019

「ユウタ、さま。・・・私も、もう力が・・・。」

ファムは始まってからずっと魔法を使いっきりで小出しにしていたとしてもさすがに限界がきているようだ。もうここまでかもしれないな。ふぅっとため息をついて俺は剣をゴーレムの方へ捨ててファムをじっと見つめる。ゴーレムは再生を進めて、こちらに来ようとしている。

「いやーーーー!!おにいちゃーーーーん、ファムちゃーーーん。逃げてーーーーー。逃げてーーーよぉ・・・。」

フィリアさんはリーナをギュッと抱きしめてじっとみている。これから起こる事を想像してか、観客は静まり返る。聞こえるのは微かな泣き声だけだ。

「ユウタさま、ユウタさまぁ。ごめんなさい。ずっとずっと・・・。こんなことになるなんて、私、私・・・。」

「いいんだ。ファム。大丈夫だよ。」

俺は笑顔で答える。

「・・・はい。」

ファムは泣きながらも出来る限りの笑顔を見せてくれる。後悔なんてない。これが俺の全てだったんだ。だから後悔なんて微塵も・・・ん?

「そうだ!!!ファム。一つだけ後悔することがあるんだけど、ここで、いいかな?」

「え!?ここでって?・・・もう、最後なんですよ?・・・ふふっ・・・なんですか!?・・・よくわかりませんが、いいですよ。」

ズン、ズン・・・ゴーレムが俺たちに近づいてくる。俺にとってはもうそれはどうでもいいのだ。なんだろうと不思議そうに待っているファムに俺は・・・そっと、キスをした。もちろんおでこにではない。ファムの唇にチュッと。ファムの唇は柔らかくて、俺はもう本当にこのまま死んでもいいと思えるほどの幸せを感じていた。まぁ、あと数秒で死ぬんだけどね。

「え?え?え・・・。」

ファムは口を抑えて後ずさり、その顔が真っ赤になっていった。

「わぁ・・・キス、しちゃった・・・。」

リーナが唖然としてぽつりと言葉をこぼす。そして・・・。

「ヒャッ!!!」

ファムは顔を隠してうずくまってしまった。可愛いな、ほんとに・・・。もう思い残すことはないな・・・。それにしてもなんだか体が熱いぞ!?・・・俺も照れて火照っているのかな?死ぬ間際だっていうのに俺はそんなくだらないことを考える。思い当たる後悔がないとこうも清清しいものなんだな。

「うおああー、おい!!離れろよーー。」

観客が叫んでいる。体がというより空気的に熱さを感じる方を見てみるとゴーレムが灼熱の火柱の包まれて止まっている。

「あっつ!?あつあつ!!」

俺はうずくまっているファムを抱え慌てて逆端のほうへ避難する。ファムは俺に抱えられても、まったく姿勢をかえず固まっている。瞳の色は恐ろしくなるほどの赤色!!光っているというよりも脈動するように動いている。ゴーレムを包む火柱はドンドン強くなっていき、次第にゴーレム自体が溶け始めてきた。距離を取っているとはいえここにいても熱さを感じる。

「え?え??なにこれなにこれ?ちょっとアスタさん、これどうなってんの?」

アスタさんはポカンとして思考が止まっているようだ。高くなる火柱の力に遂に結界が崩壊した。その瞬間に客席にまで火柱の熱が回り、ちょっとした惨事になってきている。俺はMC神官にファムを抱えたまま寄っていく。

「ねえねえ!これって俺たちの勝ちだよね?ゴーレム溶けちゃってるしさ」

『あー、えーっと、そうですね!ファムチームの勝利でしょう!!さーーー皆さん!!賜物の儀は終わりましたーーー。全力でこの火柱を消しちゃってくださーーーい!!!』

MC神官の声を聞いて会場の観客が一斉に魔法などを使って火柱の消火に掛かっていた。俺たちはそんなものを見るまでもなく舞台から急いで降りて、控室まで逃げるように去っていったのだった。その後、しばらくして消火を終えたのか脱力感全開の係りの神官が俺たちの元へと来て自宅への帰宅命令が出たと教えてくれた。俺はそそくさと神殿を後にファムの家までファムを抱えて帰ったのだった。


家に着いても、ファムは今だ停止状態だ。どうしたらいいんだろう。俺も正直死ぬと思っていたから、この先は考えていなかったな・・・。とりあえず、ファムは椅子にでも座らせておこう。俺は自分自身が汗でべちゃべちゃなので服を着替えようと洗濯されていた服を探す。そりゃ、あの灼熱にさらされた上に、ファムをここまで抱えてきたんだから汗もかくよな。タオルで汗を拭き、服を着替えて、居間へ戻る。相変わらずファムは固まったままだ。

「・・・死んでるわけじゃないよな?」

俺はここまで動かないファムを目にしてだんだんと不安になってきた。ファムをよく見てみると、首元や腕にも、手で覆っている顔にも汗をかいているようだ。そりゃそうだよな。・・・このままじゃ、風邪を引いちゃうんじゃないのかな。俺は飽くまでも献身的な意味合いで、介護的な意味合いで、聖人的な振る舞いで、ファムをタオルで拭いてあげることにした。初めはポンポンと顔や腕を軽く叩くように、と。そして首元とうなじらへんをポンポンと。ちょっと首元が苦しそうだからコート風の服のボタンを外して。すると、腕があるので脱げるわけではないのだがある程度ははだけてしまった。首元がしっかりと見えてうなじから背中にかけても見える状態だ。

「うわぁ、すっごい汗かいてるじゃん。これは風邪引いちゃうよ。」

ちょっと際どい感じはあるが、ファムの胸上とか背中の上のほうをタオルで拭いている。これでもファムは今だ固まったままだ。本当に大丈夫なのだろうか・・・。首とか背中がこんなにも汗をかいているのなら体は・・・もっとやばいんじゃないのか・・・。俺はコート風の服のボタンを全て外してみることにした。前面が開きインナーが見える。割とぴっちりとしたワンピース風なのを着ているようだった。胸の所は胸開きのVネックとでもいうのだろうか。がっつりと開いているのだがしっかりと谷間ができていてとてもセクシーだ。下着は付けていないのかな?たぶん、見られることは想定していないような感じなんだろう。ゴクリと俺は生唾を飲み込む。一応、周囲を確認する。誰もいないな。いや、違う違う。こんな姿を他の人に見せてしまってはファムもより恥ずかしいだろうと思っているだけだ。決してやましい気持ちがあって確認したわけではない。

「ちちちゃんと、中までふふふふかないと、ね。」

俺はタオルを持った手をファムの谷間へと近づけてグッとタオルを谷間に滑り込ませる。と一緒に、自分の手も差し込む。いや、タオル取れなくなっちゃうからさ。柔らかい、手のすべてが柔らかさに挟まれている・・・。なんだろう、この達成感は。もう一生このままでいたいくらいの柔らかさを今俺は感じている。ムニムニ、ムニムニっと谷間を拭いている。勘違いしないでほしいんだが飽くまでもこれは拭いているときの効果音だ。

バタン!!!突然扉が開いた。

「ファムちゃん!!!おにいちゃん!!!だいじょうぶ!!??」

その声に驚いて俺はハッと目を覚ましたのだった。

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