018
アスタさんは結界を触りながら言う。その表情はとても険しく悲しそうだ。
「魔族のゴミが侵入したときに巻き込まれただろう。ファフニールが放ったその強大な力に。忘れたとは言わせないよ。その子はそういう子なんだよ。」
ファムは震えていた。手をギュッと握って今にも消えてしまいそうな・・・。
「憎い憎い魔族を目にしたら周りなんて関係ないのさ。どうだい?実際そうだろう。御霊様。あなたはあの場にいたんだろう。リーナも。だけどその子は構わず打ったんだよ。あの強大な魔法を。」
・・・実はなんとなくは思っていたんだ。あの日、見上げた所に立っていた人は、ファムだったんじゃないかって。あの金色に光っていた目。ファムが俺に部屋で嵐にも似た強力な魔法を使ったときは瞳の色は緑に輝いていたんだ。そして、今日炎の魔法を使った時には薄っすらと赤く光っていた。きっと、ファムはその属性の魔法を使う時にその属性を象徴する色に瞳の色が変わってしまうんだろうと。だから、気づいていたさ。あのとき死にかけた原因はファムだったかもって・・・。
「み、みた、まさまぁ。私・・・私・・・。」
ファムはうなだれる様に座り込み、その頬に涙がつたう。
「ファフニール!!力を持つ者はその強大な力が及ぼす影響を熟知しなくてはならないんだ。お前が!お前の我儘でこの街を出ていくなんてことはあってはならないんだよ!!その強大な力が世界に知られてしまった時に魔王の侵攻以上の大いなる争いが起こるだろう。誰もが必死になって、世界を壊すその神の力を手に入れんがためにな!!」
はぁはぁとアスタさんは息を切らして強く語る。
「・・・御霊様よ。ファフニールに言うんだよ。諦めよと。その子はあなたのいうことならきっと聞くだろう?それができないならここであなたを殺さねばならないんだ。・・・このばあやにそんな惨いことをさせんでおくれ。」
やっぱりそうか。さっきゴーレムの裏拳の威力を弱めたのも、ゴーレムの破片が飛んでくるのをなんとなく知らせてみたりと、本当は、本心ではこんなことは望んでいないんだ。そりゃそうだよな。神殿であんなにも仲良しの二人だったんだからこんな悲しいことを望んでいるはずはない。
「ふふふ・・・はは、は・・・。」
「御霊様よ。気でもふれたか?」
「はははーーー。あーーーっはっはっはぁーーーー。」
「ゆう・・・た、さまぁ・・・。」
「あーあ、まいったなぁ。アスタさん。・・・俺は、死にたくないな。」
「ほー、そうかそうか。わかってくれ・・・」
「一人ではな!!!」
「は?」
アスタさんはもちろん。ファムも驚いたように俺を見上げる。
「俺はファムとこの街を出てファムの両親の所在を確かめる!!もちろん、あんたを負かして、宝刀も頂いてだ。それが叶わないなら、・・・俺はファムと共にここで死ぬさ。」
俺はファムの手を取り立ち上がらせて、腰に手を回す。
「それでもいいかな?・・・ファム。」
「はっ・・・はい。」
ファムはギュッと俺に抱き着いてはっきりと返事をしてくれた。最初に言った通りだ。覚悟なんてもんはとっくにできているんだ。死ぬことの覚悟も、生きてすべての責任を背負う覚悟も。
「そう・・・か。残念だ。」
アスタさんは右手を振ると観客の声が一斉に聞こえる。ザワザワと騒いでいる。そりゃそうだよな。こっちの話は聞こえないんだけど、姿はしっかりと見えているんだから。なにやってるのかわからないだろうし。
「しずまれーーーー!!!」
アスタさんが魔法で拡張した声を張り上げる。その声にシィーンっと静かになる。
「ファフニールよ。これからゴーレムのリミッターを解除する。二人でこれを滅してみよ。二人でだ!!どちらかが死ぬことは許さん。もし、御霊様が死んだときは・・・このアスタが責任をもってお前を殺してやる。」
「おばあちゃん・・・。」
「・・・せいぜい、・・・がんばるんだぞ。」
アスタさんはゴーレムに向けて手を翳して握りしめる。コーレムの心臓あたりでなにかが弾けてきえた。
オオオオオオオオオオォォォォォォーーーーーー!!
ゴーレムが雄叫びを上げた。空気が振動している。リミッターが外れたゴーレムっていうのはこんなにも恐ろしいものなんだな。いや、いいんだ。死んだらそこまでだし、きっと一人じゃない。そう思うと恐怖心は一切なかった。ファムも同じようだ。俺とファムは頷いてゴーレムの左右へと散る。ファムは魔法の詠唱しながらゴーレムの気を引いている。俺は折られた剣を手に取って構える。切っ先は折れて短くなっているがないよりはましだろう。ゴーレムが幾度となく爆発を受けている。ファムが連続で魔法を打ち続けているのだろう。俺は隙をみてゴーレムの足を切りつけてうまく立てないように切り取る。膝をついたゴーレムから離れるとファムも俺の元へと帰ってきて、目を瞑り俺と手を握ぎり今までで一番長い詠唱を行う。なんだろう、こんなにも気持ちが落ち着いているなんて不思議だな。
「おにいちゃーーーん、ファムちゃーーーん。負けないでーーー!!!」
リーナも声を張り上げて応援してくれている。その応援に押されるように観客から応援コールが溢れてきた。やっぱりファムは愛されているんだなぁ。そう思ったときにファムは目を開けて詠唱を終える。その瞬間!!大きな竜巻がゴーレムを覆い腕・足・頭とはぎ取っていく。俺とファムはその風に飛ばされないようにお互いを支えてしゃがみこむ。竜巻が止んだ時にはゴーレムの胴体だけがゴロンと残り、他はなにも残っていなかった。・・・終わったのか!?観客が歓喜の声を上げる。・・・が、アスタさんを見てみると、残念そうに首を振っていた。・・・まさか!?うそだ・・・ろ?
ゴーレムは次々と再生をしていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます