「柳原様の迎えですって?」
文を書こう、と真夏は思った。今、情報を仕入れる手立てを持つ者は、真夏しかいない。都に送る荷を運ぶ者に、少々の金をにぎらせ言付ければいい。都の情勢はどうなっているのか。朔の父は、兄は、姉たちはどうしているのか。真夏のことを知っている彼ならば、朔の父に親しみを持っている彼ならば、きっと教えてくれるはずだ。
(俺が仕官を望んでいることも、書き添えておこう)
この場所にいてもできる下準備をしておこうと、真夏は鈴のように愛らしい声で子どもたちと笑いあう朔を、まぶしく見つめた。
◇◇◇
別荘に戻る彼らを迎えたのは、武装した男たちだった。
ものものしい姿に子どもたちが怯え、朔や芙蓉にしがみつく。真夏は彼女たちの前に立ち、眉をそびやかして訪ねた。
「貴殿らは、何者だ」
「こちらは左大臣様の使いにより、朔姫様をお迎えに上がった者ども。朔姫様、こちらに車を用意しておりますので、女房殿と共にお乗りください」
男たちが道を作るように割れ、見事な女車が立派な牛につながれているのが見えた。
「左大臣様……それは、さきの左大臣様、久我久秀様のことか」
真夏が言えば、彼の前に立つ男が不遜に片ほほだけで笑った。
「左大臣様と言えば、柳原公忠様に決まっているだろう」
「柳原様の迎えですって?」
「朔姫」
真夏の背後から進み出た朔が、強い瞳で男を見た。男は少々ひるみつつ、朔をしげしげと無遠慮にながめ、やがて慇懃に頭を下げた。
「これはこれは。ウワサにたがわぬ、かぐや姫もかくやという美しさ」
「そのような世辞はいいのです。質問に答えて」
自分よりもはるかに体躯のいい男に、胸をそらしてキッパリと対峙している朔に、真夏は寄り添うように立った。もしもこの男が狼藉を働こうとするのなら、組み伏せるつもりでいる。真夏の家、大伴家は武門の家柄として知られていた。真夏も当然、その家柄に恥じぬようにと鍛錬を受けている。
「お父上が失職なされ、都より遠い場所におられる姫はさぞ心細いことだろうと、我が殿は仰せです。姉姫様がたは寄る辺となる場所がおありですが、朔姫様にはそれがない。せめて手元に引き取り、よき縁談を結ぶ事こそが、さきの左大臣である姫の父上に対するご温情、とでも申しましょうか」
(温情だと――?)
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