016

神殿内の奥には闘技場みたいな施設があるという。昔そこでは魔法の鍛錬や試合を行っていたらしい。大会なども開かれるようで、広い舞台上の以外は360度観客席がある。俺とファムは控室で緊張しながら呼ばれるのを待っている状態だ。

「なんだか緊張しちゃうね。相手ってまだわからないんでしょ?」

「はい、本来なら婚約式の後にすぐ告知されるんですが、今回は異例の状態ですから。」

「そっかそっか。異例ね異例。ふふっ」

「すいません。ファムが宝刀をなんていうから・・・」

「ファム!もうそれはいいから。それにいいじゃん、異例の扱い。要するにめったにない機会なんだろ?ぜひとも成功させて度肝を抜いてやりたいね。」

「・・・そうですね。はい、そうです。」

「ところで、一応ざっくりとの確認なんだけど、まず俺は相手を挟むようにファムと逆側へ行くんだよね?」

「はい、そうです。どんな方が相手でも強力な魔法を放つときには隙ができます。そこを見逃さずにアタックしていくというのが基本戦法になります。」

「うん。で、あわよくば魔法をキャンセルさせてファムが決める・・・でいいんだっけ?」

「はい。」

よし、大丈夫。俺は足は速い方だし、傷も今はあまり痛くない。いけるいける。考えてみれば2対1っていうのがもうハンデみたいなものだよな。

「もし、詠唱省略をしてきたら、とにかく逃げるんだよね?」

「はい。省略系の魔法は威力もないので、万が一当たったとしてもさほどダメージはないと思います。ですが、できるだけ逃げて下さい。・・・怪我、してほしくないので・・・。」

「それはファムも同じだからね。」

「ユウタさま・・・。」

俺とファムはじっと見つめあう。考えてみると、ここって密室に二人きりなんだよな。ああ、こんなときなのに不謹慎だなー俺は。

「ファムさま、御霊様。どうぞ、こちらです。」

係りの神官が呼びに来た。俺たちはよし、っと立ち上がり、神官についていく。

開けたところに出ると、周りの観客がたくさんいることに気づく。多少ザワザワしているがそれでも大会ではなく儀式、試験みたいなものなんだからバカ騒ぎをしているわけではない。観客席の一番前にはリーナとフィリアさんがいた。

「みたまさまーーー。ファムちゃーーーん。がんばってーーーーー。」

大きな声で応援してくれている。フィリアさんは自分の胸に手をやり、ファムに向かって頷くような素振りをみせるが、それを見たファムは首を振る。なんの合図だろ?

『それではー、只今より!賜物の儀を執り行います!!観客の皆様はお静かに見守る様にお願いします。また、当事者以外の方の支援・攻撃は一切禁止になります。場合によっては観客席に遮音結界をはることもありますので、ご了承ください。』

なんだあ、マイクみたいのを使って、これじゃなにかの見世物みたいだな。

『それでは、担当神官様!こちらにどうぞーーー。』

俺たちと対面する向こうの出入り口から人が出てきた。その人物に、ファムの表情が強ばる。目を凝らして見ると・・・大神官様・・・アスタさんだった。


「うそ・・・でしょ?なんでおばあちゃんが?」

「・・・・・・。」

アスタさんが近づいてきて舞台上の手前まできた。

「ファフニール。あんたの覚悟みせてもらうよ。」

俺とファムはMC神官に促されるように舞台上へ上がる。アスタさんも上がるのかと思いきや、階段の途中で止まっている。

「私はね、もう歳だから・・・」

???。棄権ってことか?ファムの顔がさらに強ばる。アスタさんがなにやら詠唱を始めた。えっと、まだ、始まってないからアタックしにいっちゃいけないんだよ・・・な?

「そ、そんな、まさか・・・。」

ファムが声を上げると同時に俺たちの目の前には大きな文様が現れてそこから巨大なゴーレムが出現した。

「げ・・・まじか・・・。」

圧倒的な体格差・・・俺の身長が170程度だとして相手は。3.4mは超えている。うーん、事前の話し合いがまるで意味をなさない気がする。観客からも悲鳴やどよめき、心配をする声があがっている。MC神官はお静かにと声を掛けているが、その声も強ばっているようで震えている。

「それと、もう一つ・・・はぁーーー!!」

アスタさんがさらになにかを唱えると舞台上の周りが光の線で包まれた。

「嘘・・・結界まで・・・。」

ファムは呆然として動かない。

「これでお前たちはここからは逃げられない。どうだい?怖いだろう?降りるなら今の内だ。どうする?ファフニール。」

「あー、ちょっと。アスタさん?これってありなんですか!?」

俺はゴーレムを指差して抗議をする。

「御霊様もお可哀想に。この子に騙されて乗せられて、こんな危険なモノと戦わなくちゃいけないなんてねぇ。ヒーヒッヒッヒッ。」

やばいな、アスタさん。ちょっとイってるな。

「ユウタさま。私を信じてくださいますか?」

ファムは俺の手をギュッと握る。俺もそれに応えるようにファムの手を握り返す。

「なにをいまさら言ってるんだよ。さぁ、やろうか。」

「そうかいそうかい。じゃあ、MC神官よ・・・ゴングじゃ!!」

カーン!!っと俺の心の中でゴングが鳴った。

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