015

美形の神官が翳している手を回すと回転がどんどんと複雑に高速化している。このままやればバターになってしまうのではないかと心配するくらいに回っている。周りは感心するように、安心するように、落ち着きを取り戻してきている。この美形神官は有名人なのだろうか。

「ルイス!もういいの。解放してあげて。」

「・・・。」

ファムの声に応えるようにルイスという美形神官は手を路地のほうへ向け、亜人のおっさんを吹き飛ばす。おっさんは木箱に突っ込んで気を失っているようだ。

「酔い覚ましにはちょうどいい観覧車だったろう?」

周りはドッと笑いだす。ファムちゃんに食って掛かった罰だと言った口調でおっさんを罵る者たち。俺はなんだか亜人のおっさんが不憫に思えて、おっさんのところへ駆け寄る。

「おい、おっさん。大丈夫か?おい。」

ペシペシと頬を叩いて起こしてみる。周りからは寝かせとけとかほっとけほっとけと言われるがやめる気にはなれなかった。住人達はファムとルイスを取り囲むように賞賛をあげている。チラリと見えるルイスの顔はどこか満足げで俺はその顔にほんの少しだけだが嫌気が差した。

「ん?んーヴヴン」

おっさんが目を覚ましたようだ。俺はほっとして、おっさんを起こそうする。

「お・・・悪いな・・・」

おっさんの目はまだ定まっていないようで俺が起こそうとしているのに気が付いていないようだ。腕を肩に回して起き上がろうしていたら、ファムが群衆を掻き分けて俺の方へやってきた。その姿を見たおっさんは睨むような眼差しをファムに向ける。

「これだから天使族は!なにかあれば魔法魔法で。」

ファムはピタリと止まり手を目の前で握って俯いている。その後ろからルイスが近づいてきたのを見たおっさんは走って逃げていった。ざまーみろと住人たちは言い、ワイワイと騒いでいる。おっさんが走れることを確認した俺は安堵し、今だ俯いているファムに話しかける。

「ファム、ごめんな。俺が助けようと思ったんだけ・・・ど、痛って。」

ファムに近づこうと立ち上がると、背中と肩に痛みが走り膝をつく。ファムが慌てて俺に駆け寄って、傷を看てくれた。応急処置の為、絆創膏や包帯をどこからか取り出して巻いてくれる。いつの間にこんなものを持っていたんだろう。ていうか、魔法でこういうのって治せないんだな。

「亜人の鱗で切ったんだね。肩なんて貸すからそんな目に遭うんですよ。御霊、様?」

まるで見下すような眼差しで俺を見つめるルイスからは明らかな敵意を感じた。ファムは背中を向けて気づいていないかもしれないが、この目、表情。明らかに他の神官とは違う異質なものを感じる。そして、どこかでこんな同じような視線を感じたような気がするんだけど、どこだったかな・・・。

「さ、ファムさん。賜物の儀までもうあまり時間がありません。急いだ方が良いのでは?なんでしたら僕の力で送って差し上げましょう。」

ファムは黙って首を振り、そのまま動かない。ルイスはふぅと一息ついて集まっている群衆を散らしながら神殿のほうへと行ってしまった。俺とファムはちょこんと座って沈黙している。なんか・・・さ、こんなん多くね?イチャつくようなことも結構あるんだけど、こうやって沈黙状態もよくあるよな。・・・どうしよっかな。

「御霊さま。ありがとうございます。」

「え?」

「あの亜人のおじさんを介抱してくださって、ありがとうございました。」

ファムは薄っすらと涙を浮かべながらニコリと笑う。ああ、よかった。俺、間違ってなかったんだな。俺はファムに手を借りて立ち上がる。背中の傷はまだジンジンと痛む。が動けないわけではない。大丈夫。賜物の儀、やれる。

「それにしても凄い魔法だったね。あのルイスっていう神官。」

「そうですね、魔法・・・ではないのですが。・・・あの子は私に次いで力を持っている神官ですからね。」

あ、ファムはもっと凄いんだ・・・。怒らせたらやばいかもな。観覧車どころじゃなくなるかもしれない。

「神官といってもいろんな方がいて皆すべてが他種族を受け入れているわけではないんです。そんなことはあってはいけないのに・・・。」

それはそうだろう。誰しも心があって、考えがあって、気持ちがある。それを全て統一するなんて不可能だ。そんなのはわかりきっているのに・・・。

「すいません。御霊さまはきっと聞きたいことがたくさんあると思います。だけど今は、賜物の儀に行きたいと思います。・・・その、賜物の儀が終わったら、その、・・・・わわわたしの、部屋で、たくさんお話をしま、しょう?ふふふ、ふたりきりで。・・・昨日みたく・・・。」

カタコトになりながら一生懸命に言うファムがとても愛らしくて可愛くて俺はなんだか笑いがこみあげてきた。

「ふふふ・・・はは、あっはははぁ。」

「もう!ひどいですー。勇気出して言ったのに。笑うなんてーーー。」

ぽかぽかと俺の胸を叩くファムがまた可愛い。確かに気になることがさらに増えた感じではあるけど、今はいい。とにかく俺たちは急いで神殿へ向かった。

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