010

俺とリーナとファムの3人は食事をするために外で良い感じの店を探している。ファムのプランでは手料理を振る舞ってくれる流れになっていたようなんだが、例のあの後は、見事にファムから発せられた超強の突風・・・いや、嵐!!で部屋が吹っ飛んでしまったのだ。主に俺に向けて打たれたものなんだけど・・・。幸いにも俺は軽い怪我程度済んだのだが、部屋はほぼ半壊状態。急ぎで修理業者に直してもらうとのことでその間に外食でということになったのだ。・・・でこうして一緒に歩いてはいるのだが、外に出て以来ファムは俺たちの先を歩いてこっちを向いてくれない。・・・やっぱり、怒っているのかな。

「ねーねー、おにいちゃん?ファムちゃん、おこってるとおもう?」

リーナが小声で俺に話しかける。

「あー、いやあ、どう・・・かな?」

「そもそも、おにいちゃんがファムちゃんのしたぎをかくしてるからでしょ?ちゃんと、あやまったほうがいいとおもう。」

子供に正論をズバっと言われて返す言葉がない。

「・・・そうだよね。」

「このままじゃ、おみせについてもたのしくごはんがたべられないとおもう。」

「・・・そうだよね。・・・・うん、俺の、せいだよな・・・。よし!ちょっと、覚悟を決めてとにかく謝ろう。」

「そうそう、そのいきだよ。おにいちゃん。だいじょうぶ。まんがいちファムちゃんにきらわれちゃったら、リーナがおにいちゃんをもらってあげるから、ね。」

リーナは俺の腕にギュッとしがみつく。小さな胸が当たっているような気がするがまったくわからないな。ファムのあの感触が懐かしい。

「はは、そうならないように頑張るよ。」

それにしてもリーナはさらっと凄いことを言うな・・・。意味わかって言っているんだろうか。俺はファムの様子を伺いながらそろりと少しずつ距離を詰める。先を歩いていたファムがピタっと立ち止まり、こちらを向く。俺とリーナはあからさまな警戒をする。

「御霊さま・・・あそこのお店にしましょう・・・。」

ファムの顔つきは暗く、明らかにテンションが低いのがよくわかる。怒りが盛り上がりすぎて逆に暗くなっているのだろうか。

「あ、うん。お、お任せするよ。」

「・・・はい。」

ファムは返事をしたらスタスタとお店へと入ろうと歩いていく。

「ちょっとおにいちゃん!?あやまるんでしょ?せっかくのチャンスをぉ。」

「いやいや、タイミング的にはチャンスではなかったよ。絶対に。」

「もう、たよりならないんだからぁ。じゃぁ、リーナがチャンスをつくるから、ビシっときめてね。」

「え?ちょっと、待って・・・」

何をするつもりなんだ!?リーナはファムに少しずつ接近して様子を伺っている。だが実際の所、このまま様子を見てるだけじゃラチがあかないからリーナに任せるのも有りなのかもしれないな。ていうか、こんな年端もいかない女の子に頼るなんて、俺って結構ヘタレなんだな・・・。そうこうしていると、ファムが一人でお店に入ってしまったので、俺たちはそれに続くようにお店に入ろうとした。が、すぐにファムがお店から出てきたので俺は慌てて戻る。

「あの、御霊さま。お店が少し混んでいるようで、中で順番を待たなきゃいけないようです。・・・違うところにいきましょう。」

そういってファムが歩き出そうとしたら、リーナがすかさずファムの行く手を遮るように飛び出す。

「あ、ファムちゃん!!リーナがなかでじゅんばんまちしててあげるーー。ここのおみせのステーキはおいしいから、ほらおにいちゃんにたべさせてあげたいから」

そういって、リーナは走ってお店の中へ入って行った。ファムはキョトンとした様子でリーナを見送っている。・・・多分、これがリーナの言っていたチャンスなんだろう。覚悟を決めよう。よし、いくぞ。

「ファム!!あのさ、ちょっとこっちに来てもらえるかい?」

俺は店の入り口とは違う裏側へファムを誘った。ファムは少し驚いた様子をみせるがついてきてくれる。よし、ここなら周りには誰もいないし、少しぐらいなら大きな声を出しても大丈夫だろう。ファムは俺から少し距離をとって若干俯いている。ふぅっと深呼吸をして気持ちを落ち着ける。大丈夫。言い訳は色々と言いたい所だがここは全面的に謝ろう。いつまでもファムにあんな顔をさせておくわけにはいかないからな。

「ファム!ごめん。別に悪気があったわけじゃないんだ。ファムのぶぶぶらじゃーが欲しくてとかじゃなくって、・・・あ、ほら、椅子のザブトンに挟まってたのをとり出したら、ちょうど、ファムが来てさ、俺もびっくりして、つい隠すような感じになっちゃったんだ。」

あらら、つい口からでるのはやっぱり言い訳になってしまった。だめだだめだ、ちゃんと誠意を持って謝らなきゃ。ファムに恥ずかしい思いをさせたんだから。

「だから、その・・・本当にごめ・・・」

「御霊さま!!申し訳ありませんでした。」

ファムが急に頭を深々と下げて謝ってきた。俺はファムの謝罪の意味がわからず困惑する。・・・謝っているのは俺の方のはずなんだが。

「私は、御霊さまにあんなに強力な魔法を打ってしまいました。・・・一歩間違えたら死ん、・・死んでしまったかも、しれないのに・・・。私は、私は・・・なんて取り返しのつかない、ことを・・・。」

そう言うとポタポタと涙を流しているのか雫が地面に落ちていた。ああ、そうか。ファムは今の今までずっと自分が拍子に放った魔法で俺を傷つけた、最悪、殺してしまう事態を招いたことを反省、後悔をしていたんだな。・・・そんなことファムが気にすることなんてないのに。

「ファム・・・。」

俺はファムに近づいてそっと抱きしめる。ファムは震える手をギュッと胸の前で握りしめて小さくなるように俺に包まれている。

「本当に、本当に申し訳ありま、せん。」

「違うよ。ファムは悪くないんだ。あんなのはなんてことのないことさ。ほら、実際に俺は死んでなんていないだろう?・・・それにきっとファムだって反射的にやってしまったことなんだろうから、仕方ないさ。反射的にといえば、その、ほら?あれ、を隠した俺と同じだろ?お互い様さ。」

ファムは小さく頷く。ファムは宝刀を手に入れる為に俺と結婚をしようとしているんだろう。言ってみればたかだか俺とファムはそれだけの関係だ。だけど、なんでだろう。出会ってから全然経ってないのにファムが悲しそうな顔をしているとこんなにも胸が痛む。

「だから、そんな悲しい顔はしないでくれよ。ファムが悲しいとなんだか俺も辛いから。その・・・ほら、これから賜物の儀とかもあるんだからさ!元気出していこう。もう! 気にしないでさ、ね?」

「・・・はい。」

ファムは顔を上げる。俺の腕の中で・・・。神殿で接近したぐらいの距離にファムの顔がある。俺の心臓ははちきれんばかりにドクドクと鳴っている。

「ユウタ、さま・・・元気になれる、おまじない・・・くださいます、か?」

その言葉にドックンドックンと高鳴り続ける俺の心臓。もしかしたらファムにも聞こえているんじゃないかと思えるくらいに激しく鳴っている。ファムは恥らうように少しだけ顔をそむける。ここは、キスか!?ファムにキス、しちゃっていいのか!?だってファムは宝刀が欲しいから俺と結婚するんだよな?そんな俺相手でもキキキスしてもいいの・・・か?目の前にファムの唇がある。ほのかに赤く染まった唇が・・・。ファムは俺を見つめてそっと目を閉じて俺に身を唇を委ねている。・・・ここはもういくしかない!!いかなかったら男じゃない!!!

「あわわわぁ、キキキ、キス!?キスするの?」

・・・・・・。

お約束の展開というのか、なんというのか・・・気が付いたら俺たちの真横でリーナが顔を手で覆いながら凝視している。

「キャ!?あああ、私は!?な、なにを???あああぁ。」

ファムはリーナに気が付いてバタバタオロオロして今にも俺から離れようとしている。・・・まったくこんなお預けをくらうなんて、それなら!!。

「ファム。・・・元気が出るおまじないだ!」

俺はチュッとファムのおでこにキスをする。そうすると、ファムは顔を真っ赤にして俺を撥ね退けてどこかへ走っていってしまった。その姿を眺めながらリーナが一言。

「おにいちゃん、やるぅ。」

「・・・だろ?」

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