008

何度見ても不思議な光景だ。人間じゃない者がそこらじゅうにいる。まぁ、不思議であったとしてももうそんなにも違和感は感じないな。あれだけ獣人に追い掛け回されて、あんな目にあったら、もう獣人でも半漁人でもいてもおかしいとは思えない。・・・とはいえ、あまり見たことのない風貌に珍しさを感じないわけではないので周りに不快感を与えない程度に周りを見ながら神殿に向かって歩いている。そういえば、確かこの辺りで前回は魔族が侵入してきたって言われたんだったよな。・・・あのとき、感じた死の恐怖は今でもしっかりと覚えている。同じ場所に近づくと少し震えが出てくる。

「御霊さま、大丈夫です。私がついています。」

ファムはギュッと俺の手を握ってくれる。

ドドド!!バガーーーン!!!

どこかで大きな爆発音が聞こえた。俺の緊張が一気に高まり、足が震えだす。

「また、なのか?」

前回の記憶がフラッシュバックするかのように頭の中を巡る。ファムは一瞬警戒したような感じがあったが、今はもう落ち着いているみたいだ。

「御霊さま、大丈夫です。・・・ほら、あれ。」

ファムが指差す方向の建物の窓から煙が上がっている。フフフっとファムが笑っている。魔族ではないにしろ、あれって火事なんじゃないのか!?

「フ、ファム?火事・・・じゃないの?」

「あ、大丈夫ですよ。あそこの住人はこの街の中でもちょっと変わり者の方で、たまにあーいう風に爆発を起こすんです。・・・たぶん、なにかの実験をしているんだと思います。」

ファムの言うことが当たっているかはわからないが、明らかに前回とは周りの住人の対応が違う。ファムのように笑っている者や一応心配して覗きに行っている者、煙を消そうと手伝う者もいる。

俺はそんな街の住人の様子をみて安堵する。ああ、俺が暮らしている世界と変わらないじゃないか。どんな姿をしていたって・・・人間と同じように心があって助け合って、笑い合って生活している。ファムの言っていたわかってほしいっていうのはこういうことを言っていたのかもしれないな。・・・あれ?俺が暮らしている世界・・・?自分で思った言葉に疑問が出る。俺が暮らしている世界ってなんだっけ?・・・ここは俺が暮らしている世界とは違うんだよな。じゃあ、俺が暮らしていた世界ってどんな所だったっけ?俺ってどんな生活をしていたんだっけ?思い出そうとしても記憶にもやが掛かったように思い出せない。

「さ、御霊さま。急ぎましょう。神殿まではもうすぐです。」

俺はファムに声を掛けられてハッとしたがとりあえずは促されるまま、神殿へと向かった。


神殿・・・祠・・・?こういう建造物ってなんていうのかわからないんだけど、とにかく格式有る建物とでもいうのだろうか、日本式にいうなら神社みたいなところへと連れてこられた。そして、待合室みたいな所で椅子に座って、神官さんがくるのを待っている。

「神官さま、遅いですね。ふぅ。」

なんだかファムがそわそわしている。さっきまであんなに落ち着いていたのに、どうしたんだろう。

「ファム、なんか落ち着かないね。」

「ええ!!??そそ、そんなことは、なないですよ。」

明らかに動揺している。なんだろ?神官さんに会うのがそんなに緊張することなんだろうか。もしかして、すっげー怖い人とかなのか!?考えると俺まで緊張してきたな。

ぎぃーー。ゆっくりと扉が開き人間っぽい人?が入ってきた。って、思ったよりお年寄り・・・。まぁ、神官って呼ばれる人なら年齢を重ねていて当然か。

「おばあちゃん!?どうしてここに??」

ファムが立ち上がって声を上げる。おばあ、ちゃん?ファムの親類かなんかか?それにしても・・・へー、おばあさんは神官なんだぁ。じゃあ、ファムも良いとこの子供なのかな?

「これ、ファフニール。ここでは大神官と呼ばんか!」

「ひゃ!?ごめんなさい。・・・大神官様。」

ファムはおばあさんにポカりと杖で小突かれて笑っている。ん?大神官!?神官と違うのか?なんだか展開が早すぎて頭がついていかないぞ。

「あ、えっと。ファム?こちらが神官、様なのかい?」

「あ、はい。正確には大、神官様になります。」

やっぱりただの神官ではなくって、大!神官なんだな。あえて誇張して言うってことは偉い人なんだろう。会社で言ったら、部長とかそんなところかな。

「これはこれは、御霊さま。みっともない所をお見せしましたな。私がこの神殿の統括管理しております、アスタと申します。うちのファフニールが失礼なことをしていませんでしたか?この子は出来はいいのですが、どうにも気性が荒いと申しますか・・・」

「ちょっとーーー!おばあちゃん、御霊さまの前で変なこと言わないでーー!」

「これ!だから神殿内では大神官と呼ばんか!!」

「もう。」

随分と仲のいい家族のようだ。アスタさんもファムのことを大事にしているようだし、ファムもアスタさんが大好きなんだろう。二人のやりとりを見ているとそれがよくわかる。・・・ん?ファム?ファフニール??アスタさんってファムのことファフニールって呼んでなかったか?名前・・・。ニックネームとか色々あるのかな?

「えっと、ファムって・・・名前、ファフに・・・」

「御霊さま!その名前では呼ばないでください!」

ファムは俺の言葉を遮るように両手で俺の口を押えてグッと近づく。ファムの顔が目の前ある。手を避けたらキスをしてしまいそうだ。

「ほほう。ファフニールも積極的になったもんだな。」

アスタさんが茶化すように言うと、ファムは顔が急接近している状況に気づいたのか、顔を赤くしてバタバタと離れる。

「違うの!違う違う!!御霊さま、積極的とか!そういうんじゃなくてですね!?えっと!その!!!」

いつの間にかギャラリーも増えていて、ファムとアスタさんのやり取りを笑いながら見ている。そうか、ここの人たちはみんな家族のように仲が良いんだな。俺はなんだかとても羨ましい気持ちでいっぱいだった。俺にはこんな風に笑い合っていられる仲間、家族がいたんだろうか?今回も、目を覚ました時に結局の所どうやってここにきたのか、自分が今まで何をしていたのかはまったく思い出せない。そういえば、前にファムは後で説明するって言ってて、ずっとそのままだったな。そのうち教えてくれるのだろうか。そうすれば、このモヤモヤ感も晴れて心から楽しめるようになるのかもしれない。

アスタさんがごほんっと咳をして、こっちを向く。

「ところで・・・ファフニール。御霊さまをここに連れてきたということは・・・」

周りも急に静かになってファムに注目する。ファムもこほんと息を整えて言う。

「はい。わたくし、ファムはこちらの御霊さま。ユウタさまと結婚します。」

周りもおおお!と声を漏らす。若干ザワついているがどうやら大方、歓迎のムードのようだ。その中で一人だけチッと舌打ちをしている人が野次馬の群れの後ろの方にいた。俺の場所からは人の間の隙間程度からしか見えないので誰かはわからないが、ここにいる全員に歓迎されていることではないってことなのかな。

「つきまして、大神官様。護神の宝刀を頂きたく存じます。」

・・・周りが急にシーンっと静まりかえる。そしてこそこそとマジかよとか無謀だとか批判的なことを小声で話している神官もいるようだ。

「そうか・・・。それが何を意味するかわかった上で言っているのだな?ファフニール。」

アスタさんは真面目な表情・・・いや、少し怖い顔つきでファムを見ている。

「もちろんです。」

「御霊さまも本当によろしいのですな?」

急に俺の方へ話を振ってきたので驚いてアタフタとしてしまった。

「あー、えっと?なんの・・・」

「御霊さまはすでに了承済みです。私たちで絶対に乗り越えてみせます。」

ファムが遮るように宣言をする。その言葉に周りも人たちもおお!っと応援ムードに変わっていった。アスタさんもニコリと笑顔を見せる。

「・・・そうかそうか。それなら良い。御霊さま、ファフニールのことよろしく頼みましたぞ。」

「え?ああ、はい。」

アスタさんはニコリと笑みを浮かべ、野次馬を引き連れて部屋を出て行った。俺とファムはふぅっと緊張の糸が切れたように椅子へと座る。とりあえず、ファムには聞きたいことが山のようにある。なにから聞いたらいいのか迷ってしまうが、とにかく最初は・・・。

「ねぇ、ファフニールって・・・似合わないね?」

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