021

「メーーン!・・・ドーー!!!」

俺は今、部活動の真っ最中だ。掛け声でわかると思うのだが、俺が所属している部活動は剣道部。竹刀を持って防具を付けて打ち合うものだ。部員数はそこまで多くはなく、10数人そこそこなんだけど、県内では強豪校と呼ばれるくらいには有名な所だ。学校の授業も終えて早々、今日は部活の日だからこうして剣道に打ち込んでいる。

「相沢!なに休んでるんだよ。俺と地稽古しようぜ。」

木下が誘ってくる。俺は今、他の部員と地稽古したばかりなんだぞ。こいつはわかってて言ってるな。俺は防具を付け直し、どちらかといえば端の方へ行き稽古を始める。ガシャン!バシン!!と激しく攻防を繰り返す。木下はどちらかというと俺よりも強い。こいつの繰り出すコテには目はついて行っても体が追い切れない。そして、かなり痛い。本気で打ち込んでくるもんだからそこらの奴らじゃビビってしまって試合にならないこともあるくらいだ。

「相沢!!お前、なんかいいことあったんじゃないのか?」

組合ながら木下が話かけてくる。幸い俺たちは端の方でやっているから顧問の先生にはバレはしないだろうが、普通は地稽古中は話はしないんだけど・・・。

「なんでわかるんだよ!!お、まえはぁ!」

「わかるさ、当然だろう?一之瀬のことだろ、どうせ。」

「ん・・・。」

動揺した俺はスパーーンと綺麗に面を決められる。

「メン有り!だな?」

「きたねーな、お前は・・・。」

俺たちは礼をして地稽古を終える。防具を外して、外に出て小休憩だ。外では他の部活動部員たちが色々な練習をしている。遠くに見えるグラウンドでは野球部が俺たちよりも激しい練習に打ち込んでいるのが見える。俺は部活動と言えば、野球やサッカーをイメージしていたんだけど、結局始めたのは剣道だった。剣道には他では絶対に味わえないスリルと緊張感があるからだ。相手が勝つために、時代によっては殺すためにといった具合に、スポーツという枠を超えたスリルがある。それは俺が日常に感じている退屈さを紛らわせてくれる。唯一のものだった。

「相沢、今日は部活早めにあがるんだろ?なんだ、お前、一之瀬と待ち合わせしてるんだって?」

「・・・なんでお前が知ってるんだよ。」

「私には知らないことなんてないんです。・・・ははっ」

某アニメのキャラクターの決め台詞を真似をする木下。似てねーよ。

「俺もいこっかなー。」

「はぁ?くるんじゃねーよ。邪魔するな。」

木下の提案を即座に却下する。

「いやー、でもさー。俺も一之瀬に誘われちゃってるんだー。」

そう言って、木下は俺に携帯のメールを見せてくる。・・・たしかに。木下も一緒に行くことになっているようだ。

「いやさ、本当は待ち合わせ場所でどうもって感じになる予定だったんだけど、なんかさー、隠す必要ないじゃん?普通に3人でお茶すりゃいいだけだろ?・・・だから言ってみたのよん。」

「・・・そう。」

「おいおいおい、テンション下げんじゃねーよ。傷つくじゃねーか。ま、今回は大目にみて楽しくいこーぜ。」

「ふーーー。・・・ま、そうだな。確かに一昨日の昨日の今日で、いきなり二人は気まずいかなって思ってたし、様子見がてらちょうどいいか。」

木下がいれば盛り上がることは間違いないだろう。口も達者だしなにかあればフォローもしてくれる・・・してくれるのか?ま、いないよりましだよな。

「あ、そろそろ上がるか。シャワー室で汗も流したいし・・・。」

俺と木下は顧問の先生にうまいこと言い訳をして早あがりすることになった。残念なことに、そのうまい言い訳も木下のおかげと言わざるおえない。

簡単にシャワーを浴びて身だしなみを整えて、俺たちは待ち合わせのカフェへと急ぐ。場所は新たにひなたと連絡を取って決めたんだ。正直、昨日のメールでは二人きりで話をするっていうような感じだと思っていたから、俺から場所決めで連絡をするのは抵抗があった。なのでこれも木下にお願いしたのだった。

「あ、ひなたがいる・・・。」

カフェの窓側の席で一人なにかを飲んでいるようだ。周りには誰もいないな・・・。というのもこの可愛さだ。一人でぼーっとしていたらスカウトやらナンパが絶えないらしい。ひなたが俺たちに気づいて小さく手を振る。なんだろう、この知り合いっていうだけで得られる優越感。本当に良いよなぁ。俺たちは店内に入ってひなたの座っているテーブルに一緒に座る。少し、待たせてしまったのだろうか飲み物が半分より減っている。

「あ、俺、なんか買ってくるわ。相沢はカフェオレか?一之瀬も同じでいい?」

本当に気の利くやつだよ。木下は。俺とひなたは流されるように返事をして、カウンターへと行った木下を見ている。

「あ、ひなた。今日は一人だったのに大丈夫だったみたいだね。」

「え?・・・うん。今日は5人・・・かな?」

要するに大丈夫ではなかったということか。5人。スカウトなのかナンパなのかはわからないがやっぱりもっと早くにくれば良かったな。

「大丈夫じゃないじゃん。ナンパ?」

「ううん。スカウトの人かな。名刺だけもらっちゃえば後はしつこくないから大丈夫だよ。」

「そっかそっか。」

可愛いっていうのも大変だよな。望んでいなくっても周りがどんどんと寄ってくるんだからな。まあ、俺もそのうちの一人なのかもしれないけど。

「あ、そうだ。花火の日はごめんね。私、気を失っていたみたいで・・・優太君が家まで運んでくれたんでしょ?・・・重くなかった?」

「重くない、重くない。運んだって言っても途中までだし、ひなたんちのおばさんに迎えに来てもらって結局は家までは行ってないからさ。」

「そっか。でも、ありがと。一緒に見にいったのが優太君でよかった。」

「そう?」

「うん。」

これは、信用されているってことなんだろうか。うーん、好感触だな。

「あ、ねぇ、私、なにか変なこといってなかった?」

「ん?いや、言ってないと思うけど・・・ていうか、寝てるわけじゃないんだから寝言は言わないんじゃないの?あーいうのって。」

「そっか・・・そうだよね。フフッ。」

「なになに?相沢が一之瀬の尻を触らなかったかって?」

木下が飲み物を持って戻ってきた。ていうか、何言っちゃってんだこいつは。

「あほか、誰が触るんだよ。」

「いや、だってよう。おんぶしたんだろ?そうなったら必然的にこう・・・な?」

木下は仕草を交えて説明をする。・・・木下の推察通り、確かに、触ってたけど。

「でもでも、私は別になんとも思ってないよ?だって、運んでくれたんだもん。起きていたとしてもそんな風には思わないかな。」

ひなた・・・。お前は女神か?その容姿だけじゃなくって心まで美しいよ。それに引き替え木下の野郎はとんでもねーゲスだな。

「それだけじゃないぞ。おんぶっていうことはだ・・・。こう・・・ね?ほら。」

木下は胸を手で表現して俺の背中に当たるということを言いたいらしい。これにはひなたも若干困った様子だ。俺と木下はついひなたの胸をみてしまう。A・・・いや、Bくらいかな?高校生ならこれくらいだろう。俺たちは顔を見合わせてアイコンタクトで会話をする。

『あれは、当たっていてもわからない。』

俺たちの視線に気づいたひなたは胸を隠してうーーっと唸る。

「私は、まだ発達途中なの!!」


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