006

「ふあぁ~、なんかすっげー寝たな・・・。」

俺はカーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。あーあ、寝て起きたら昨日の失敗も全部帳消しになっていればいいのに。なんて都合の良いことを考えてみるが、そんなわけにもいかないだろう。

「・・・そうだ。ひなたにメールしとくか。」

俺は手早く携帯を手に取り、メールを打つ。現代人であればこんなのは簡単にできる。内容は・・・そうだな。告白の件は後回しにして大丈夫だったのかの安否確認程度にしておくか。間違ってもビビっているわけではない。今はそのタイミングではないだろうと思い込んでいるだけだ。簡単な文章でメールの送信を終わらせて、居間へと向かう。今日は日曜日だけど親はいないはず・・・だけど朝食ぐらいは用意してくれているだろう。居間のテーブルにはしっかりと俺の分であろう朝食が用意されている。今日の朝食は目玉焼きとウィンナーか。随分と冷めてしまっているようだがラップを掛けて置いてある。

「いただきます。」

俺の家庭は両親ともに共働きで兄弟はいない一人っ子だ。一般レベルの生活水準で一応、不自由なく生活させてもらっている。だけど、俺はどこかこの生活に物足りなさを感じている。普通の高校にいって、普通の勉強をして、普通に恋をして・・・。まぁ、恋のほうは普通にできるかはこれからにかかっているんだが。

「あーあぁ、アニメやゲームみたいな世界で遊んでみたいなぁ。」

中学生みたいなことを恥ずかしげもなく言ってみる。一人っ子だからこそ言えるんだよな。こんなこと誰かに聞かれたらオタクだってバカにされそうだし。そんなどうでもいいことはどうでもよくて、ひなたからメールも返ってこないし、今日はどうしよっかなぁ・・・。なんて、日曜日を午前中から暇を持て余している。

ピロリロリン♪

部屋に置いてある携帯が鳴ったみたいだ。やばい、緊張してきた。ひなたからかな?まだ、見てもいないのにひなたからなんて決めつけているんだけど、こんな朝っぱらからメールしてくる奴なんてなかなかいないだろう。

「えーっと、携帯・・・携帯・・・。」

部屋に戻ってすかさずメールをチェック。・・・チッ。こいつか・・・。


俺は今、朝から来たメールで呼び出されて街のカフェにいる。態度でわかると思うが当然ひなたではない。しかも、呼び出したくせにまだ来てないってどういうつもりなんだ。まったく・・・。

「よう!相沢。お前はえーなー・・・。あー、ちょっと待って、俺もなんか飲み物頼んでくるから。」

来たそうそう、忙しい奴め。何度も言うが俺はひなたに呼び出されたわけではなく友人の木下に呼ばれたのだ。こいつは同学年で同じ部活で出会って、人懐っこい性格なのか気が付いたら友人になっていた。親友とまでは言えないが、ひなたのことだったり、告白のことだったりと相談するくらいには心を許している相手ではあるかな。まあ、実際昨日のシチュエーションは木下の協力もあって実現できたチャンスでもあったんだけど・・・。

「お待たせお待たせ。朝っぱらから悪いなぁ。まさか、休みの日にこんな朝から起きてるなんて思ってなくてよ。前もって入れとこうぐらいに思って送ったんだ。」

「そうかい。」

俺は愛想なく返事をする。

「で、ま、せっかく起きてるなら暇だろうと思って呼び出してみたわけよ。なんだ!?相沢がこんな時間に起きてるなんて夜中までシコシコ、ゲームに夢中じゃなかったみたいだな。」

「ふー、まぁなー。昨日はあれだ。割と早く寝たんだ。」

「珍し!あーあー、そっかそっか。なるほどなるほど。」

木下はニヤニヤとしながら買ってきたものを飲む。カフェオレかなんかか?いちいち洒落たものを買ってきやがる。

「まー、察してはいると思うけど、うまくはいかなかったよ。おかげで夜もぐっすり眠って・・・眠って?」

「あー?どうした?」

なにかが頭の中で引っかかる。昨日は花火をひなたと見て、流星群のくだり、電話して、迎えに来て、帰って・・・寝たんだよな。

「あれ?・・・なんかすっげー夢を見たような気がするんだけど・・・」

「夢!?どんなのよ。」

「あー、ちょっと待って。なんかこう、壮大なスケールでお届けするようなすっげー夢。」

「プッ・・・はーはっはははー。相沢ウケるなーマジで。いや、でも、そういうのってあるよ。夢って起きたら忘れちゃうんだよな。」

「ほんとにそうだな。ははっ。」

それからはひなたへの告白の流れや顛末を話して木下からそこはこうするべきだとかそれはだめだ、などなど、適確?なのかはわからないがダメだしを受けたのだ。俺から言わせれば結果論に都合よく言っているだけで、木下が物凄い恋愛マスターみたいには思えないのだが、それでも、こいつの言っていることには納得させられる部分は多々あった。木下なりにちゃんと考えてくれているのかもしれないな。

「あ~あぁ、平和だなぁ・・・。」

木下が伸びをしながら言う。平和・・・なんだかこの言葉にも引っかかる。なんでだろう?好きな人がいて、告白して、そんな話をカフェでだらだらと話す。確かに平和だ。だけど、モヤモヤする。なんだろう?わからない。

「なんだよ。変な顔して。まぁ、今はあんまり考えんなよ。一之瀬のことはあとは連絡がきてからうまいことやればいいんだから。しけた面してると良いことないぜ。ははっ。」

木下は俺がひなたのことを思い悩んでいると思ったらしい。違うんだけどな・・・。俺は木下と別れて、街をぶらりと歩くことにした。今日は日曜日なだけあって人がたくさん出ている。カップルにあれは夫婦かな?幸せそうに歩いているな。センター街のテレビモニターでニュースが放送されている。昨日の流星群のことを取り上げているようだ。俺をはじめ、数人が歩みを止めてニュースを見ている。

『昨日の流星群の映像がこちらです。・・・綺麗ですねー。今回地球に接近したこの流星群はなんと100年振りの大接近となっていましたね。一時は地球に落ちるのではないかと懸念されましたが、衛星研究所の発表通り見事に過ぎていきましたねー。どうですか?ご覧になられましたか?』

『はい、私も見に行ったんです。日本国内であればいろんなところから観測ができると聞いていたので、晴れていて星が見える場所にみんなと移動して見にいきました。とっても綺麗でしたねー。』

ゲストには最近売り出し中のアイドルが出ているようだ。今回の流星群って日本からは結構見れたんだな・・・。

『そうですか。今回、この流星群が観測できる日に偶然にも花火大会をやっていた地域があったのをご存じですか?・・・そうです。港市です。直前までは観測日が変わる可能性もあったのですが、今回はちょうど綺麗に重なったようです。こちらに映像がございますので、どうぞ。』

ああ、俺たちが花火を見ていたところにちょうど取材がきてたんだな。ちょっとこれは楽しみだな。あのプチパニックがどう映っているのか・・・。

その後の映像にはあのまばゆいばかりの光の現象やプチパニックの様子はVTRで流れることなくスタジオの人たちも触れることがなかった。見れた映像には綺麗に花火の上を白い光の筋が通る瞬間が記録されていて、映像でもそれは綺麗なものだった。まあ、せっかくの綺麗な話に余計なトラブルはいちいち報道しないのだろう。

ピロリロリン♪

あ、メールが来た・・・。ひなたからだ!!

なになに?あー、あぁ・・・。内容は花火のこと、もう大丈夫ということ。あとは運んでくれたことへの感謝。みたいな内容だ。まあ、そりゃそうだよな。俺が送ったメールがそんなことを聞くような簡単な内容だったし。別にひなたから告白のことについて何か言ってくるなんて期待なんかしてなかったさ。いや、期待していたな。どうする、今日はこれから会えるか誘ってみるか・・・。いや、でも。あーどうしよう。・・・いや、誘おう。口実としては台無しになった花火大会の埋め合わせ的な感じで誘えば違和感はないだろう。そう思った俺は、すぐさまメールを返す。・・・少したってから、ピロリロリン♪

ふぅ。今日は習い事があるから無理なんだそうだ。まぁ。露骨に断られたわけじゃないよな。用事があるんだから仕方ない・・・よな。俺は、明るく振る舞うような内容でメールを返す。テンションだけでいったら今はもう、どん底なんだけどな。

もう、帰ろう。やる気が失せた俺は、とぼとぼと家に帰ることにした。

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