038

俺はファムと一緒にリーナの家へと向かっている。もちろんファムと腕を組みながらだ。もう薄暗くなってきているので、腕を組んでいたって周りからはわからないだろう。さっきのシャワー事件のあと、俺は全身にかいた汗を流すためにもう一度シャワーに入ったのだ。おかげで予定よりも時間が掛かってしまっていたんだ。ファムが何を言っていたのかは後で改めて聞いたのだが・・・。ファム・・・お互い様とか、もう女神過ぎる、・・・俺は絶対に死ねないっと心から思った。

コンコン・・・。ファムがリーナの家の玄関をノックする。フィリアさんが笑顔で出迎えてくれた。俺はファムがリーナの家に入ろうとしたのをみて思い出す。そういえば、視線・・・感じないな。俺は今回こっちの世界にきてからあの、強い視線を感じてはいないのだ。結局、何か手出しをしてくるわけでもなく、ただただ、見つめているっていう不気味な視線。ルイス・・・だとするなら今日の夜に俺を殺せるから、もう監視の必要がなくなったっていうことなのか。

「御霊様?どうしました?どうぞ。」

俺はフィリアさんに促されるまま、家の中へと入って行った。


「おにいちゃん?ファムちゃんとなかなおりできたんだね。・・・よかった、ね?」

リーナはなんとか笑顔を作って言ってくれる。ごめんな、リーナ・・・。

「あ、リーナね。アカデミーのしゅくだいがあるの・・・。ちょっとおへやにいってくるね。」

「あ、リーナ・・・。」

ファムが声を掛けようとしたが、そそくさと部屋へといってしまった。フィリアさんが俺とファムにお茶を用意して持ってきてくれる。

「すみません。ファム、御霊様。今日の所は察してあげてください。」

「はい・・・。」

俺とファムは出されたお茶を頂く。美味しいな。ファムの家で飲んだお茶と同じくらいの美味だ。同じものを使っているのだろうか?

「フィリアさま。色々とご迷惑とご心配をお掛けしました。私はもう大丈夫です。ユウタさまとこれからも一生、離れることなく添い遂げたいと思います。」

「そうですか。お二人とも本当の意味で覚悟ができたのですね。」

「はい。フィリアさんに、リーナに、ファムに教えてもらったたくさんのことを胸に俺、奴を懲らしめてやりますよ。」

「フフッ。その意気です。・・・でも、ルイス・シーザーは強敵です。神殿内では魔法を使えない唯一の神官です。それでも、トップクラスの実力を持っているのですから、生身では絶対に敵わないでしょう。」

ファムは目を伏せて俺の腕をギュッと掴む。

「はい、わかっています。それで・・・、お願いしていたものは・・・。」

「はい。大丈夫ですよ。」

ファムは首を傾げている。フィリアさんは後ろに置いてあった木箱を持ってテーブルの上に置く。それを見たファムは驚いていた。

「フィリアさま!?これは、もしかして・・・。」

「あなたたちが命がけで手に入れた・・・護神の宝刀フラガカリバン。」

「フィリアさま、なんでこれがここに!?」

「ファム、俺がフィリアさんに頼んだんだ。アスタさんにお願いしてほしいって。・・・うまくいくかはわからなかったけど。よかった。」

「ねぇ、ファム?あなた・・・この宝刀についてどこまで知っていたの?」

「え!?・・・あの、その・・・。」

お?どうした!?ファムのしどろもどろは答える気がないときのやつだぞ?てことはこのブラガカリバン・・・やっぱり、ファムにとって、なにかあるのか・・・?

「ふぅ、まあいいです。御霊様?こちらの宝刀をぜひお使いください。」

「ユウタさま・・・。」

「ファム、ごめんな。二人で手に入れたものなのに、勝手にかもしれないけど使わせてもらうよ。・・・素手じゃどうやっても無理そうなんだ。」

ファムは急に俺に抱き着いてきた。フィリアさんはまぁっと微笑ましく見ている。俺は恥ずかしさと驚きでワタワタする。

「ファム!?どうした?」

「私、嬉しいんです。ユウタさまが本当に、生きる為に、ちゃんと考えてくれていたことが・・・。それに、その宝刀は元々ユウタさまの為に頂こうと考えていたんです。だから・・・ご存分に、お使いください。」

「ああ、任せておけ。」

俺は宝刀を手に取る。この宝刀は思ったよりも短い・・・刀というよりは、短刀・・・いや、脇差?まあ、そこまで力があるわけではない俺にとっては都合がいい。それに俺はルイスを殺す気で戦うわけじゃない。飽くまでも懲らしめるのだ。

「あ、なんか縛るものないかな?・・・ファム、なんか持ってない?」

「え・・・と、こういうのでもよろしいでしょうか?」

ファムが服の中から紐を外して俺にくれる。今、どこから紐を外したんだろう?服の一部だったような気がするんだけど・・・。

「えと・・・その紐は大丈夫なの?服的に・・・。」

「はい。大丈夫・・・だと思います。」

ファムはにっこりと笑う。自分のものを俺に使ってもらえるのが嬉しいのだろうか。惜しげもなく出してきたけど、ちょっと心配だ。脱げたりしなければいいんだけど・・・。

「どうするんですか?その紐は・・・。」

「ん?こうして・・・こうして・・・。」

俺は宝刀の柄と鞘が外れないようにファムからもらった紐で縛っていく。殺し合いをするわけじゃないんだから刃の部分は使わない。かといって、途中で外れたら嫌だからもう縛ってしまったのだ。

「ふふふっ。こんな状況なのに・・・ファム?良い御霊様と出会いましたね。」

「はい。」

ファムは満面の笑みでフィリアさんに答える。そろそろ、行かなきゃいけない時間だろう。ファムと俺は立ち上がりフィリアさんに礼をする。リーナは結局出てきてはくれなかったな・・・。仕方ない。生きて帰ってきて、また会いにくればいいさ。俺はそう思い、フィリアさんの家を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る