017
とりあえず、俺はファムから離れてゴーレムの横の方へ位置取りをする。ゴーレムはまだ動かない。ファムもチャンスと思ったのか短い詠唱で炎の玉を作り出しゴーレムに向けて放つ。ゴーレムの体に命中はしているが、傷一つ付かない。
「これは・・・どうなんだ?いけるの・・・か?」
ゆっくりとゴーレムが動き出した。その動きはかなりゆっくりめでこれなら捕まることはなさそうだ。俺はゴーレムの背後まで行き、様子を窺う。それでもできるだけ距離をとりたいと思っているので後ろにずり下がりながらいると、舞台の端まできてしまっていた。アスタさんに結界が引かれているので見えない壁みたいのに阻まれて舞台上から降りることも出ることもできないらしい。
「御霊様よ。覚悟はできているのかい?」
アスタさんが俺の後ろから話しかけてくる。油断させる為の罠だろうか。
「・・・覚悟?ああ、もちろんだ。ゴーレムをぶっ壊してなんとかの宝刀だかを手に入れてやるさ。」
「そうかそうか。・・・だが、それは本当の意志、覚悟なのか、な?およ!!」
「御霊さま!!避けてーーー。」
俺はアスタさんの変な反応で気づき、ファムの声に条件反射のように横へ飛び、ゴロゴロと転がる。なにか、飛んできていたような・・・。俺が元いた場所を見てみると岩石の破片が転がっている。恐らく、結界に当たって砕けたんだろう。ゴーレムは俺に向かって体の一部を飛ばしてきたみたいだ。
「あーはっはっはぁーー。よそ見は命取りですよ、御霊様ぁ。」
この人は本当にあの神殿であったアスタさんなのか?こんな攻撃をファムにもするつもりなのだろうか。あんなに仲のいい感じだったのに・・・。
ファムのほうを見てみると、攻防は続いているようだった。ゴーレムが飛ばす岩石を風の力で弾いている。合間に攻撃をしているようだが、効果は薄いみたいだな。俺はどうしたらいいんだ?このままとりあえず後ろからでも蹴りの一発でも入れてやればいいのか?ファムに声を掛けたいんだけど、こっちに気が向くとファムに隙ができて攻撃にさらされてしまうのではと思うと掛けるに掛けられない。
「おにいちゃーーーん、このままじゃファムちゃんがぁぁ。」
「はっはっはぁ、おにいちゃんか?。御霊様、ファム以外にも、もう愛人を作っておいでのようだな。これは傑作だ!!」
くぅ、とりあえず、ゴーレムに突っ込んでみよう。そろそろと近づくと頭の中にファムの声が響く。
『御霊さま、今はまだ、そのまま待機していてください。私がチャンスを作ります。もう少し、もう少し我慢していてください。』
俺はファムに言われた通りにゴーレムの動きに警戒をしながら距離を取る。ファムは場所を移動しながら岩石を風の力で回避している。
「おらーー、いつまでファムちゃんにやらせてんだーー。てめーー、それでも御霊かーー。」
誰かが野次を飛ばす。わかってる。わかってるさ、情けないような状態になってることくらい。それでも俺はファムの指示通りに距離を取っている。
「なっさけねーなぁ、今度の御霊さまわーーよぉ!!ああぁ??」
野次につられて観客もザワザワと騒ぎ始める。
『皆様ー、お静かにお願いします。どんな戦い方でも野次はやめてくださーい。』
MC神官は野次を止める気ないな。いいんだ。俺がどんなことを言われたって構わない。ヘタなことをしてファムを危険な目を合わせるくらいなら我慢できる。
『御霊さま、そろそろ行きます。用意して待っていてください。』
「お、おう!」
俺の返事にアスタさんが不思議そうに考える。土煙が上がる中、風でその煙を消し飛ばすとそこには岩石の山が出来上がっている。それは押し固められたかのように岩石が一つの鉱石のようになっている。
「なんだ?あれは・・・。」
アスタさんも不思議そうに見ている。ファムはただ、風の魔法で回避していたわけではなく飛ばした岩石や土などを一つの場所へ固めていたらしい。そして。ファムの早い詠唱から固められた鉱石がはじけ飛んだ。飛び跳ねる岩がゴーレムにも当たりゴーレムは少しよろめいている。
「さっすが、ファム。じゃぁ、この隙に。」
俺はゴーレムに向かって走り出す。腰の根本辺りにとび蹴りを一発。・・・まったく効果がないようだ。次の瞬間ゴーレムの裏拳が飛んできた。態勢も悪くガードはしたものの吹き飛ばされる。
「ぐぁぁあ、イテェ・・・。」
「きゃーーーー!おにいちゃん!!」
リーナが叫んでいる声が聞こえる。観客もザワザワとしている。とりあえず、なんとか骨は折れていないようだ。ファムが風の力で裏拳の威力を下げてくれたようだな。あんなのをまともな力で喰らっていたら・・・。そう思うと身震いする。骨までいっていないとしても俺は痛さで起き上がれない。俺を不気味な影が覆う。ゴーレムは俺に向かって拳を振りかぶっているようだった。あ、死ぬかも・・・。目を瞑って覚悟を決める。
「いやーーーーーー。やめてーーーー!!」
ズズーーン。・・・目を開けると、なんとも、ない。ゴーレムの腕が綺麗に切り落とされてゴーレムは膝をついている。そして、俺の横には綺麗な剣が刺さっている。石で作られている剣なのか!?
「御霊さまーーー。それで!!」
ファムが声を張り上げる。俺は恐怖もあってか夢中で剣を持ち、膝をついているゴーレムの顔を一突き。そのまま背中に回って背中にもう一突き。明らかなダメージを受けているようでゴーレムが倒れた。俺は剣をもったままバタバタとファムの元へと走っていく。
「はぁはぁはぁ、ここ、こんな感じでよかったのかな?」
「はい。素敵です。御霊さま。」
ファムはそう言いながら俺の腕の具合を見る。そして安心したように一息つく。俺もファムの隣に戻ってきた安心感を感じているとまた痛みが出てきた。夢中になると痛みって感じないものなんだな。
「ファムがダメージを和らげてくれたんだろ?」
「え?・・・いや、私は・・・。」
「ファフニーール!!さすがわが孫。アカデミー創設以来の最高位の首席を取っただけあるわ。」
アスタさんが嬉しそうに叫ぶ。そして、両手を広げて閉じる。その瞬間周りの音が消えた。俺は周りを見渡すが、観客はなにかを言っているが聞こえない。どういうことだ!?
「周りの声がでかすぎるわ。リーナにはあとでしっかりと言っておかないとね。」
「おばあちゃんは遮音術を使ったの。たぶん、こっちの声も周りには聞こえていないと思う。」
「うむ。ファフニール。正解だ。・・・ああ、もしかして終わったと思っていないかい?ふーーー。これからだよ!!」
アスタさんが詠唱を行うとゴーレムがまた起き上がってきた。切れた腕も周りの岩を吸収するように再生していく。・・・くっ!また、ふりだしか・・・。
「次はもっと早いぞーー。御霊様よ。上手に避けなされ。」
ドンドンドン!!とさっきとは比べ物にならない速さでゴーレムが突進してきた。俺は逃げるように回り込む。不意に打ってくるパンチも剣を盾になんとか回避する。ファムは風を纏っているのか上手にゴーレムの攻撃を避けている。ゴーレムはファムを仕留めるのは不可能と判断したのか、今度は俺に集中して攻撃をしてきた。
ズドーン!!ブワァーー!!
避けてはいるが、舞台に響く衝撃とパンチの風圧で体が安定しない。このままじゃ、やばいかも!!そう思った瞬間避けられない角度からゴーレムのパンチが来た。俺は反射的に剣を盾にしてガードする。が、あまりの衝撃と威力に俺は剣を手離して吹っ飛ばされた。
「ぶっうおぁ・・・。」
血を吐いた。さすがにまともに喰らったから体もただじゃ済まないようだ。剣も折れてしまったし、打つ手、ないのか・・・。ファムが慌てて俺に駆け寄り肩を貸してくれる。
「御霊様よ。このまま続ければあなたは死にますぞ。・・・ファフニールに言って負けを認めなさい。その若さで死にたくはないだろう?」
「・・・く、なにを言っている。」
「それともここで犬死にするのかい?言っておくが、あなたは死ぬことになってもファフニールは死なないよ!?本当はこの子はゴーレムの攻撃なんてなんともないんだ。本当なら一撃で消滅させるだけの力をもっているんだよ。」
ファムは目を伏せて黙っている。アスタさんは声を強く叫ぶ。
「なぜその力を使わない!?そんなのは簡単なことだ。御霊様!あなたがここにいるからだ。このゴーレムを消滅させるには一度に膨大な力を解放しなくてはいけない。そうすればどうなる??わかるかい??わかるだろう!?その体で一度体験しているんだからなぁ!!!」
「え!!??それって・・・。」
嫌な記憶が甦る・・・。
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