012
家に着くと、ファムが壊した部屋・・・正確に言えば俺のせいで壊れた部屋は綺麗に修復されていた。ご飯を食べに行く前に修復の連絡を入れていたみたいなんだけど、こんな数時間であの悲惨な状態が元に戻るものなんだな。やっぱり、異世界っていうのは違うな。ファムはお茶を入れて持ってきてくれた。さっきとは違い、ここは居間のようだ。まあ、部屋であんなことがあったんだから、話をするのにまた同じ部屋にいくのは色々と問題がありそうだ。居間も綺麗に整頓されていてファムの几帳面さがよくわかる。だけど、一人暮らしにしては随分と広いような気がする。ファムは俺にカップを渡し、俺とテーブルを挟んで向かいに座っている。
「御霊さま。先に御霊さまが聞きたいことを教えてもらえますか?」
「あ、うん。じゃあ、まずね・・・。」
お茶を一飲みして、考えを整理する。・・・そうだな、まずは・・・。
「婚約ってなにをするの?」
「あ・・・えーっと。それは、賜物の儀が終わってからでもよろしいでしょうか?ずるいって思われちゃうかもしれませんが・・・。」
ずるいってなんだろう。やっぱり宝刀を手に入れるための偽装婚約とかなのかな。
「あー、うん。じゃあ、賜物の儀って細かくいうとなにをするの?」
「賜物の儀は本来は婚約式の後に行うものなんですが、正確に言いますと、神器を掛けて二人の力を神官様にお見せする儀になります。儀というか、決闘みたいなところがありますね。」
「けけ、決闘!?あれ?模擬戦って言ってなかった!?」
「はい。でもでも、安心してください。私が御霊さまには指一本触れさせませんから。あっという間に終わらせちゃいます。」
よほどの自信があるのか、終始笑顔なんだが。でも、ここまで言うのには根拠があるんだろう。その根拠を聞いてみたいんだけど、あんまりファムを疑うようなことは言いたくない・・・かな。
「あ、じゃあ、俺って気が付いたらいっつも外にいるのはなんでだろう?たしか・・・何かを見たらわかりやすいって言ってなかったっけ?」
「・・・それは、その方に寄るみたいです。婚約式が終わればそれもなくなりますので安心してください。」
「その方に寄る?」
「はい。」
それじゃ、まるで。俺以外にもこんな目にあっている人がいるみたいだな。
「そっか・・・。まあ、いっか。フィリアさんだっけ?あの人はファムより偉いひとなの?様ってつけてるのって初めて聞いたからさ。」
「あ、フィリア様は偉いというか、・・・ファムの憧れなんです。とても素晴らしい魔法術師で綺麗で聡明で優しくて・・・。でも、」
「・・・でも?」
「あ、いえ。とにかく私が目標とする方なので敬意を込めてフィリア様と呼んでいるんです。」
「そっかあ。すごい人なんだね。」
「はい。」
ファムは嬉しそうに返事をする。本当にフィリアさんが好きなんだな。
「あの、私からもお話をいいでしょうか?」
「あ、はいはい。どうぞ。」
ファムはふぅっと一息入れて俺を見る。
「えっとですね、その、えっと・・・。」
???。ん?どしたどした?ファムにしては珍しく相当動揺しているぞ。はーふーはーふーと呼吸を繰り返している。なんだか可愛いな。俺を真っ直ぐに見つめている。その表情は真剣だ。
「私は、御霊さまのことが好きです!!まだ、一緒に過ごしている時間は少ないかもしれませんが・・・御霊さまのことが・・・好き、です・・・。」
勢いに任せて言ったみたいだが、だんだんと声が小さくなっていく。
どうしたんだろう急に!!?・・・え?いきなり告白??そんなムーディな空気流れていたかな!?いや、嬉しいよ?めちゃくちゃ嬉しいよ!!けど、やっぱり最初に出てくるのはどうした?だよね。
「・・・御霊、さま?」
ファムは俺の態度に不安そうな顔をしている。
「えっと、その!ありがとう。嬉しいよ。でね、どどどうしたのかな?急に告、白とか?」
「え!?あ、はい。そうですよね。すいません。・・・すいません。」
ファムは少し悲しそうな顔をして謝る。
「ちがうちがうちがう。責めてるんじゃないのさ。嬉しいよ!ファムの気持ちは本当に嬉しい。」
そういってテーブル越しにファムの手を取る。ファムはあっ、と反応するが目を合わせてはくれない。
「ただね、急にどうしたのかなって思ったんだ。もしかしたら、なんか俺がそう言わせるような、なにかをしちゃったのかとか思ったりね。」
まぁ、そんなことはまったく思っていないのだが、とりあえずこうでも言わないと・・・っていうかもっとまともな言い方が思いつかないもんかね。自分自身の語彙のしょぼさが嫌になる。
「はい・・・。びっくりさせてしまったようですいません。えっと・・・。明日、賜物の儀がありますよね。」
「ああ、そうだね。明日は賜物の・・・儀。・・・明日!?」
ちょっと待って、そんな話って出てたっけ?思い出せ!今までのやり取り・・・。いやー、聞いてないと思うなー。
「え?言っていませんでしたか?」
少し驚いたように手を放して離れる。そして、考えるような素振りをみせる。
「・・・たぶん。俺も忘れてるだけかもしれないけど・・・。まぁ、いいよ。それで?」
「あ、はい。賜物の儀は護神の宝刀を掛けて争いになります。あ、賜物の儀は神器によって相手が変わりまして、最上位の宝刀を掛けるわけですからそれはもう凄腕の神官さまが担当するのだと思います。」
「・・・そ、そう。」
凄腕の神官って・・・。なんだかドンドン話が大きくなってる気がするんだけど。ファムって結構、後出しで深刻な話を出してくる節があるな。
「私はとっても強いので御霊さまには指一本触れさせません。だけど、やっぱりなにがあるかはわかりません。もしかしたら、私自身が・・・。」
「・・・・・・。」
「すいません。こんなことを言ったら不安になってしまいますよね?大丈夫です。私はどうなってもいいので御霊さまには傷をつけさせません。」
「ファム・・・。」
「だから・・・言えるうちに私の気持ちを御霊さまに伝えておきたいと思って・・・言わせて頂きました。」
静寂が俺たちを包み込む。なんて言ったらいいんだろう。なんて言ってあげたらいいんだろう。ファムはきっと本当に強いんだろう。だけど、俺が足手まといのせいでファム自身を傷つけることになるのかもしれない。庇いながら戦うんじゃそれは避けられないのかもしれない。もちろん、ファムはそんなことに不満なんてなくって、本当にそうなったとしても俺の為になにも構わず盾になって守る覚悟があるんだろう。それでも、それでもファムは女の子なんだ。傷だらけになって自分に一生残る傷ができたりしたら俺が受け入れられないかもしれないと不安になっているんだろう。だから、そんな自分になる前に、言えなくなる前に伝えようと・・・。
「ファム。・・・俺にできることはないのかな?」
「え?」
「俺はさー、喧嘩とかもできないし、素手ではなんにもできないんだけど。・・・ファムと、二人ともが無傷で乗り越えられるように、一緒になにかをやりたい。無傷が無理なら一緒に傷ついたっていいんだ。そして二人で乗り越える。ファムだけが傷つくなんてそんな格好の悪いことはできないよ。」
「御霊・・・さま。」
「あと、名前で呼んでほしいな。」
「・・・ユウタさま。」
「うん。」
俺はカップのお茶をグイッと飲みほしテーブルへ置く。ふぅ、言ってしまったぞ。もう後戻りはできない。いや、するつもりは毛頭ない。覚悟を決めて、あとは今の俺ができることをやるだけだ。
「ユウタさま。嬉しいです。宝刀を選んだのは私なのにそんな風に言ってくださるなんて・・・ファムは幸せ者ですね。」
「そう・・・かな?なんだか照れちゃうね。はは。」
「フフフッ。それでは、賜物の儀への細かい対策は明日にして、今日は早めにお休みになりませんか?」
「あー、そうだね。なんかいろんな話をたくさん聞いたから疲れたし、万全の状態で賜物の儀に臨みたいからね。」
「私もドキドキすることが多くって疲れちゃいました。えへっ。一緒ですね。」
「あ、ああ。そうだね。」
ファムは本当に可愛いな。ファムは寝間着に着替えると言って、自分の部屋にいってしまった。可愛らしさに動揺しているのか、カップを口に当てて飲もうとするが飲み干していたのを忘れていた。それにしても、好き・・・か。俺を宝刀を手に入れる為にただ利用するつもりなだけじゃないみたいだな。いきなり結婚してほしいから婚約の前に決闘か・・・。疑うわけじゃないけどファムの本当の気持ちをもっと知りたいな。俺はどうなんだろう?ただ約束をしたからっていうだけで決闘に臨めるんだろうか・・・。ファムのことも自分自身のこともわからないか。
ふぅ、落ち着かないな。考えたいことは山のようにあるんだけど・・・だって、これから寝るんだぜ?どうやって寝るのかが気になるし、そもそもファムの寝間着ってどんなのだろ!?あの胸のサイズだったらキャミソールとかならすごいことになりそうだ。ああ、こんな精神的にめちゃくちゃそうな状況でもワクワクが止まらない。
「あの、ユウタさまの寝間着はこんなのしかないんですがよろしいでしょうか?」
ファムが部屋から出てきた。その姿は・・・。
とても残念なものだった。
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