009

今、俺はファムの家にいる。あの後神殿では、儀式とかなんとか言って目を隠されて石みたいのに触らされたり、色々話を聞かされたんだけどまあ、とりあえず今はどうでもいいのだ。俺はファムの家っていうかファムの部屋にいる。ベットの横にある椅子に座ってファムがお茶を持ってくるのを待っている。なんだか落ち着かないな・・・。部屋の中を見回すと、まあ、女の子っぽい部屋だよな・・・。タンスがある。タンスがあるな。どうする?タンスがあるぞ。

「どうするじゃねーか。バカか俺は。」

今までどんな生活をしていたのかの記憶はまったく思い出せないんだけど、きっと俺は女子の部屋に来たのは初めてだろう。このソワソワする感じはたとえ思い出せなくても絶対に初体験と推測できる。

ん!?そういえばさっきからなんか椅子のザブトンの下に違和感を感じている。なにかあるか??妙なゴツゴツ感というか挟まってる感というか・・・。俺は少し腰を上げてザブトンの下に手を入れてそれを取り出す。・・・ん?なんだこれ??よく見てみると、ぶら、じゃー??ブラジャーじゃん!!!ていうかデカッ!!!

俺は女性のブラジャーなんて初めて触ったんだが、いや、飽くまでも予想として初めて触ったんだが、こんなにしっかりとしているものなんだな。なんていうか条件反射的に感触とかをチェックしてしまう。この部屋にあったってことは・・・やっぱりファムのブラジャー・・・だよな?ホックの後ろ側にサイズが書いてある。E・・・Eカップってこと!?正直Eカップって書いてあってもそれがどれくらいなのかはわからないんだけどあの服装から推測する限りでは大きいというのはよくわかる。A・B・C・D・Eだから下から5番目に大きいってことだからなかなかのサイズだろう。

ガチャ!扉を開けてファムが戻ってきた。俺は無意識に反射的にブラジャーを背中に隠す。ファムは入ってくるなり開いたドアをおしりでポンと閉める。なんだそれ、可愛いな。ファムはハッと気づいて、えへへっと笑う。やべ!!なんでブラジャーを隠したんだろう。そっとベットにでも投げれば良かったのに。

「はい、どうぞ。御霊さま。」

飲み物を渡されたので俺はぎこちなく受け取る。背中と背もたれに挟んだブラジャーが落ちないように慎重に。・・・やっばいな、神殿にいた時よりも百倍緊張してるよ。

「あの、御霊さま?どうしたんですか?」

「あーいや、なんでもない。なんでもないよ。」

俺は動揺をごまかすようにカップに入っているものを飲む。・・・お、美味しい。

「うわあ、なんだろ、これ。すっごく美味しいね。」

「えへへ、これ、私が調合した香草のお茶なんです。気にいってもらえたなら嬉しいです。」

「ファムって器用なんだね。これはいいお嫁さんになるね。ははは。」

「本当ですか?御霊さまにそう言ってもらえると私、嬉しいです。」

ファムは顔を赤くして照れている。

「ところで、神殿で聞いたことなんだけど・・・」

「あ、はい・・・。」

急にトーンダウンして今の状況を整理する。

「えっと、ファムは護神の宝刀っていうのが欲しいんだよね?」

「そう、ですね。私がっていうか・・・そうですね。はい。」

「で、もらう為には、俺と婚約をして賜物の儀とかいうので神官と戦って勝たなければいけない、と」

「はい、そうです。」

正直、いきなりこんな可愛い女の子から結婚してほしいなんてタダで都合の良い話なんてないだろうとは思ってはいたんだけど、やっぱりこういうことなんだな。

「俺、こんなこというとガッカリするかもしれないけど、戦闘能力低いよ?」

「それは大丈夫です。私が御霊さまを守りますから。御霊様には指一本触れさせません。」

「そっか・・・まあ、ファムのことは信じてるから。心配はしてないんだけど。・・・ほんとに大丈夫?」

「はい、安心してドーーンっと構えていてください。」

きっと、ファムにはファムなりの勝算があってのことだろう。みなぎる自信を感じると儀式への不安は消えていく。だけど、宝刀をもらった後は俺たちはどうなるんだろう・・・。

「本当は婚約式のあとにやることなんですけど、今回は護神の宝刀をっていうことなので先になっちゃいましたね。」

「あー・・・そうなの?」

「はい、本来の流れでいうと婚約式を行って、数日後に賜物の儀をするんですけど。あ、賜物の儀っていうのがその神官様と模擬戦をするっていう儀式です。婚約の証として二人に相応しい宝を選別する儀式です。」

「そっかぁ。よくわからないけど、まあやるしかないよね。緊張しちゃうね。」

「はい。護神の宝刀はなかなか難しいと思うのですが、一緒にがんばりましょう。御霊さま。」

模擬戦なんだから前みたいに死にそうになるってことはないんだろう。ギブアップとかもあるのかな?模擬戦だしね。そんなことよりもやっぱりファムは宝刀が欲しいから俺と結婚したかったのかな・・・?少しがっかり感はあるけど、まあ、現実はそんなもんだよな。・・・でも、ま、ファムは可愛いしとりあえず結婚の約束はしたわけだから約束は守らないと、な。

「あ、ねえねえ、その御霊さまって呼び名はこれからもずっとなの?」

俺はファムがアスタさんの前で一度だけ俺の名前を呼んだのを思い出した。御霊さまっていうのも別に嫌ではないんだけど、やっぱりどうせなら名前で呼んでほしいのが本音だ。そういうとファムはモジモジしながら困っている。

「まだ、早いと思うんですけど、御霊さまが望むのなら・・・」

「え?あ、うん。できれば名前で呼んでくれたほうがいいかな。」

ファムは深呼吸をして自身の胸を抑えて落ち着こうとしている。

「えっとー、じゃあ、失礼して・・・みた・・・まさま。・・・・ユウ・・・タさ」

「おにいちゃーーーん!!」

ファムの声を遮って、突然リーナが部屋に突入してきた。そのままの勢いで俺に抱き着いてくる。ファムは驚いて唖然としているようだ。

「ちょっと!!リーナ!?アカデミーはもう終わったの!?もう、勝手に入ってきてーーー。」

「おにいちゃん!おにいちゃん。」

顔をスリスリとこすり付けてくる。なんだかこの子も可愛いもんだな。妹っていうのかな、こういうの。俺はたぶん一人っ子だから妹がいるっていうのを体験したことがないんだろうけど、こんなに可愛いならぜひとも欲しいと思っちゃうな。あ、いや、もし妹がいたならごめんなさい。

「ちょっと!!リーナ!!!御霊さまから離れてよーー。ねぇ、ねぇ!」

ファムがリーナを引っ張りながら地団駄を踏んでいる。リーナは抵抗するように俺にしがみつく。なんだろう、この状況。ハーレムか?これがハーレム状態ってやつなのか?悪くない。むしろ好きです。

遂にリーナがファムに引っ張られて俺から剥がされる。その反動でなのかリーナはなにかを手に掴んでいてそれを見て不思議そうにする。

「あれ?これなんだろう??」

リーナがファムに引っ張られたあと持ち上げられている。そしてその手には、さっき俺が背中に隠したファムのブラジャーがあった。それを見て俺とファムが固まった。ああ、積んだ?これ・・・。この時が永遠に止まればいいのに。

「わー、おっきいおむね。」

リーナが無邪気に笑っていた。

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