005
大爆発・・・どれくらいの規模だったんだろう。俺は体を動かすこともできずに横たわっている。おぼろげな視界には少女が泣いている。ああ、よかった。無事だったんだ。爆発の瞬間から今、この時までの記憶がない。でもいいか、あの子が助かったなら・・・。俺は首を動かすことができないから自分の姿を確認することができない。体に痛みはない。だけど、きっと、俺は死ぬのだろう・・・。痛みがないだけではなく、もはや体の感覚がないのだから。
誰かが駆け寄ってくる。
「あああぁ、あああ!!!いやーー、そんな!そんなーーー!」
泣きながら叫んでいるのか!?少女の泣き声もそうだが、耳もおかしくなっているんだろうか。何を言っているのかがわからないな。視界も悪いからうまく見えないな。ポタポタと俺の目になにか水滴が当たっている。そのせいでよりわからない。大声で叫んでいるのか・・・声だけが辛うじて聞こえる。
「だれかーーー!!!助けてください!!!お願いします!!だれかーー・・・。彼を・・・助けて。お願い・・・お願い、だから・・・」
俺を助けようとしてくれているのか!?ありがとう、もし助かることができたなら・・・俺は・・・。ファムに・・・。
「ハッ!!ここは?」
俺は知らない部屋のベットで寝ていて、体は・・・なんともない。なんだ?夢でもみていたのか?・・・いや、夢ではなかったようだ。俺の足元には泣き疲れたのかファムがベットの脇に座りうつ伏せで眠っているようだ。俺は上体を起こしてみるが体にはまったくの痛みがない。どうなっているんだろう。
「・・・ファム?」
俺の声が聞こえたのか、ファムは目を覚まし、俺の姿を確認して抱きついてきた。
「よかった。よかったですー。あああぁ。」
ファムは泣きながら叫ぶ。俺はファムがあまりにも泣きじゃくるのでなんだか恥ずかしくなってきた。しかも、こんな状況でまったく不謹慎なんだがファムの胸がいい感じに当たってちょっと色々とやばいんだが。
「ファム、大丈夫、大丈夫だから。ね、ほら・・・」
俺の不自然な感じにファムは胸が当たっていることに気づいて慌てて俺から離れる。そして、顔を赤くして軽く咳払いをする。
「御霊さま。もう!こんなときに・・・。ほんとに・・・もう。」
ファムは自身を落ち着けるように、深呼吸して椅子へと座る。
「なんか・・・助かっちゃったみたいだね。」
「・・・はい。」
「えーっと・・・どうするんだっけ?この後、たしか・・・神殿にいくんだっけ?」
「・・・はい。」
なんだか会話が弾まない。ファムは泣き止んではいるのだけど元気がない。
「どうした?ほら、俺はまったく大丈夫だから。なんでかはわかんないけど。」
できるだけ明るく声を掛けてみるが・・・。
「御霊さま!!」
「は、はい。」
ファムが急に呼ぶから俺は思わず返事をしてしまった。
「どうして、どうして・・・あのまま逃げなかったのですか?この世界にきたばかりで、御霊さまからすれば助けにいった住人は人間でもないかもしれない。そんな状況なのに・・・どうして助けにいったんですか?・・・私はそれが知りたいです。」
ファムは真剣な眼差しで俺を見つめる。冗談でかわす場面じゃなさそうだ。
「うーん・・・わかんないな。なんでだろう。助けてって言われたから、かな?」
考えながらも答えるが自分自身よくわからない。言うつもりはないけどやっぱり同じ人間だと思ったからだろうか・・・。
「一歩間違えば死ぬかもしれないのに、まだ何もできないのに・・・」
ファムの言うことはもっともだ。戦う力もましてやファムみたく魔法なんかも使えないんだから。だけど、確信していることは一つだけある。
「まあね・・・でも、助けを求めている誰かが近くにいて、それに気づいたら見過ごせないよ。こんな俺でもなにかできることがあるかもしれないだろ?そう思ったらもう体は、動いていたよ。」
ファムは少し驚いた様子を見せて俯く。
「そう・・・ですか。そうですね。・・・御霊さま、そういった考え方って、とても素敵だと思います。でも・・・」
「でも?」
ファムはふーっと深呼吸する。
「もうこんな目には絶対に!!・・・絶対に私が遭わせません。だから、・・・私と・・・私と・・・。」
「???」
ファムはぐっと息を止めて、胸の前で手を握り目を閉じる。そして、改めて俺の目を真っ直ぐに見つめている。
「結婚してください!!!」
「・・・え!?」
言い切ったファムは顔を赤らめて、でも不安そうな顔で俺を見つめる。俺の返事を待っているようだ。・・・結婚??あれ!?なんかそんな流れの話だったっけ?確かなんで助けに行ったんだ的な会話だったような気がするんだけど。
「あ、えーーっと・・・え?結婚?」
「・・・・・・。」
ファムは至って真面目みたいだ。確かファムとは出会ってまだ1日も経っていないと思うんだけど、いきなり結婚・・・か。
「あ、えーと、うん。いいけど・・・」
まあ、こんな可愛い子に求婚されて断る理由はないよな。
「ハッ・・・」
不意にまたファムが抱きついてきた。背中に回している腕にぐっと力を込めて締め付けて。ファムの顔が真横にあってどんな顔をしているのかはわからないんだけど・・・泣いている・・・のかもしれない。声に出しているわけじゃない。ただ、体が小刻みに揺れている。嬉しくて泣いているのか、悲しくて泣いているのか、今の俺にはわからない。当然俺はこんな場面で気の利いたセリフなんて思いつかない。ただできることと言えば・・・。
俺は優しくファムを抱きしめた。
「ありがとう、ございます。」
目の前に光が差し込む。俺は目を開けて・・・思う。
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