039

舞台上ではルイスが自身で用意した椅子に座って決闘が始まるのを待っている。俺は舞台の下で、ファムと並んで椅子に座っている。時折、こちらを見て歪んだ表情を浮かべる。こんな奴にファムを渡すわけにはいかない。ファムは俺の隣にはいるが、俯いている。さすがにルイスを前にいちゃつくわけにはいかないからな。開始の時間にはまだなりそうにはないな。少し前からやっとぞろぞろと観客も入り始めている所だし。

「ふぅ・・・緊張してきた・・・。」

「大丈夫です。ユウタさまならきっとやれます。」

ファムは俯いたまま、ルイスにわからないように返事をする。俺は観客を見たり、舞台上のルイスを見たりと落ち着かない。すると、奥の入り口から出てきたアスタさんが俺の方に真っ直ぐ近づいてきた。ルイスはアスタさんに一礼をしてそのまま見過ごす。

「御霊様・・・少し、よろしいか?」

「え?あ、はい・・・。」

俺はアスタさんに連れられて控室のほうまで戻ってきた。ファムはアスタさんに制止され、そのまま会場のほうに残っている。離れているとはいえ、ルイスと同じ空間にファムを置いてくるのは心配だったが、アスタさんの様子を見るとそんなことを言わせてもらえない雰囲気があったので仕方なかったのだ。俺とアスタさんは控室に入り、二人で向かい合って立っている。すぐになにか言われるのかと思っていたんだけど、妙な沈黙が続いている。俺は堪らず・・・。

「あの!?アスタさん?・・・なにか、用でも・・・。」

「・・・・・・。」

「えーーっと、ファムが心配なので、戻りますね・・・。ははっ・・・。」

「御霊様・・・。・・・申し訳ございません・・・。」

アスタさんは突然俺に頭を下げる。俺はアスタさんに謝罪をされる覚えがなく、慌てる。むしろ、宝刀を融通してくれたんだから、俺の方から感謝こそあっても謝られることはないんだけど。

「今回は私共の不注意で御霊様を危険な目に遭わせてしまいました。神殿の管理者として深くお詫び申し上げる。」

「・・・危険な目?」

アスタさんは顔を上げて、一呼吸置く。

「あの日、戦場へ・・・召喚されたのでしょう?」

「・・・ああ、あれか・・・。」

フィリアさんの話では御霊が召喚されるのは転生石の周辺だということだったのだがあの日、俺は遠く離れているであろう戦場へと飛ばされていたんだ。

「本来はそんなことは絶対にないのです。過去1度としてそんな事例はありませんでした。原因はわかりませぬ。唯一の可能性と言えば、誰かが転生石になんらかの干渉を行ったかもしれないということだけなのです。」

「・・・干渉・・・。」

「だとしても、戦場へ送り出すような真似ができるとは思えません。あの転生石はそれだけの力がありますゆえ・・・。」

「そうなんですか・・・。」

「ですが、御霊様を危険な目に遭わせた事実には変わりません。このアスタ、心から謝罪をさせて頂きます。」

アスタさんは、また深々と頭を下げる。俺はその姿に圧倒されて、慌てて手を振る。

「アスタさん。大丈夫です。・・・もう、いいんです。むしろ、感謝しているんです、俺は。」

アスタさんは顔を上げて、驚いているようだ。

「あのできごとがあったおかげで俺は自分を知ることができました。・・・まあ、結果論として生き残れたから言えることかもしれませんがね。ははっ。」

俺のあっけらかんとした態度にアスタさんから笑みがこぼれる。そして、はぁ~と手を振りながら呆れた様子を見せている。

「・・・フフッ。・・・そうかい。それならもう、謝罪はせんぞ。・・・それにしても、御霊様は次から次へと命を懸けるのがお好きなようだな?今回は前みたいな偶然は起きないかもしれませんぞ?」

「ああ、そうですね。でも、命を懸ける価値がある決闘です。・・・あ、宝刀・・・ありがとうございます。だめかなぁって思ってたんですけどね。」

アスタさんはニヤニヤとして笑う。

「それは、御霊様への謝罪を込めての大大大サービスだ。本来なら絶対に渡さんよ。あんなゴーレムに勝ったくらいではな。」

「おおう。あっぶないなぁ。あれも結構、命張ってたんだけどなぁ・・・。」

俺は手に持っている宝刀を翳して見ていると、アスタさんは悲しそうな顔をして宝刀を見つめる。

「・・・それはな・・・私の娘の形見・・・なんだよ。」

「・・・え?・・・それって。」

「ファフニールの両親の形見だ。・・・そう簡単に、人に渡すものか・・・。」

ファフニール・・・いや、ファムの両親の形見か。ファムはそれを知っているのだろうか。いや、あのファムのことだから知らないはずはないだろう。

「湿っぽい話は終わりだ。御霊様よ、せいぜい・・・頑張りなされ!・・・死んだらその宝刀は返してもらうからな。」

「ははっ。そんなことを言われたら死ねないなー。ぜひとも持ち帰ってファムに渡してやりたいからね。アスタさんにまた保管でもされてしまったらもう出してもらえなさそうで、ファムが悲しむ。」

「そりゃそうかな。あっはっはーー。」

「はははっ。」

俺はアスタさんと舞台会場へと戻っていった。ん!?舞台上にいたはずのルイスがいないぞ。どこに行ったのかと会場を見回す。ルイスは俯くファムの横に立ち、なにかを言っているようだ。俺はルイスがファムの近くにいるというだけで嫌な気分になる。慌ててルイスへと詰め寄る。

「おい、ルイス!!ファムにちか・・・」

「ルイス。そろそろ時間じゃないのか?お前の場所はあっちだろう?ほら、さっさといかんか。」

俺が言い終わる前にアスタさんがルイスに強く言ってくれた。

「・・・・・・はい。只今。」

ルイスは渋々俺たちとは反対側の椅子へと向かう。俯いたままのファムが心配になり俺はファムに触ろうとすると。

「御霊様。決闘はまだ終わってはおりませぬ。ファフニールに触れてはいけません。」

「え!?あ、・・・そうだね。」

決闘に俺が負ければファムはルイスと儀式を行うことになる。そうなったときのことを考えれば決闘前にみんなのいる前で俺が気安く触るわけにはいかないってことだろう。俺は椅子にドスっと座り、腕を組む。触るなって言われたら、余計にファムに触りたくなるじゃないか・・・。

「ユウタさま、安心してください。私は大丈夫です。ユウタさまのこと、信じています。」

ファムは俯いたまましゃべる。俺はほっとして腕を下す。ファムの顔は見えないがきっと笑ってくれているだろう。

「それでよい・・・。それでは、そろそろはじめようか。」

アスタさんは舞台上へと上がり、声を張り上げる。

「これより、御霊様と神官ルイスの決闘を執り行う。皆の者はすべてこの決闘の証人だ。心して行く先を見届けよ!!」

例のMC神官がマイクを持って舞台にあがる。・・・さあ、始まるんだ。決闘が。

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