013
「あ、うん。ありがと・・・。」
ファムはスウェットみたいなのにパーカーみたいなモコモコの上着をしっかりと上まで閉めたような格好だった。正直ガッカリだ。これだったら、さっきの普段着のほうが断然可愛い。いや、寝間着にそこまで求める方が悪いのかもしれない。だけどさ、ギャップが激しすぎないか!?ギャップ萌えって言葉があるだろう?今回のギャップは本当に悪いほうのやつだね。
「ユウタさま?どうかしましたか??」
「あ、いや。」
俺は手渡された服をもらって浴室へ行き、着替える。なんだろう・・・この服は。和装か??ジンベイみたいな服だな。まぁ、寒くないからこんな半袖、ハーフパンツみたいのでも、まあ、いいんだけど・・・。
「あ、ユウタさま。可愛いです。似合ってますね。」
「あ、そう?ありがと・・・。」
「?????」
ファムは俺のリアクションを不思議そうにしている。寝るのに通された部屋は当然ファムの部屋ではなく、ゲストルームとしては立派すぎるくらいの立派な寝室だった。もちろん一緒に寝るなんて期待は・・・してたけど。まあ、それはないよな。
「それじゃ、おやすみなさい。ユウタさま。」
にっこりと笑い。ファムは寝室の扉をしめた。うん、なんかアッサリしてるね。今日はなんだか色々あってファムと良い雰囲気になることも結構あったがなんだろう、この最後のあっさり感。なんていうかこう、納得がいかない感じ?わかるかなぁ・・・わっかんないだろうなぁ。とはいえ、このままモンモンと考えてもしかたないよな。・・・ストレスも溜まるだけだし、もうさっさと寝ちまおう。俺は少し荒々しくベットへと入り、灯りを消す。が、眠れる気がしないのでしばらくぼーっとしてみる。
「こんな状態で寝れるかなぁ・・・。」
頭の中を駆け巡るのは今まであったファムの可愛い仕草や表情。色々あっていろんな人と出会ったけどやっぱり一番に思い出すのはファムのことだった。ベットのある壁には窓がついており、カーテンがしっかりと閉めてあったので気晴らしに開けてみる。空を見てみると、満月・・・かな?少し欠けているような気もするけど。・・・ファムは一緒に寝たいとかって思わなかったのかな?ああ、いや、思ってたらこんな状態じゃないか。ていうか、そもそも明日は決闘の日なのに一緒に寝てどうするんだっていう話だよな。いやいや、そもそも好きだって言われたからって会っても間もない男と一緒には寝ないよな。いや、でも・・・。はぁ・・・未練がましいのはいい加減やめにしよう。今日はファムの可愛い部分をたくさん見れたじゃないか。それでよしとしよう。・・・寝ることに集中しようとするがうまくいかないものだ。一人でいるとファムのことだけじゃなくって自分自身のことだって考えてしまう。
「ああ、こんだけ色々あったのに俺ってこの世界にくるまで、なにをやってたのかいまだに思い出せないんだよなぁ。」
思い出そうとすれば頭の中のモヤモヤ感は広がるばかり。気持ちの良いものではないからあまり考えないようにしていたんだけど、こう、一人でぼーっとするとどうしても余計に考えちゃうな。ファムは御霊さまはだいたいそんな感じって言ってたよな。他にもそういうニュアンスのことを言ってたから、きっと俺みたいに自分のことがわからない人間が他にもいて、きっとそういう人間のことを御霊って呼ぶことになっているのかもしれない。明日の賜物の儀では、観客とかは来るんだろうか?来ればその中に俺と同じ御霊がいるかもしれない。そうなれば会って話をしてみたほうがいいだろうな。・・・ああ、やることがいっぱいだな。そんなことを考えていたらだんだんと眠くなってきた。
もう・・・寝てしまおうか・・・。
・・・・・・・・・。
『御霊さま、聞こえますか?』
俺は急に頭に聞こえたファムの声に目を覚ます。ウトウトしてから時間はあまり経っていないようだ。
「・・・なんだい?」
『御霊さまは眠れますか?』
「あ、いや、まだ眠気はきてない・・・かな?」
本当は寝かけていたんだけど、こう言ってしまう自分がいる。
『そうですか・・・このまま少し、私の話をしてもよろしいでしょうか?』
「あ、うん。いいよ。」
ん?静かだ・・・。少し間を開けてファムが話し出す。
『もうお気づきかと思いますが、ファムには両親がおりません。・・・両親はとても魔術に長けた方でこの世界の前線で魔王軍と戦っていたんだそうです。数々の町や村を救い様々な栄誉を受けた私の自慢の両親なんです。』
確かに広い家と部屋の数を考えれば一人暮らしっていうには大きすぎるとは思っていたんだが。
『自慢と言っても物心ついた頃には両親はすでにいなくなっていました。両親のすごい話はおばあちゃんからたくさん聞かせてもらっていたんです。おばあちゃんも嬉しそうにいつも話してくれました。』
おばあちゃん・・・アスタさんのことか。
『だけど、ある日。両親がなんでいなくなってしまったのかが気になってアカデミーのデータを探して、ある記録を見てしまいました。そこに書いてある記録には私の両親、父と母は魔族に殺されてしまったようなのです。』
「殺されてしまった、よう?」
『はい。わからないんです。その状況を実際に見た者がおらず・・・いえ、その時の惨状は凄まじく、生き残った者はいなかったといいます。残ったのは焼けた大地と屍になった者と生き残った魔族だけだろう、とのことで。後日、現場に向かった視察隊の話ではそこに魔族はおらず、死んだ者を喰い漁る魔族崩れの者や獣だけだったそうです。』
「ひでぇな・・・。」
『両親もその惨状に巻き込まれたのは間違いないのですが、遺体は見つかりませんでした。遺体が残っていたとしても荒らされて識別はできなかったと思いますが。』
ファムは感情なく淡々と語る。怒りも悲しみも感じられない。ただ、起きたことをそのまま伝えるように。そして、少し間を開けて力強く言う。
『ファムは両親がどうなってしまったのかを知りたいんです。この街を出て、その惨状の現場までいき、すべてを確認したいんです。その為には、宝刀がどうしても必要で、それを得る為にこれまで死にもの狂いで精進をしてきました。』
「・・・うん。」
『御霊さまは実はファムの我儘に付き合わされているだけなのかもしれません。なにも言わない御霊さまに付け込んで都合の良いように利用しているだけなのかもしれませんね。だから・・・。』
ふうっと一息入れる。俺は黙ってファムの話を聞いている。
『・・・だから、危ないと思ったら。不審に思ったら、愛想が尽きたら、・・・逃げていいんです。御霊さまが言ってくれた言葉は本当に、嬉しかった。・・・でも、逃げて、いいんですからね。』
「どうした?また、急に。」
『あ、いえ・・・そうですね・・・。御霊さまは今、月が見えますか?・・・あのお月様を見ていたらちゃんと伝えなきゃって思ったんです。あの満月になりきれない少し欠けた月をみていると、まるでファムみたいだなぁって思ったんです。満月になれない。全てをさらけ出せない、どこか、なにかを隠してそれでも自分の為だけに輝こうとする。醜い私に。』
ファムも今、俺と同じように月を眺めながら話しているのだろうか。
『ごめんなさい。寝る前にこんな暗い話を。明日、もし、御霊さまが望むのであればこのまま部屋にいてください。ファム1人でも宝刀を手に入れてみせますので。周りから何を言われたって気になんかしません。そんなことより、御霊さまは本当はわざわざ危ない目に遭う必要なんてないんです。ただ、それだけは伝えたかったんです。・・・それでは・・・おやすみなさ・・・』
「ファム!!ちょっとまって!!」
『・・・はい。』
俺は強い口調で言う。
「・・・悪いんだけどさ、勝手に話を終わらせないでくれるかい?・・・そもそも寝る前にこんな暗い話を聞かされたら、寝られないんだけど!だからちょっと、今から俺の部屋まできれくれないかな!?責任!取ってほしいんだけど!!」
『・・・責任・・・ですか!?』
「そう!早く!!」
『・・・わかりました。・・・では、今から、行きますので。・・・目を瞑っていてもらえますか?』
「わかった。早くね!!」
俺は目を瞑り、黙って待つ。少しして・・・。
ガチャ!扉が開く音がした。タッ・・・タッ・・・タッ。ベットの横あたりで足音が止む。多分ファムがきたようだ。ズルなどはせずにしっかりと目を瞑っているからなにをやっているかはわからないが、ベットの横に立ってなにかをしているのは音でなんとなくだけどわかる。そしてモゾモゾと布団の中に入ってきて俺の隣・・・頭の横に座っているようだ。
「もう、目を開けていいかい?」
「・・・はい。」
月の光に照らされたファムはネグリジェとでもいうのか白のレース状のキャミソールに似た服装に変わっていた。さっきの残念な服装からのギャップが激しすぎて声もでない。微かに手に触れるファムのフトモモがとてもスベスベで月の光で輝いて見える。当然、大きな胸元は大胆に開けており、綺麗な谷間が出来ている。欲情するわけではない。あまりにも神聖で美しく輝くファムに俺は圧倒されてしまった。
「綺麗だ・・・。」
ふと、漏らすように言葉が出る。ファムはウルウルとした瞳で俺を見つめる。そして恥ずかしそうに布団へと潜る。俺の腕にしがみつくように横になり胸の谷間がキユーキューと腕に押し付けられる。恥ずかしさと不安で堪らないんだろう。俺がファムの方を向こうと体を動かすとファムは恥ずかしいのか俺に背を向ける。俺はファムを後ろから抱きしめた。
「御霊さま・・・。責任って・・・もしかして・・・。」
ファムは不安からか小さくなるようにギュッと丸まっている。
「俺を利用したいならすればいい。いらなくなったら捨てればいい。それでも俺はなにも後悔はしない。それも全て俺が望んで、選んでやることだから。」
「・・・・・・。」
「だから、あんなくだらないことは2度と言うな。都合の良いようにしてるだって?上等だ。・・・じゃあ、俺だってファムを俺の都合の良いようにしてやるよ。」
そう言って、俺はファムの胸を後ろから軽く揉むように触る。
「あ・・・。」
ファムが吐息を漏らす。
「どうだ!?これでおあいこだろ?だから惨状の現場だっていくらでもついていってやるさ。必要なものがあれば手に入れる。当然だ。なんてったって俺たちは結婚するんだから。」
「・・・はい。・・・ありがとう・・・ございます。」
ファムは泣いているのか?声を殺し体を上下に揺らしている。その間も俺はファムの胸を触り続けている。自分ではかっこいいことを言ってその気分に酔っていたいところなんだけど、ファムの胸はとても柔らかく弾力に溢れているもので・・・。こんなシリアスっぽい場面でも意識はそっちに夢中になりそうだ。俺がしばらく、弾力を楽しんでいると・・・。泣き止んだのか、俺はファムが随分と大人しくなったのに気づく。そして・・・。
「御霊さま・・・触りすぎです!!」
「いてててて!」
ファムが俺の手をつねるので慌てて胸から手を放す。
「フフフッ。もう!ユウタさまったら。」
「はははっ。ごめんごめん。」
もう、泣くのは終わりのようだ。
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