第3話

「あ、もうすぐ授業始まっちゃうね~。」

ココノがリコーダー、筆記用具、教科書という三点セットを腕に抱えて教室を出る。僕らも続いて音楽室へ向かった。途中で下級生とすれ違う。服装から察するに、1限目は体育らしい。いいなぁ体育。僕も体動かしたいなぁ。


「起立。礼。着席。」

音楽は担任の先生とは別の、安堂先生の授業。この先生は話が長いから嫌いだ。

「小学校での音楽の授業はあと二回しかないのでね。限られた時間を大切に使いましょうね。」

じゃぁ没収されたリコーダーを返してください。…と言っても聞いてくれないだろうから言わない。

「あと二回かぁ。寂しくなるね。」


ココノがそんなことをボヤいたその時。


ウオアアアアアア


例の怪物の鳴き声。またグラウンドの方から。


「はい、みなさん。窓から離れましょうね。部屋から出てはだめですよ。放送による指示を待ちましょうね。」

2回目とあって、みんな落ち着いている。ショウゴだけは何かを考えるようにボーっとしていた。


「先生、リコーダーを返してください。」

「ダメに決まってますね。さぁ、席について。」

「でも、体育の授業をしている下級生がいる筈です。助けに行かないと。」

さっき廊下ですれ違った下級生が心配だ。クラリネットガールの力があれば助けられるかも。

「…大人がやりますからね。危険だから皆さんは下級生の無事を願っていればいいんですね。」

「でも…」

「バカみたい。」

ミツキが言葉を遮るように言った。


「バカみたい。そんなに女装したいなら趣味としてやれよ。大したチカラ無いくせに調子のるなよ。ハッキリいってやる、あんたがグラウンドに出たところで邪魔でしかないんだよ!」

「ミツ…」

なんで泣いてるの。

「知らない!」

「逢坂さん、廊下に出ては…。」

先生の言葉を無視して、ミツキは音楽室を出てしまった。


「みんな大人になれればいいのに。」

「ココノ…?」

「夢を叶えた状態を大人って言うんだって。だからね、ミツキもちゃんと大人になれたらいいなって。」

ココノが何を言っているのか、よく分からなかった。ミツキの将来の夢なんて、自衛隊以外に聞いたことないし…。

「えっと、分かるように言って欲しい…」


ピンポンパンポーン

『怪物は消滅しました。怪物は消滅しました。授業を再開してください。』


ああ、今日はよく言葉を遮られる。

でも、怪物が消えたなら一安心。先生も息を吐いていた。

「まじかよ…。」

ショウゴだけは青ざめていたけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る