(この別荘の主は、私ですもの)

「私は大丈夫よ。私がしっかりしなくては、この別荘にいる誰もが不安になってしまうもの」


「姫様」


「変わり者の姫は、よそのおとなしい姫君と違って、こういうときに嘆くだけじゃないの。泣くのは、もう十分にしたもの」


 芙蓉と共に、泣き疲れて眠るほどに泣いた。だからもう大丈夫だと朔が言えば、芙蓉の瞳が揺れた。


「私も、しっかりしなくてはなりませんね。姫のことを、大殿様より託されたのですもの」


「芙蓉がいれば、心強いわ」


 それに、と朔は心の中で真夏の姿を浮かべる。真夏がいれば、どんなことでも切り抜けられるような気がした。夜道のような暗い場所に落ち込んだとしても、真夏が道を照らし、導いてくれる。彼の姿を浮かべるだけで、しっかりと前を向き歩む勇気が湧いてくる。彼はきっと、自分を支え続けてくれる。そんな確信が、朔の中にあった。


(彼がこの別荘へ来てくれて良かった)


 芙蓉はもちろんのこと、真夏の存在が朔の心を支えてくれている。


(きっと大丈夫)


 朔は今朝、真夏の腕に包まれた心地を思い出した。自分がしっかりしなければ、別荘の中は不安に乱れてしまう。芙蓉も真夏も苦しめてしまう。二人だけではない。怒って出て行ってしまった由や、その他の者たちもだ。


(この別荘の主は、私ですもの)


 彼女たちの今後の身の振り方は、自分の判断にかかっているのだと、朔は気合を入れた。


「ねえ、芙蓉」


「はい」


「この屋敷にいる者を雇いたいと言ってきている方々は、どのくらいいるのかしら」


 朔の問いに、芙蓉は目を丸くした。


「雇ってくれる先があるのであれば、そこに行かせることが一番だと思うの」


「ですが姫様」


「聞いて、芙蓉。私の世話をするために、多くの人が残ったとしても、その者たちをどうやって養えばいいの? 私を騒動から離すために、お父様が私を別荘に向かわせたというのなら、自分たちでなんとかしろということなのではないかしら。雇われる先がある者は外に出して、残った人数でなんとかするしかないでしょう。その分、色々と不自由なこともあるでしょうけれど、私が困るというのなら大丈夫よ。自分で出来そうなことは覚えるわ」

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