037
俺は、今シャワーを浴びている。俺が着ていた服はファムの涙とかその他もろもろで汚れてしまったので、服を洗濯するがてらシャワーを浴びることになったのだ。もちろん、キスの後にそれ以上の展開はない。そんなふいんきや状況ではないからね。
「ユウタさま?着替え、こちらに置いておきますね。」
「あー、ありがとう。」
ファムももう落ち着きを取り戻している。着替えを置いていなくなると思っていたらスリガラス越しにファムがそのまま立っている。ん?いなく・・・ならないぞ?
「ファム?どうした??」
「ユウタさま。このままで聞いてもらえますか?」
「あ、うん。」
「その、・・・勝算はあるんですか?」
「んー、今はまだ五分ってところ・・・かな?リスクはあるけど、まったくの考えなしではないよ。まあ、神官は御霊を殺せないって聞いていたからそこは予想外ではあったけどね。」
ファムはすりガラスに背を向けて寄しかかる。
「今なら、まだ、間に合いますよ。逃げるなら・・・。」
「ファム。俺は逃げないよ。意地の問題じゃないんだ。それこそ、俺のすべてが掛かっていると思っているんだよ。今回の決闘は。」
「そうですか。・・・わかりました。私ももう止めません。ユウタさまを信じていますので。でも・・・あまり、怪我しないでくださいね。」
「怪我だけで済めばいいんだけどね。ははっ。」
「・・・・・・。」
やば、ちょっとブラックジョーク過ぎたか?ファムはなにも言わない。
「あ、えーっと・・・」
俺はすりガラスを軽くノックして手を当ててみる。ファムはこちらを振り返り重ねるように手を当てる。
「ユウタさま?ユウタさまが死んでしまったら、私はその場で自害します。あなたのいない世界でただ一人。生きていても仕方ありませんから。」
顔はすりガラス越しだから当然わからないんだが、笑っているだろう。あぁ、早く出てファムの笑顔が見たいな。俺は透けて見えないかとすりガラスにぐっと寄る。
「ユユユ、ユウ、タささま!?あの!!その・・・。」
ファムの視点が下の方を向いている気がする。でも、すりガラスだから見えてないような・・・。俺はファムの手をよく見てみると、すりガラスに近いとおおよその形はわかるようだ・・・。え!?いや、まさか!?確かに近づいたせいで下部もすりガラスには近づいたけど、・・・ファムさん?
「ユユウタさま、私は居間のほうへ行きますね!すみません。すみません!」
ファムは走って居間へ行ってしまった。考えたくはないが、何に謝っていたんだろう?・・・いや、忘れよう。俺はシャワーから出て、そのままファムの用意してくれた服に着替える。あのときの・・・賜物の儀のときに着た制服か・・・。2度目なので着こなしもばっちりだ。着替え終わったのを確認してファムは俺と替わるように浴室へと入っていく。すれ違う時にチラッとファムをみてみるとファムの顔はほんのり赤くなっていて、目を合わせてくれない。・・・考えないでおこう。
シャー・・・。浴室の方からシャワーの音が聞こえる。俺はこれから決闘をするんだぜ?どうしたよ、おい。決闘とは別の理由で落ち着かない。すると、急に俺の中で何かがひらめく!!・・・バスタオルがなかったんじゃないか!?俺が出た時に用意されていたタオルは1枚しかなかったはず・・・、だが、さっきファムとすれ違った時にタオルは持ってはいなかった。持っていたのは確か、そう、あの最初の頃に着ていた服だ。あの、ローブみたいなやつね。そうなるとだ・・・そうなると!だ。ファムはシャワーから出てきたら何で体を拭くのだ?無いんじゃないのか!?そうなると!だ。風邪を引いてしまうかもしれない。俺は周囲を確認する。よし、誰もいない。・・・このパターン、どこかでやった気がするんだが。とにかく俺は居間にあるクローゼットを何か所か開けてバスタオル的な大きめのタオルを見つけ出す。それを軽く折りたたんで、腕に掛け、まるでコンシェルジュのような紳士のような立ち振る舞いで浴室へ持っていく練習をする。大丈夫。すりガラスがあるんだからどうせ見えないのはファムだってわかりきっていることだ。そこに行ったくらいで大騒ぎしたりなんかしないだろう。よし!いくぞ。俺は覚悟を決めて浴室へ向かう。・・・俺はそうは言ってもド変態なわけじゃないのでいきなり突撃をするような野暮なことはしない。すりガラスの前に行く前に声を掛ける。
「フーファムー?体を拭く、タオルがなかったと思うんだけど・・・こんなん見つけたから・・・使う、よねー?」
自然に言えているはずだ。声は震えていないが手はガクガクに震えている。
「え!?あ・・・申し訳ありません。・・・ユウタさま?・・・せっかくなのでそこの服の上に置いておいて頂けますか?」
「ああ・・・うん。わぁかったよー。」
そこの服の上・・・要するに浴室の前のあそこか。これは必然的にすりガラスの前を通ってしまう。飽くまでもこれはファムに指定された場所へこの荷物を届けるだけだ。それがすりガラスの前を通ったとしても俺が悪いわけではない。当然だ。俺はふう・・・っと平静を装ってすりガラスの前を通る。当然だが横目でチラリとみてみるがファムはすりガラスから離れているため、まあ、見えないね。・・・安心した反面、悔しさが込み上げてくる。このどうしようもない感情はどう処理したらいいのかわからない。バスタオルを置いて戻ろうとすると・・・。
「あ、ユウタさま?その・・・。」
「ん?どした?」
俺はドキドキしながら背中を向けて返事をする。
「あの・・・リンスが切れてしまったようで・・・・その、そこに予備があるので・・・取ってもらっても、よろしいでしょうか?」
「喜んで!!」
俺は食い気味で返事をする。
「はい!?」
「あ、なんでもない。このエクストリームなんとかリンスっていうのでいいの?」
「え!?あ、・・・はい。それで・・・お願いします。」
「うぃ~。」
俺は平静を装いながら、背中を向けて浴室のすりガラスの内扉をあける。ふわぁ~っと湯気が浴室まで入ってくる。ファムのシャンプーのいい香りが漂ってきた。手さぐりで後ろ向きのままファムにエクストリームなんとかリンスを渡す。
「あ、ありがとうございます。ユウタさまは紳士ですよね?ファムは嬉しいです。」
「そ、そう?ふ普通だよ。」
バタンとすりガラスの内扉が閉まる。ふぅ~。なんだろう、この罪悪感。紳士・・・か。俺はそんな紳士なんていう存在からはもっとも遠い存在な気がする。・・・戻るか・・・。
「キャ!?ユウタさま!!!」
ファムが悲鳴にも似た声をあげる。俺は驚いてすりガラスのほうを向いてファムの姿を確認する。さっきファムに紳士って言われた矢先だ。間違っても勢い余って扉を開けるようなことはしない。
「ファ・・・ム?」
ファムはその体をすりガラスへ近づけるように立っている。顔は真っ直ぐ俺の方を見ているようだ。俺は反射的にファムの胸、腰と見る。綺麗にくびれた腰つき、そこから膨らむ胸。華奢そうな体からは想像もできないであろう。豊満な胸。しかも胸を強調するかのように腕で少し持ち上げているのか!?もちろんすりガラス越しなので細かく鮮明に見えるわけではない。だが、形や姿はなんとなくわかる。もしかして、さっき俺もこれくらいのレベルで見えていたのだろうか。
「おあ!ああ!ごめん!」
俺は勢いよく居間へと駆ける。心臓ははち切れんばかりにバクバク言っている。死ぬ・・俺は今、心臓が破裂して死ぬかもしれない。ルイスとの決闘を前にこんなところで死ぬわけにはいかないんだが・・・。
「これで、お互い様・・・です。」
ファムが何かを言っていたが俺にはよく聞こえなかった。俺の心臓の音がうるさすぎだ。
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