040

『えー、それでは、今回は異例の異例ですが、神官と御霊様の私怨による決闘を行います。この決闘においては、戦闘続行が不可能と判断された場合。降参した場合。死んでしまった場合においてのみ決着となります。本来、神官は御霊様を殺めてしまうことは禁忌ですが、この決闘においてはその例外となります。』

一部の観客はザワザワしている。すべての人がこの取り決めを知っていたわけではないようだな。

『観客席からはもちろんですが、舞台上への干渉を防止するために結界を張ります。これにより、逃げることも外部から助けることも叶いません。とことんやりあってもらいましょう。』

オオオオオー。観客が盛り上がっている。客層を見てみるとだいたいは荒っぽそうな獣人や大人の住人だ。女性はあまりいない・・・かな?いや、そんなことはないか。よく見ると、リーナとフィリアさんが見に来てくれている。リーナは俺が気づいたことがわかると大きく手を振ってくれる。

「ははっ。ちゃんと来てくれたんだな・・・。さて、良いとこ見せるか・・・。」

俺は舞台上へと上がる。それを確認してルイスも舞台上へと上がってきた。ルイスは防具こそ装備しておらず、神官服にルイスの館で使っていた杖を持っている。まさか、あの服の下はガッチガチの重装備ってことはないよな・・・。俺は勝手に重装備をしてくることはないと決めつけていたので、急に不安になってきた。ルイスは俺のそんな浅はかな不安に気づいたのか、神官服を軽く開き、中に何も防具が無いことを見せる。・・・チッ。意外にフェア精神を持ってるじゃねーかよ。

俺も負けじと自分の服を叩いてみせ、防具がないアピールをする。ルイスの顔がニヤリと歪む。その表情に俺はゾクゾクっと悪寒が走るのを感じた。

『それではー、決闘スタートの前に。マイクアピールでもしてもらいましょうか?今回は強力な結界を引きますので若干のお時間を頂きます。その間、せっかくなのでお二人に意気込みを頂きましょう。』

MC神官はそう言って舞台上から降りて、マイクをルイスのほうへ投げる。それを見た結界神官が念入りに結界を張り始めた。ルイスは普通にマイクを拾い、しゃべろうとしている。・・・慣れてんなぁ、なんか。

「えー、僕は今回ぜひ御霊様に勝って、ファムさんと一心の儀式を執り行いたいと考えています。御霊様に手を挙げるなんてことは神官である僕が決してやってはいけないこと・・・。それは重々承知しております。」

何言ってんだよ、こいつは。館で散々俺にリンチしてくれちゃってたのによ。

「ですが、あのファムさんを手に入れるにはこれしかなかったんです!僕はこの決闘が終わり、儀式が終わったら、魔王討伐へ向かいます。この世界を揺るがす魔王を神の力を持つとも言われるファムさんを使い、二人で打ち倒し、この世界に永久的な平和を取り戻します。それを達成するためにまずは・・・御霊様。あなたには倒れてもらいます。ご覚悟を。」

オオオオオオーーーー。会場が歓喜に満ち溢れていた。魔王を倒す。きっと今のこの世界にとってはとても重要で最大の悲願なんだろう。・・・中には涙まで流すじいさんがいる。だが、俺は・・・腹が立っていた。こいつ!!ファムを・・・道具みたいに言いやがって・・・。ルイスは俺にマイクを放り投げてきた。俺はマイクを拾い考えながら言う。

「あー、テステス。えっとー。・・・とりあえず!俺はルイスをぶっ倒します。」

会場がザワつく。なんだあいつみたいな空気がバンバン伝わってくる。

「それで、ファムと二人でいちゃいちゃしながらこの世界で生きていきたいと思います。魔王とかは・・・ちょっと。うーん。今は騎士様にお願いできればいいかなって思います。俺じゃ、ちょっと・・・ねぇ。」

俺はファムのほうをみてみる。ポカンとしてこっちを見ていたファムは俺と目が遭って慌てて顔を下げる。一瞬見えた顔は赤くなって恥ずかしそうだったが、怒ってはいないようだった。

「チッ・・・ゲスが・・・。」

ルイスが小さい声で言う。

「まあ、なんにしても。俺はファムを愛しています。それを邪魔しようとする野郎を男としてぶっ倒す。それだけです。以上!!」

・・・会場が沈黙している。お笑いで言うならダダすべり状態。

「おにいちゃん!!いいぞーーー。かっこいいーーー!!」

リーナが声を上げる。それにつられておぉおーー?程度の歓声が上がる。良いことを言っているんだかクズなのかがわからないようで会場全体が困惑しているようだ。俺はマイクをMC神官へと投げてルイスをみる。ルイスの表情は敵意に満ちていて、もはやマイクでしゃべっていた時のような余裕面ではない。

『さあ、結界も張り終わったようです。・・・それでは、スタート!です。』

俺は鞘をつけたまま宝刀を構える。ルイスはニヤニヤと笑いながら俺に近づいてきた。ルイスは魔法が使えない。だから来るのは直接攻撃がほとんどのはず・・・。警戒をしていると、ルイスは詠唱を始めた。

「え・・・?」

ルイスの頭上に文様が現れてそこから空気弾みたいななにかが発射されてきた。

「うぉあっと。ウソだろ!?」

俺は必死に避ける。舞台に当たった空気弾は軽く床面を壊して割れている。・・・やばいかも・・・。ちょっと冷や汗が止まらなくなってきたぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る