034

ハッ!っと目を覚ました。体中が痛い。だけど・・・まだ、全てを覚えているぞ。ルイス・・・。ファム・・・。俺は忘れないように何度も頭の中で反復をする。

「あら?相沢君、起きたの?ちょうど今、起こそうと・・・。」

俺は先生の胸ポケットに刺さっているマーカーと勢いよく取る。その力強さに先生の胸がたわわんと揺れる。

「ちょっとーー!なにやってる・・・の?」

俺は夢のことを忘れないように、左腕をめくり断片的にでも書いていく。忘れてしまう前にわからなくなる前に、できるだけ多くのことを書いていく。

「これで、良し。」

先生は俺が書いた内容を見て首を傾げるがフフっと笑う。俺は先生にマーカーを返して、ベットから飛び起きる。次に寝るまでにやることがたくさんあるのだ。

「先生、放課後にまた来てもいいですか?俺、たくさん怪我してると思うので。」

「え!?だからー、私の話をちゃんと聞いてたの?学校は・・・。」

「ごめん!!急ぐから・・・じゃあ、また後で!!!」

俺は急いでドアへと向かい廊下へと出ようとした。そこでこれから昼食を食べようとお弁当を持ってきた女子とぶつかりそうになったのだが、なんとか避けて、ごめんという仕草だけをして、走って行った。


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「先生?今のって相沢君ですよね?」

「なんか雰囲気がいつもの感じに戻ってたねー。生き生きしてて、なんかかっこよかったなぁ。」

「あ、あれ、私の、ハンカチ・・・。ちゃんと使ってくれたんだ。相沢君。」

女子は保健室へと入りわいわいと騒ぎだす。

「・・・忘れるな・・・信じろ・・・か。」

「なんですかぁ、それー。先生?青春??」


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俺は、木下の教室を目指して走っている。歩いている生徒を避けながら、止まることなく走る。もちろん、体中が痛い。夢の中でルイスにやられたのが今だズキズキとしている。だけど、いいんだ。この痛みのおかげで俺は忘れないでいられる。ファム!!待っててくれよ。俺が絶対に阻止してやるから!!俺はやる気に満ち溢れていた。教室の扉を開けて俺は木下を探す。

「いた!!おい、木下!!!」

「ああ?おお、相沢・・・どうした?」

「悪いんだけど、ちょっと一緒に道場まで来てくれ。稽古をつけてほしいんだ。」

「はああ?今、昼休みだぞ?俺はこれから飯を食うんだ・・・よ?」

俺は木下を引きずるように教室から連れ出す。

「おいおい、勘弁してくれよ・・・。」


俺と木下は防具をつけて道場で相対する。なんだかんだいって木下は付き合ってくれたのだ。俺が木下に要求したのは木下が本当に得意としている「突き」である。こいつの突きは並外れていて、練習ではまずやらない。試合でも追い詰められない限り出すことはないのだ。その理由は、強烈すぎるからだ。まともに喰らえば失神もしくはその威力に気絶してしまうなんていうのは当然で、今まで何人を病院送りにしたかもわからない。木下の最強の技だ。

「おいおい、お前怪我してるんだろ?そんなん喰らったら死ぬかもしれないぞ?」

「殺されるのは勘弁だけど、そのためにタオルとか噛ましているんだろ。」

俺は念のために首周りにタオルを入れて、ガードを厚くする。

「まあ、よっぽどのことなんだろうから付き合ってやるけど・・・そうだな。3発だ。午後の授業を考えたら、3発だけ。やってやるよ。それ以上はお前の首も持たんだろ。」

ピリッとした緊張感が走る。

「お、おう。頼む。」

俺たちは一礼をして、竹刀を構える。木下は思い出したように声を掛ける。

「当然だけど、前に外でやったコテ打ちみたく予告はしないからな。いつ打つかはわからないから油断するな・・・よ?」

ガシャーーン!!っと地稽古が始まった。


俺はまたハッと目を覚ます。ここは保健室のベットか!?なんだ・・・?俺は気を失っていたのか?俺は枕を背にベットの上部へと座る。頭が少しクラクラする。ったく木下の奴、本当に手加減なしかよ。ていうか、なんで俺・・・木下に稽古をつけてもらおうと思ったんだっけ・・・。記憶が混乱する。

「気が付いたの?相沢君。」

先生がベットを囲っていたカーテンを開けて入ってくる。先生は呆れた顔をしている。俺のおでこを触り、目の状態を確認する。先生の顔が近い・・・そうだ。俺はこんな風に前にも誰かと・・・。

「まったくもう。あなたたちはなにをしているの?一日に2回もベットで寝る生徒なんて普通はいないわよ。何度も言わせないで、学校は・・・。」

「生徒に怪我をさせないのが第一だよね。ごめんなさい。先生。」

俺の素直な謝罪に先生はふぅっとため息をついて、ニコリと笑う。

「わかってくれているなら、もう無茶しちゃだめよ。私は少ししたら職員会議に行かなきゃいけないから落ち着いたなら早く帰りなさい。今、この時間に相沢君がここにいることは内緒なんですからね。」

だからカーテンが閉めてあったのか。本当にこの先生には助けられてばっかりだ。時間を見てみると、今は15時、頃か・・・。午後の授業は当然に終わっているな。木下もひなたも、もう帰っただろうか。ああ、いや、部活があるから木下は道場にいるだろう。

「先生、俺、いくね。ありがとうございました。」

「あ、ちょっと待って。相沢君。」

「はい?」

保健室から出ようとしたところ、先生に呼び止められる。手招きをされて、椅子に座る様に指図される。早く帰って欲しかったんじゃないのか?

「そういえばね、相沢君の体・・・見せてもらったけど、服の下、アザだらけじゃない。木下君となにをやっていたの?あのアザの付き方は剣道でついたものじゃないでしょ?」

先生は真剣な顔で俺を問い詰める。俺はなんのことを言われているのかがわからず不思議そうな素振りを見せるが、そんな俺を見て先生は余計に怪しんでいる。本当にわからないんだけどな・・・。夢でなにかがあって、そのために俺は木下に突きを体験したいという感じだったのはなんとなく覚えているんだが・・・。俺は先生の言うアザを見る為に左腕の袖をめくる。そして、そこにマーカーで書いてあるものに気づく。

「ふふふ。」

「なにを笑っているの?先生は心配をして言っているの。ちゃんと教えて。」

「先生。・・・俺にマーカーを貸してくれてありがとう。おかげで俺・・・また、思い出せたよ。本当にありがとう。」

「答えになってません。ていうか、マーカーは相沢君が勝手に取ったんでしょ?」

「ああ、そうだったね。1日に2回も先生の胸に触れるだなんて、そんな生徒もいないんじゃない?」

「な!!・・・いい加減にしないと・・・。」

「俺は大丈夫です!!ちゃんと後で説明しますから、今日はこれで失礼します。」

スッと立ち上がり。保健室を出ようとするが・・・俺はどうしても先生に言いたいことが、伝えたいことが溢れてくる。なんでだろう?この気持ちは抑えが利かない。先生にぶっとばされちゃうかな・・・。

「先生?・・・あの時、胸を触らせてくれてありがとう。先生のおかげで悪夢から覚めることができたんだ。・・・本当にありがとう。・・・ファム。」

「ふぁー・・・む?」

「ごめん。なんでもない。じゃあ、いってきます。」

俺は保健室から出る。

「もう!あとでちゃんと説明するのよ!!」

「はーい。」

振り返らずに返事をする。帰ろう、家に。今日はもうひなたにも木下にも会わないほうがいいだろう。そう思い、俺は学校の裏口から出たのだった。





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