嫌な事から先にやれ!

瀬戸 アヤ

最悪な出会い

 ピピピッピピピッピピピッ

「えっ?いま何時?」

「やばい寝坊した!」

 いちこは、目覚まし時計を止めた。

 転がるようにベッドから、飛び起きてクローゼットの中から、服を適当に選び階段をバタバタと下りて台所に向かった。


「お母さん何で起こしてくれなかったの?」

 いちこは、母に怒鳴りながら服を着替えた。

「何言ってるのよ、何度も呼んだわよ、

 爆睡して返事もしなかったくせに!」

 母もちょっと不機嫌な顔で答えた。


「最近ちょっと仕事のし過ぎなんじゃないの?昨日も遅くまで仕事してたみたいだけど」と心配そうにいちこを見つめた。


「大丈夫よ、大好きな仕事をしているんだから、無理なんかしてないわ」


いちこは、キャラクターを考えてグッズにする会社「パンプキンカンパニー」のデザイナーをしているのである。


「来週新しいキャラクターのコンセプトを考えて、プレゼンしないといけないからちょっと忙しいけど、自分のデザインが形になるなんて、最高な事だから頑張らないと」いちこは、目を輝かせて微笑んだ。


「あっ!こんな事している場合じゃなかった

遅刻しちゃう」いちこは、そう言うと慌てて玄関を出て行った。


いちこの家から、バス停までは約五分程かかる、緩やかな坂を下り桜並木を通り、交差点を右に曲がるとバス停が見えてくる。


いちこは坂を下り桜の花を見ながら、新しいキャラクターのコンセプトを考えていた。


「やっぱりカラフルで、可愛くて、ちょっと生意気だけど、印象に残るようなキャラクターがいいわよね」


朝の爽やかな風を頬に感じながら、いちこは弾むような足取りで、バス停に向かった。


交差点に差し掛かり、バス停が見えた...。

とその時!


「あぶない!」


キキーッ!


ドサッ!


「痛っ!」


いちこは、交差点から曲がってきたマウンテンバイクに跳ね飛ばされ、その場に倒れ込んだ。

「大丈夫か?」

いちこが顔を上げると、浅黒く日焼けした二十代半ばの男性が、いちこの顔を覗き込んでいた。

静閑な感じで、ちょっと...いちこのタイプだ。

「えっ?あ...はっ...はい!」

「あっ...全然、大丈夫です!」

いちこは、顔を真っ赤にして大きな声で答えた。


「なら、いいな?」


そう言うと、マウンテンバイクに乗った男は、そのまま風のように去って行った。


「えっ?なに?...それだけ?」


男の態度に、いちこはだんだん怒りが込み上げてきた。


「ちょっと⁉︎待ちなさいよ!あんたーッ」

「あやまるぐらい、しなさいよ!」思わず、いちこは大きな声で叫んだ。


「ならいいな?って何がいいのよ!」


「全然良く無いわよ!」いちこは、ブツブツ言いながら、立ち上がった。


せめて謝罪のひとつぐらい言って、何かあった時の為に、連絡先や名前ぐらい名乗ってもいいと思うけど...。


とその時、いちこの横をバスが走り去って行った。


「えっ?バス...」


「もう、最悪!会社も遅刻しちゃう」


いちこは、泣きそうになった。











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嫌な事から先にやれ! 瀬戸 アヤ @Kirako007

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