や体が地面に叩きつけられ、俺は激しく出血をする。何度も何度も俺は叩きつけられて、血が噴き出て床は血まみれとなっていく。

「キャーーーー!!やあ、やめてーー!!!」

誰かが叫んでいる。俺はそれが誰なのかも判別できないくらいにダメージを受けているようだ。・・・回復はしている・・・。しているんだが、それ以上のダメージに回復がついていかないのだ。痛みは既になくなり、俺の意識は朦朧としていた。ルイスは俺を投げ飛ばして、膝をつく。ふり絞った力を使い切ったのか、動けないでいるようだ。俺は・・・辛うじて生きている状態。だが、やはり体は徐々に回復をしている。もう少し、このままでいればなんとか・・・また、立ち上がれるところまで・・・。俺はふと、宝刀の鞘が淡く光っていることに気が付いた。もしかして、これが俺を回復してくれているのか!?俺がそのことに気づいたのと同じくして、ルイスもそのことに気づいたようだった。

「フフッ。・・・そうか・・・それなんだな。」

ルイスは這いつくばりながらも杖拾いに行き、フラフラになりながらも詠唱を始める。そして、頭上に文様が現れた。

「く・・・そ。」

俺はまだ動けない。体の感覚は戻ってきている。だが、まだ足が動かない。

「これで、終わりだ・・・。」

ルイスは杖を翳すと、文様から空気弾が発射される。その空気弾は俺にではなく宝刀を狙って放たれたようだった。宝刀に当たる空気弾は弾けて消えるのだが、それ以外の空気弾は俺の腕や周辺の床へと当たり、その衝撃で俺は宝刀を手放してしまう。

「がぁああ、ぐぅうう、あああ!!!」

宝刀を離してしまった俺は体中から痛みを感じる。ゴロゴロと転がりその痛みを耐えている。なんだ・・・急にどうしたんだ。俺は・・・。

「まさか、貴様も方術を、使っているとは・・・思わなかった・・・姑息なみた、まぁ。だが・・・これで終わりだ。貴様は死ぬ!!・・・俺が、殺す・・・。」

俺はルイスを睨むように見る。体の痛みが止まらない。回復は完全ではないのだろう。それでもなんとか膝をついていられる状態だ。まだ、諦めない。俺は死ねないんだ。俺のその様子に勝利を確信したのかルイスがニヤリと笑う。そして、杖を翳す。次の瞬間、文様から空気弾が発射された。ダン!ダン!ダン!!・・・俺に全て命中する。俺はその衝撃に飛ばされるように結界の端まで吹き飛んで行った。そして、意識を失ってしまった。

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