003

俺はファムと一緒に正門を抜け、街の中へとはいってきたのだが、街の光景に驚愕して俺は動けなくなってしまっていた。この街には普通に人間が暮らしている。そして、驚くことに人間じゃない者も暮らしていた。

亜人?ハーフ?なんと言えばいいのか・・・人に猫の耳が生えている者や羽の生えている者。体が鱗で包まれている者に獣のような者までいる。それはここでは当たりまえのことらしく、誰も不思議にしているわけではないようだ。ただ、俺だけが驚いている。俺のそんな様子に気づいてかファムが心配そうに俺に近づいてくる。

「御霊さまには珍しい光景かもしれませんが、・・・これが私たちの街アムルウスです。」

「・・・個性的な方が、いっぱいのようだね。」

「はい。みなさん、とても気のいい方ばかりなんですよ。」

「・・・・・・。」

魔法を見て確信はあったんだけど・・・本当に異世界なんだ、ここは。じゃあ、ファムは?ファムもやっぱり・・・俺と同じ人間じゃないのか?ファムを見る限りでは亜人や獣人のように外見からわかるものはない。そこらを歩いている街の住人のなかにはファムと同じように人間っぽい人は少なからずいるようだし。・・・聞いてみたい。確認したい。・・・けど、いいのだろうか?たぶんこの世界では人間であることが普通なわけではないのだろう。そんな世界の住人に『あなたは人間ですか?』って聞くことは失礼にはならないだろうか?でも、・・・でも、俺は確認せずにはいられない。ファムの雰囲気から見た目からこの人は俺と同じ人間で俺になにか危害を加えることはない!と勝手に信じてここまでついてきたんだ。これが俺のまったくわからない存在、知らない存在、異世界の存在だとすれば!?俺は確認もせずには一緒にはいられない。

「ファム、君も・・・人間ではない・・・のかな?」

俺は精一杯普通に質問をしたつもりだ。ファムの様子は・・・。

「御霊さま。私は・・・人間ですよ。」

ニコリと笑う。その姿をみて言葉を聞いて安心している自分に若干の嫌気がさす。

「御霊さま、大丈夫ですよ。そんな顔をしないでください。初めてこの街に来られた御霊さまはだいたいそんな感じです。それは仕方のないことだっていうのも私たちもわかっています。だけど・・・」

ファムは立ち止まり、俺をじっとみる。

「これから分かり合ってもらえたら嬉しいです。ファムはきっと御霊さまがどんな種族の方でも・・・」

ファムははっとして言いかけた言葉を飲み込む。なにかを誤魔化すように周りを見回して指を指す。

「・・・なんでもないです。ほら!あそこ。あの先にある階段を上ったところが街の中心・・・神殿になります。あそこに神官さまがいて・・・!!!??」

ドドドドドドドドッ!!!!

急に地震でも来たかのような地鳴りがする。周りの住人達も驚いて建物の中に避難したり、どこかに走っていったりと、周辺がパニックになりかけている。俺はその住人達の波に揉まれてファムと少し離れてしまったようだ。

『魔族だーーーー。魔族が1体侵入したぞーーー。』

どこからか大きな声でとてもやばそうなことを叫んでいる。その声を聞いた住人が一斉にどこかへ逃げはじめる。辺り一帯がパニックだ。あちこちから叫び声が聞こえてその光景に俺は恐怖を感じ始めている。どうしたらいいのかわからずに動けずにいる。

「ファム??どこにいったんだ?ファム!!」

俺はパニックになっている住人に押しつ流されてファムと完全にはぐれてしまったらしい。不安に押しつぶされそうになるが冷静さを保つために慎重に辺りを見回すと俺たちが入ってきた正門の外に犬のような獣がこっちに向かってきているのが見える。

『弱い者は神殿へ逃げろーーーー。』

また誰かが大きな声で叫んでいる。その声に誘導されるように住人がある方向へと流れていく。住人がごった返す中、俺はその流れに任せて神殿へと向かうがそんな中逃げる住人を細かく確認してみるがファムの姿が見当たらない。まさか、逃げ遅れているのか?もしかしたらこの流れに揉まれて怪我でもして動けないのかもしれない。

「・・・くそ!!」

俺は逃げる住人の流れから外れて小道へと入り、さっきいた場所へ戻ろうと小道から向かう。魔法が使えるファムなら俺が心配する必要はないのかもしれないが、同じ人間の女の子を見捨てて逃げることなんて当然できない。ましてや、俺をこの街まで連れてきてくれた人だ。

俺は正門近くまで戻ったところで本通りへと出て辺りを確認する。犬の獣はもう正門にまで辿りついているようだが護衛兵みたいなのと戦闘をしているみたいだ。護衛兵のおかげで獣は街の中までは侵入できていないようだな。護衛兵は戦い慣れているようであのままならきっと抑えこめるだろう。

「ファムーー!どこだーーー?」

叫んでみても周りの声にかき消されてしまう。いったいどうしたら・・・。

『御霊さま、ファムです。聞こえますか?御霊さま!!』

頭の中にファムの声が響く。

「ファムか!?どこにいるんだ?」

周りを見渡してもファムの姿は見当たらない。

『いいですか?よく聞いてください。私は安全な所にいますので、御霊さまは神殿に向かって逃げてください。逃げる住人達と同じ方向へいけば必ずたどり着けます。決して正門へ戻ってはいけません。』

神殿・・・さっきファムが指差していた場所か!?周りにはファムはいない。このままファム探し回って状況を悪化させるわけにもいかないし、ここはファムの言う通りしたほうがよさそうだ。

「わかった・・・神殿・・・に?」

「キャーーーー、たすけてーーーー。」

近くで子供の声が聞こえた。これは頭の中で響いたんじゃない。俺のすぐ近くで・・・。さっき通ってきた小道の方・・・か!?俺は辺りを注意深く見る。・・・あそこだ!!小さな女の子がなにかに怯えて座り込んでいる。

『御霊さま?』

「ファム!!女の子が!!!女の子・・・が。にに逃げおくれ、て。」

俺は震えている。あの子を見捨てて逃げるつもりなのか?だけど、今の俺が行ったところで・・・だけど・・・だけど!!

「ファム・・・ごめん、ちょっと、いいってく、るから。」

『だめです!!今は逃げてください。早く神殿のほうへ。早く!!』

逃げたほうがいいに決まっている。そんなことはわかってる。だけど、あの子を見捨てて助かってもいいのか?いや、そんなわけないだろう。大丈夫だ。あそこまで走って行って、女の子を抱きかかえて逃げるだけだ。大丈夫だ!いける・・・ふぅ、いくぞ!!

俺は全速力で走り出す。女の子が何に怯えているのかは建物が邪魔をして見えないが、急がなければ犬の獣みたいなのに襲われてしまうかもしれない。

『だめです!!み・・・御霊さ・・・ま。あなたはまだ、ぎしき・・・を』

夢中で走っているからかファムの声はとぎれとぎれになっている。そんなことを気にしている場合じゃない。集中だ。集中するんだ。俺は怯えている女の子に近づいて声を掛けようとする。見たところ腕に怪我をしているようだ。やっぱり助けに来て正解だった・・・?!!!声を発する直前に建物に隠れているものを、少女が恐怖するものを見る。その瞬間、・・・俺も少女と同様に恐怖する。建物の陰に隠れて見えていなかったもの、少女が助けてと怯えていたものが立っていた。それは人型の獣・・・獣人だった。

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