第6話

 「えっと、頑張ってみるね。」

ココノは緊張した顔つきで窓の方へ駆け寄り、怪物を見据えた。

「すごいね。こんなのと戦ってたんだ。やっぱり近くで見ると違う…。」

そう言ってから深呼吸すると、ココノはリコーダーに指を構えた。

 みー・・・。


 やっぱりキレイな音。リコーダーからは一直線に水が出てきた。・・・水鉄砲のミ、というところだろうか。

「役立たずな魔法だよなぁ…。」

「水が弱点ってわけでも無さそうだしね。」


 そー・・・。

 ごてん。


 足元に刃物が落ちてきた。怖い。

「剣?」

「みたい。」

ソードのソ・・・ってことか?

 手に取ると、ズッシリしている。アニメでしか見たことのないような剣。フィクションの世界では片手で持ったり、二刀流をしていることもあるが…想像以上に重たくて、実行は難しそうだ。

 「私じゃ振り回せないなぁ…。私が水で撹乱させて、そのスキに剣で斬れる?」

斬れる?…なんて聞かれても、やったことないから分からない。

「とりあえずやってみようか。」


 ココノが窓枠に足をかける。リコーダーを口に当てると、またまた綺麗なミの音を鳴らした。

みっみみっみっみっみー・・・。


 不規則な動きで水が舞う。そんなことも出来るのか…。きっと、リコーダーが苦手な僕には不可能な技なんだろうな。

 怪物が水に気を取られている内に、僕は壁を蹴って怪物の頭めがけて跳ぶ。反射的にレの音を鳴らしてバランスを取りつつ、怪物の頭上に着地した。

 力強くソの音を吹く。

 ソォォォ!

 歪な形のソードが出来た。残念。ココノのようなキレイな剣は僕には作れないらしい。が、これはこれで強そうじゃない?妖刀…みたいな。

 「ドラゴンミラクルマジカルソ―――ド!!」

漫画みたいなフォームで怪物に剣を向けた。技名ダセェ、なんて教室から聞こえる声援を聞きながら。


 「ねぇ、良い事おしえてあげる。」

耳元で声がした。モスキートだ。いつも急に出てくるから心臓に悪い。

「ファの音。二人同時に吹いてみなよ。」


 「わかった。」

何が起こるか分からないけど、モスキートは嘘つかないと思う。根拠なんて無いけれど。

 ココノとアイコンタクトをとって、指を構える。


 綺麗な音なら、ココノが出してくれる。だから、僕は。僕にしか出せない音を。ココノには出せない音を。

 フアァァァァァァア!

 ふぁ―――――‐‐。


 2つの音が混ざり、1つになる。その音と連動するように、辺り一帯、光に包まれた。


「「ファは、ファイナルアタックのファ!!」」



 手ごたえ。やった。やったんだ。

 「私も変われた。出来たよ!」

「ああ。ココノにしかできないことだ。僕一人じゃ出来なかった!」

怪物が、塵になって消える。

 僕らは抱き合って、そんな様子は目に入っていなかった。

 僕を呼び出す校内放送も、耳まで届かない。




 ・・・後から先生に怒鳴られたのは、言うまでもないな。

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