029

正門を抜けて街の中に入ると明らかに以前と雰囲気が空気感が違う。そう、お祝いムードというかお祭りムードというか・・・とにかく賑わっている。

「リーナ・・・なんかお祭りムードじゃない!?なにかこの街であるのかい?」

「え・・・あー。うん・・・ぎしきがあるん、じゃーない・・・かなぁ。」

リーナは随分と歯切れが悪い口調で話す。なんだなんだ?俺に聞かれるとまずいことでもあるのか?なんか気になる。

「リーナ・・・俺さ、この世界で知らないこととかわからないことがあってもそのまま・・・後でもいいやって思ってずーっと来てたんだけど。それはもうやめようと思うんだ。」

「・・・うん。」

「だから、ちゃんと教えてくれないか?この以前と違う雰囲気は?儀式ってなんの儀式なんだい?」

「・・・うん。ごめんね。・・・2、3にちごにこんやくしきがあるの。このまちではぎしきはおいわいっていうか、おめでたいことだから。」

婚約式・・・たしか、俺とファムが賜物の儀の後にやる予定だったやつか。誰か、他にもやる人がいるのだろうか?まあ、俺はファムに嫌われてしまったみたいだから俺の儀式っていうわけではないだろう。・・・はぁ。

「婚約式は誰がやるんだい?もしかしてフィリアさんとかかな?」

「・・・ファムちゃんだよ・・・。」

「・・・え?」

「ファムちゃんがこんやくしきをやるの・・・。」

え・・・と、誰とだろう。俺はさっき嫌われていたよな。それでも決まりなんだから強制的に婚約式はやらないといけないとか・・・そんな感じか!?

「だだだだれと、ファムは式をやるんだろう・・・。お、おれか、な?」

自分でいうのは恥ずかしいぞ。若干照れながらもリーナに確認をする。リーナは小さく首を振る。

「ちがうよ。・・・しんかんさま・・・かな。」

「はぁああぁ!?」

「・・・・・・。」

「なんで!?なんでファムは、神官なんかと婚約式をやるんだよ!!」

俺はつい大きな声を出して怒鳴ってしまった。リーナもううっっと耳を塞いでいる。俺の怒鳴り声に周りの住人がなんだなんだとざわつき始めた。

「ちょっと、おにいちゃん。おちついて、ね!!・・・あーあ、じゅうにんさんがあつまってきちゃってるよ。とりあえずリーナのおうちにいこう。」

俺はリーナに引っ張られるように人が集まる前に住宅街のほうへ連れて行かれた。


ここは確か・・・そうだ、リーナと初めて出会った路地か・・・。懐かしいな、あれは少し前のことなのにもう何年も前のことのようだ。連なる住宅の一角にリーナの家があった。って、ここってあの人型の獣とも出会ったところじゃないか。そっか、リーナは家から出たときにちょうどあの獣人と出会ってしまったのかもしれないな。

「おにいちゃん、こっちだよ。・・・ほら、はいって~。」

俺はリーナに促されるように階段を登って家に入ろうとする。玄関に入る直前にまた背後から強い視線を感じる。俺はバッと後ろを振り返るが誰もいない。あの気配の奴なんだろうけど、ここに来てまで視線を感じるっていうことはつけられていたってことなんじゃないのか?本当に大丈夫なんだろうか・・・。一息ついて俺はリーナの家に入っていった。

「おにいちゃん、てきとうにすわってー。いま、なにかおちゃでもよういするからー。」

パタパタと走り回って準備をしてくれている。俺は椅子に座って、周りを見渡す。ファムの家よりは小さいが綺麗で落ち着いた雰囲気の居間になっている。居間以外に部屋が2つ、3つか?どれかがフィリアさんかリーナの部屋だろう。となると、残りの一つは両親の部屋か?まあ、そんなことをいちいち詮索する必要もないか。

「はい、どうぞ。」

リーナからカップを受け取り、一飲みする。リーナは俺の隣に座って俺の反応を見ているようだ。

「うん、美味しい。ありがとう。」

「えへへ。・・・・・・おちついた?おにいちゃん。」

「うん。ごめんな。街中で急に怒鳴ったりして・・・。そんなつもりは無かったんだけど・・・。」

「ううん。いいの。おにいちゃんがそういうはんのうをするって・・・リーナ、なんとなくわかってたから・・・。」

リーナは少し寂しそうな表情を浮かべる。

「そう・・・か。」

それにしてもなんで急に神官なんかと婚約式をするんだ!?ファムは俺とお願いって言っていたくせに。あのちょっと感動するようなシチュエーションはなんだったんだよ・・・。と、思いつつも、俺は大事なことに気が付く。そもそも、婚約式って・・・なんだっけ?

「そういえば、今更なんだけど・・・婚約式ってなにをやるんだっけ?」

「ええええ!?おにいちゃん??しらないの!??・・・いやいや、そもそもしらないであんなにおこってたの!?」

「え!?あ、うん。なんか拍子で・・・。」

リーナは呆れたようにため息をつく。そんな顔しなくってもいいだろう。俺だって何度も聞こうとした機会はあったのにファムが教えてくれなかったんだよ。・・・そう、ファムが・・・。俺はファムとのやり取りを思い返す。抱きしめた時に泣いていた。急に顔が近づいたときは顔を真っ赤にして照れていた。とても幸せだった思い出が泉のように湧き出てくる。いやいや、今は思い出に浸っている場合じゃない。俺はリーナの方を向き、真剣に話を聞く。

「えっとね、こんやくしきっていうのは、こう。チュッチュするの。えーっと、そのぅ・・・。」

リーナは恥ずかしそうに言葉を濁す。なんだ?また、肝心なところはお預けか??そんなことを考えていたら、奥の部屋からフィリアさんが出てきてニコッと笑っていた。フィリアさんは街で見かけたときよりもラフな感じだけど、神々しさは変わらず清楚で美しい姿だった。そこそこ短いの長さのスカートにキャミソール風の服・・・こういう格好もするんだな・・・。俺は意外な一面を見たようで、何度もみてしまう。

「いらっしゃいませ、御霊様。・・・その、私の姿は、珍しいでしょうか?」

「え!?いやいや!!えっと、その。意外な服を着ているなって思っちゃって。フィリアさんは家でも、もっときっちりとした清楚な格好をしているって勝手に思っていたんで・・・。」

ましてや、こんな女神様みたいな人がフトモモを出して歩いているなんて誰が想像できようか・・・。リーナはフィリアさんが出てきて、やばっというような表情をしてそそくさと俺の隣から正面の付近の椅子へと移動した。

「フフフっ。家では気を張る必要はありませんから、私もこういう服を着ますよ。・・・それで、婚約式について、リーナに代わってご説明致しますね。」

「あ、はい。お願いします。あ、できれば、ファムの状況についても言える範囲で構わないのでお願いします。」

フィリアさんはリーナの横らへんに椅子を置いてそこに座り、こほんと咳をしてから俺のほうを向く。その顔は真剣だ。

「婚約式とは、そうですね。ニュアンス的には結婚を前提にお付き合いをする宣言の儀式というのが正確かと思います。」

「え?え?じゃあ、ファムは誰かとけけ結婚を前提につ、付き合うっていうこと?」

「はい・・・そうなります。」

なんでだ?なんでこんなことになっているんだ?ファムは俺のことが好きだったんじゃなかったのか!?・・・いや、違うか・・・俺はもうすでに嫌われて・・・。

落胆するようにうな垂れてしまう。突きつけられた現実があまりにもショックで言葉がでない。リーナは心配そうに俺を見ている。手を胸の前で握って苦しそうだ。

「・・・相手は・・・相手は、誰なんですか?」

フィリアさんが少し笑った気がしたが、いや、表情は真剣なまま・・・か?気のせいだろうか。

「なぜ、そんなことをお聞きになるのですか?儀式はもうすでに決まってしまっていることです。今更、相手が誰であっても・・・」

「相手は誰!!・・・なんですか?・・・知っていれば、教えてもらえませんか?」

フィリアさんはニコっと笑い、言う。

「ファムの相手は、ルイス・シーザーです。」



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