第2話

「おはよ。無事ぶじに帰って来られたんだな。」

怪物騒動かいぶつそうどうの次の日、教室にて。冗談じょうだんめかしてショウゴがわらう。昨日きのうは大変だった。校長室にくと、そこには母さんもいて、涙目なみだめになってたし。校長先生も冷静れいせいじゃなかった。

おこられた?」

ココノが心配しんぱいそうに聞いてきた。

「うん。リコーダー没収ぼっしゅうされた。」

今日の一限目、音楽の授業じゅぎょうなのに。し出し用のリコーダーって使いたくないよね。鉛筆えんぴつ代用だいようさせてほしい。ちょうどいい長さの鉛筆えんぴつ持ってたかな。ゴソゴソとペンケースの中をあさってみる。うん。短い鉛筆ばっかりだチクショウ。


「まったく。日頃ひごろの行いが悪いから怒られるんだよ。もしも変身へんしんしたのがココノだったら、軽く小言こごとを言われるだけで終わったんじゃない?」

ミツキの言うことは、ごもっともです。女子だったらいてゆるされてた。ぼくもウソ泣きの練習しようかな。いつか役に立ちそうだもん。

「まだ昨日きのうのバケモノについて、何も分かってないんだろ。危険きけんだから、って大人が外であそばせてくれないし。あーあ、サッカーしたいなあ。」

ぼくも朝、テレビで見た。まだ何も分かっていないことと、あの現象げんしょうが起きたのが世界中でココだけだということだけがかえし流されていた。でも、クラリネットガールについては何も話されていない。大人のジジョウってやつだと思う。

「私、朝からインタビュー受けたよ。昨日はこわかったですか?だって。」

「怖くなかったわけないのにね。まあ、ジュンヤの女装じょそうのおかげで少しなごんだけど。」

「笑いのために変身したわけじゃないから!戦うためだから!」

「シャボン玉とレモン汁でたたかうヒーローねぇ…。」

ミツキはぼくのことをトコトン笑ってくる。


全部ぜんぶゆめだったりしないのかな。」

ココノがひとごとのように言った。

「いてっ。」

ショウゴがリコーダーでココノの頭をコツコツたたく。

「そうだったら良いのにさ。ちゃんといたいし、ゆめじゃないみたいだ。おれらでどうにかするしかないのかもな。」

「大人にまかせるのじゃダメなの?あと、いたい。」

「ごめんごめん。大人は必死ひっしおれたちを守ろうとするけど、俺たちは守られたいわけじゃないだろ?あの怪物かいぶつに、一発いっぱつかましてやりたいんだ。だから、イイ子でいるだけじゃダメじゃないかなって。」

リコーダーを止めて、ショウゴはまどの外を見た。昨日の怪物かいぶつ足跡あしあとが、くっきりとグラウンドにくぼみをのこしている。

「守られたいわけじゃない、か。」


ココノはランドセルをゴソゴソあさると、ハート型の宝石ジュエルを取り出した。そう、見覚みおぼえのある、昨日きのうくらいに見た気がする3センチくらいの宝石ジュエル…。

「それって…!?」

ココノの宝石ジュエルはピンク色だった。

「昨日、家に帰ってから気付いたの。私のスカートのポケットに入ってた。」


「イノウエココノの音色ねいろうつくしい。」


ふいに、また耳元で小さな声がした。

「ん、ああ。ココノ、リコーダーくの上手じょうずだよな。」

「キレイな音色ねいろは、強い力を生む。だれかさんとはちがって。」

それはぼくのことを言っているのかな?失礼しつれいな。

「まぁ、それが良い方向に行くとはかぎらないけどね。」

「え、どういう意味いみ?」


「さっきからだれしゃべってるの?キモっ。」

ミツキがド直球ちょっきゅうで聞いてくる。

あ、この声、ぼくにしか聞こえないのか…。

「わかんないけど…クラリネットガールの神様かみさま…?」

ちがうよ。」

ちがうって。」

「名前。モスキートっていうんだ。」

「モスキート…?」

英語えいごで“”だね。」

ココノが教えてくれた。

「ジュンヤ、かたに虫ってるぜ。」

ショウゴが手ではたこうとした。


「やめて。やめて。こわい。こわい。」


モスキートと名乗なの不思議ふしぎな声のぬしあわてる。

「ショウゴ、待って。虫って…。」

だけど。」

はたかないで。だれか虫メガネ持ってない?」

都合つごうよく持ってるわけないか。

「あ、こんなのなら。」

そう言いながらショウゴが取り出したのは、ルーペのストラップだった。おそらく、通信教材つうしんきょうざい付録ふろく。プラスチックせいの手のひらサイズの物だ。きっと、ぼう赤いランドセルの妖精ようせいがくれたんだろう。

「ガチャガチャだけど。」

そっちか。じゃぁ、きっと200円だ。

ありがたく借りて、肩の上の観察かんさつする。

「やぁ。」

は、口を上に上げて挨拶あいさつしてきた。特にカワイイわけでもない、どこにでもいるだ。

だったんだ。」

「モスキートだよ。」

だよね。」

「モスキィ…」

「もうソレでいいよ。」

この会話がなかなか終わらない上に、ただただクダラナイということを、ぼく経験けいけん上知っている。同じ失敗しっぱいはするものか。


「何やってんの。と話してるの?まじキモい。」

ミツキが相変あいかわらずつめたい。

でも反論はんろんできない。そうです。ぼくと会話をしています。


「クラリネットガールの神様かみさまだった。」

「「「わけわからん。」」」

だよね。

「とにかく、このはたいたらダメだから。」

「…ミツキ、どこかオススメの精神科医せいしんかいはいないか?」

「いるわけないでしょ。」

「スクールカウンセラーの予約よやくしてきたよ。」

「ココノ、ぐっじょぶ。」

全然good jobぐっじょぶじゃないから。ぼく正常せいじょうだから。事実じじつだけをべておりますからあああ!!

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