C.第1次育成計画
4月に入り、邦夫の新しい生活がスタートした。
入学式が終わり、クラス分けが発表された。一学年4組で、邦夫はB組となった。
1年B組の教室に入り、邦夫は自分の座席である前から4番目の席に座った。前の座席にいるのは男子、後ろは女子生徒だった。
邦夫が座ると、後ろにいた女子生徒が話しかけてきた。
「あれ、もしかして邦夫くん?」
振り返って相手の顔を見てみると・・・邦夫は思い出した。彼女が風見ひろ子であることを。
「風見さんか。まさかこんなところで会うなんて・・・東京に戻ってきたの?」
ひろ子は邦夫の小学校時代の同級生だった。小学校6年生の時父親の転勤で埼玉に引っ越したため、中学は別々だった。家が近く、帰り道に一緒になることが多かったため、自然と仲良くなった。
「うん、本社勤務になったからね。一度本社勤務になれば地方に行くことはないからっていうことで東京に戻ってきたの。まさかこんなところで邦夫くんに会えるなんて思わなかったよ!」
「それは僕も一緒さ。いや、世界は狭いね!」
そう笑いながら、お互いに知っている人間がいてホッとした。
「知っている人がいてよかった~。一から人間関係築くの大変だからさ、本当に助かる!」
「僕も。3年間何とかなりそうだわ。」
そんなことを話しているうちに、始業のベルが鳴り、ホームルームが始まった。クラス担任は久良木武三という温厚な雰囲気を持つ30代前半の、世界史の教師だった。
「高校生という新たなステージに立ち、みなさんいろんな思いを持っていると思います。あっという間の3年間だとは思いますが、楽しく、同時に将来を見据えて頑張ってください。」
学校生活1日目は午前中に終わり、邦夫はひろ子に挨拶をしてさくっと帰った。
自分の将来も大事だが、邦夫にはもう一人、きちんと将来を設計してあげないといけない相手がいた。そして、今日はそれを話し合う日だった。
学校の連中と話をするのは明日で構わない。早く帰れる日にきちんと咲代と話をして、今後どうしていくのかを考えておく必要があった。
家に帰り、制服のまま邦夫は咲代のいる世界へ移動した。
移動すると、咲代はクエストを終えたばかりのようで、整理体操の様な事をしていた。
「お疲れ様。クエスト、結構やったの?」
「まあね。通知欄見てみてよ。」
そう言われ、白銀の書の通知欄を見ると、「容量2400追加」と書かれていた。そしてすぐに「クエストNo.0015完了、容量90追加」と書かれていた。
「すごいじゃないか!容量2490追加したって!余りが40あったわけだから、合計で2530ってことだね!」
「ま、1週間あればそのくらい稼げるわ。」
「無理はしてないの?」
心配そうな顔をして尋ねる邦夫に対し、咲代は余裕たっぷりの表情で答える。
「してないしてない。簡単なクエストを、時間をかけず魔法も無駄に使わずやっただけ。確かにレベルの高い魔法を使うのもいいんだけど、それはデバイスにも自分自身にも大きな負担をかける。最初は簡単で、あまりレベルの高くない魔法で魔法を使う感覚をつかんで、レベルの高い魔法を手に入れたときにそれをきちんと使えるようにするのが大切なの。」
「徐々に慣らしていく、ってことだね。」
「そうそう。何事も順序が大切。基本からコツコツね。」
目の前の魔法少女は、非常に理知的に、冷静に物事を進めていた。
「で、その増やした容量2490を使って、どんな魔法が欲しい?」
「防衛系の魔法かな。攻撃魔法は正直、訓練を重ねればレベル以上の力を発揮することができる。だけど、守りとなるとそうもいかなくなる。テクニックだけではカバーしきれない部分だから。」
「確かにね。それはそうかもしれない。じゃあ強力な防御系魔法を登録する?」
「容量1000くらいを使って、強力な防御魔法を一つと、ある攻撃に特化した防御魔法を3つくらい、これは600もあれば足りるかな。残りの800を使って攻撃魔法。そんな感じかな。」
「強力な防御魔法か。そうなると・・・」
邦夫は例のカタログの様なものを見た。
「そういえば、邦夫くんって英語得意なの?白銀の書はすべて英語ベースになっているけど、あんまり苦労していないようね。」
「両親が英語得意でね、読み書きは苦労していないよ。」
「へー、頼もしいわ」
カタログを見ると、容量1000を使って装備できる強力な防御魔法というと、攻撃のパターンを解析してその攻撃にあった防御魔法を自動的に展開する≪オートマルチ・プロテクション≫が一番魅力的だった。
「このオートマルチ・プロテクションは魅力的だね。」
「そうね。この魔法には学習能力もあるのね。新しい魔法が開発されたら、その魔法のパターンも記憶するってもの・・・けっこうすごいね。それが1000でもらえるんだ。」
「これみて。これを容量1000で発動できるデバイスっていうのが限定されている。普通は2500の容量が必要みたいだけど、白銀の書に関しては1000で足りるみたい。」
「なるほど。あなただから、1000でできるのね。」
咲代が白銀の書をほめると、画面には『それほどでも・・・おほめに預かり光栄です』の文字が。
「へぇー、こういうやりとりもできるんだ。」
邦夫にとっては新鮮な光景だった。
「それじゃあ、まずこのオートマルチ・プロテクションは装備確定だね」
「あと、攻撃特化型だと、火力特化型が欲しいかな。」
「どうして?」
「魔獣は火力で攻撃してくるのが多いの。だから」
「なるほど・・・。そういえば、他の魔法少女っていないのかな?」
「まだあったことないね。登録者がそんなにいないんじゃないかな。でも、もし他の魔法少女が活動を開始したら、魔法少女同士でバトルになるかもね。」
「そんなことってありえるの?」
「あるかどうかは分からないけど、そういう可能性がないわけじゃないわ。」
「あんまりそうなってほしくはないけど。」
「あまり理想ばかりを考えていたら、現実に幻滅するよ。」
何か物事を達観したような言い方をする咲代。とても16歳の少女が発する言葉には思えない。
都度都度こういう物言いが気になる邦夫であったが、そのことについては深く突っ込まないと決めていたので、敢えて気にせず、魔法追加の作業を進める。
「後は何が欲しい?」
うーん、と腕組みをしながら咲代は考え始めた。
「そうね、本当は他の魔法少女が現れてから、彼女たちがどういった攻撃魔法を使ってくるかを分析してから追加したいって気持ちも強いのよね・・・。」
「なら、今は容量をあけておいて、必要な時に追加するってのもいいんじゃないかな。600は取っておく。」
邦夫の提案に咲代はすぐに同意した。
「今焦って追加する必要もないわね。邦夫くんって結構冷静に物事を分析できるんだね。」
美少女に褒められて、赤面する邦夫。
「後は攻撃魔法を何にするかだね。何がいい?」
「うーん、そうだな・・・。どういう攻撃ができるのか、である程度魔法少女のキャラクターが決まってくるのよね・・・。」
そういうと、咲代は邦夫のすぐ隣に近寄ってきて、囁くような声でこう言った。
「邦夫くんは、私にどんな魔法少女になってほしいの?」
彼女が突然体温を感じるくらい近くに寄ってきたので、邦夫はドキッとした。
「ど、どんなってどういうこと?」
「ほら、例えばお姉さんタイプがいいのか、甘えん坊なタイプがいいのか、ツンデレがいいのか、とか」
「そんなキャラクター設定は求めていないんだけど・・・」
咲代には、お姉さんタイプも、甘えん坊タイプも、ツンデレも似合わない気がする。一応想像はしてみたものの、しっくりこない。
邦夫は、小さいころから魔法少女アニメを見ていた時に、主人公の魔法少女に求めていたキャラクター設定を言ってみることにした。
「正義の味方、かな」
それを聞いた咲代はきょとんとした顔をした。
「なんで魔法少女が、正義の味方なの?」
「弱いものを助けるようなイメージがあるからさ。」
「へぇー。そうなんだ・・・時が変われば変わるものね、イメージって。」
ちょっとした咲代の一言一言が本当に気になる。気にしちゃいけないとわかっていながらも、邦夫はどうしても気になってしまった。
「この、シルバーサワードなんてどうだろう?白銀の剣・・・ほら、デバイスも白銀の書だし。」
「これ、騎士の道具よ」
「騎士も、正義の味方っぽいじゃない!魔法少女にして騎士なんて、カッコイイよ」
このシルバーサワードは、無数の剣(Sword)を自在に扱える攻撃魔法だった。発動すると、自身の周りに多数の剣が出現し、その剣から様々な攻撃をすることができるのだ。その攻撃の種類はレベルに応じて変わってくる。
「面白いね、邦夫くんは。でも、あなたがそういうキャラクターを私に望むのなら、その望みを裏切らないよう最大限努力するわ。」
咲代も邦夫が望むキャラクターを受け入れてくれたようだ。邦夫の顔から笑みがこぼれる。
「じゃあ、これでいこうか。」
容量800を使うと、一気にLv.5まで使えるようになるらしい。咲代のレベルの高さに驚く邦夫だった。
「後は何かある?」
シルバーサワードを白銀の書に書き込み終えた邦夫は、咲代に聞いた。
「そうね、特に今はないかな。もらった装備を使えるように練習しなくちゃね。」
「おっけー。それじゃ、僕はたんまり出された宿題を片付けるから、もう帰るね。」
「うん。じゃあまた。」
邦夫は移動魔法陣で戻っていった。
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