030

ルイス・シーザー・・・。なんとなくだけど、その名前に覚えがある。ルイスって確か、賜物の儀で神殿に向かう時に出てきたあの美形神官か。なんであんな野郎と・・・。ファム、男を見る目ないぞ!!

「成り行きはわかりませんが、私がこの街に帰ってきたときにはもう街中この話題で持ちきりでしたので。これ以上はわかりません。」

フィリアさんはリーナが入れてくれたお茶を飲み、ふぅっと息をつく。

「み、みたまさま?リーナはしってるよ。み、みたまさまが、えっと。」

「リーナ。俺のことはおにいちゃんで構わないよ。言いやすいように呼んでくれ。・・・それで?」

リーナはチラッとフィリアさんの方を見て、様子を伺っている。フィリアさんは呆れたように頷き、リーナが嬉しそうに笑う。

「うん、おにいちゃんがいなくなったあと、ファムちゃんはふさぎこんじゃって、しばらくすがたをみかけなかったんだ。それで、あのイケメンしんかんさまがファムちゃんのいえにいったあと、こんなかんじになったっていうことみたい。・・・わかる?」

「えっと、もう一回いい?」

「だからー・・・」

「リーナ?御霊様がいなくなった後というのは、私が御霊様をアムルウスへ送ったあと、この世界から消えた後ということなの?」

フィリアさんが遮るように質問をする。リーナは少し驚いて頷く。

「そう・・・。それで・・・。」

「ごめん、俺は全然わからないんだけど。そもそも俺が消えたっていうのはどういうことなの?俺、が消えた・・・って。」

フィリアさんは驚いたような様子で俺を見る。

「そうですか、そのことも今だ知らないのですね。ファムは何を考えていたのでしょうか・・・。」

あれ、確か同じようなことをエリスにも言われたな。もう、まあいいじゃ済まさない。わからないことは全部聞こう。後回しはもうやめたんだ。

「教えてください。御霊ってなんなんですか?俺が消えたってなんなんですか?お願いします。知らないとなにも進めない気がするんです。」

フィリアさんは笑顔で頷く。

「もちろんです。あなたには知る権利があります。少し長くなりますがいいですか?」

俺はゴクリと唾を飲み込み頷く。

「御霊様というのはこの世界にはいない純粋な人間のことです。正確には絶滅してしまった純血種にあたる存在なのです。」

「純粋な人間・・・?」

「はい。この世界にはあなたのようななんの力も持たず、魔力も持たず、神の加護も受けていない人という存在はいないのです。」

「え・・・そんなバカな。だってほら、フィリアさんだって、リーナだって。人間じゃないか?なあ??」

リーナは俯いて目を合わせてくれない。

「だって、ファムは・・・初めて会った時に、自分は人間だと言っていたんだ。確かにそう、言っていたんだ。」

「私たちの言うところの人間は外見にその神の加護を宿さない種族のことを指します。リーナもファムも・・・そして、私も。あなたのような純粋な、純血種の人間ではありません。」

「そんな・・・。」

「リーナ。ここで今、水性の魔法を使いなさい。」

リーナは驚いた様子を見せるが、すぐに首を振る。その表情はとても悲しそうだ。

「仕方ありません。ふぅ・・・」

フィリアさんが空のカップに手を翳すと、カップの中にみるみると水が現れてくる。そして、フィリアさんのその背中には天使の羽が見えていた。魔法をやめるとその羽は消えてしまい、水が増えていくのも止まってしまっている。

「見えましたか?私たちの言う人間は魔法を使うとこうして神の加護と呼ばれるものが具現化されます。私とリーナは俗に天使族と呼ばれる者で先ほどのような羽が具現化されます。」

俺はリーナを見る。その手は震えていて、俯いたままだ。

「じゃあ、あの獣人みたいのは・・・。」

「神の加護が外見に出ている者は人間とも呼びません。魔法を使えないものいますがだいたいの場合は魔法の代わりに常人をはるかに超える身体能力や力を持っています。大別してその2種類しか、この世界にはいないのです。」

「・・・・・・。」

「ファムがどういう意図があって御霊様に人間だと言ってしまったのかはわかりませんが、嘘とも取れますし、私達の世界で言えば本当でもあります。」

「純粋な人間がいないって、俺は・・・俺は今!ここにいるじゃないか。俺以外にも御霊っていうのはいるんだろう?だったら、だったら・・・。」

俺は自分自身で何を言いたいのかわからないが、どうにかフィリアさんがいうことを否定したくて必死になっているようだった。

「御霊様は呼ばれてこの世界に来ているんですよ。この世界に存在しているわけではないのです。」

「!!!!??」

「俺は、この世界に存在・・・していない?」

俺は慌てて自分の体を触る。頭、腕、胸、足。どこを触っても感触はあるし、実現している。リーナに近づいて俺はリーナの手を優しく握る。確かに感じる。リーナの温もり、手の温かさ。なのに俺が、存在していないだって?・・・リーナは俺を見て、言葉を発することなく言う。大丈夫だよ。俺は自然と流れる涙を抑えることができなかった。

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