第2話 儀式
口から不意に突いて出た言葉は「美しい」だった。
一切の突起が無く
結露を錯覚させるほど
撫でる度に
ひんやりとした質感は火照った身体に吸い付くよう
いくらかの破片が出土することは多かったものの、一見して破損が見られないほど完全な形で出てくるのは初めてだった。
考古学者としては冴えない部類のタナカが栄光の未来を感じてしまうのは仕方のないことだったろう。
それは単なる美術品と鑑定するにはやや機能的な形をしていたので、タナカは風俗史に詳しい友人を呼んでいた。
これは古代に色々な用途で使われていた焼き物の一種のようだと彼は語った。
一部だけならあちこちで出てくるので普及していたことは間違いなく、狭い個室に1つあることが多いとも。
当然タナカもその程度は知っていたが、話を遮ることはしなかった。
友人は勢いづいて続ける。
文献に残っている古代宗教の習慣に懺悔というものがある。
それは狭い個室で神に祈りを捧げると共に自分の罪を告白することで赦される儀式のようなものだ。
そこにこの高貴な白。
神を模した偶像は白で作られているものが多い。
神自体であるとは考えにくいが、それに関係すると考えても差し支えはなさそうだ。
なによりこの造形を見れば非凡な物ではないことはわかる。
さらに続けようとする友人をなだめ、すこし1人にさせてほしいとタナカは言った。
タナカは先程の懺悔という言葉に思慮を巡らせていた。
よく見てみれば成る程、その流線型の外殻にポッカリと空いた穴は秘密の言葉を囁くのに適した形にも見えてくる。
それどころか、神の耳にすら見えてきていた。
神の耳を形どったものだとすればこの高貴さにも納得が行く。
物は試しとタナカも言葉をそこに落としてみたが、それとは違った危険な思いが湧き上がってきた。
この流線型のフォルムに身体を預けたい。
その考えを持って見る程に、そのフォルムのなんと身体にフィットしそうなことか。
しかし、神への冒涜である。
タナカは無神論者であったが、考古学者としての先人への畏敬が軽率な行動を押しどどめる。
しかし、座すればこの太腿に、臀部に、どれほどの快感が待っているのだろうか。
まるでそれは女の濡れた唇のようにタナカを巧みに誘惑する。
たまらずタナカはそれに懺悔した。
「ああ、神よ。お赦し下さい!」
ふとタナカはそこに文字が刻印されていることに気づいた。
それは作者の銘か、はたまた神の名だろうか。
目線の先にはTOTOと刻印されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます