「姫様の品位にかかわるかと」

「その着物じゃ森に入れないから、入れる格好をしないと」


「髪の毛も長すぎて、あちこちにひっかかるから、よくないなぁ」


「姫様は、木に登れる?」


「川や湖で泳いだことある?」


 子どもたちに、朔はひとつずつ返事をした。どんな格好ならば、森に入れるのか。髪を切るわけにはいかないので、くくるしかないが大丈夫か。木に登ったことも、泳いだこともない。


「都には、川も森もないの?」


「少し出かければあるけれど、川で泳いだり、木の実を採ったりはしないわ」


「じゃあ、毎日どんなことをしているの」


「歌を詠んだり、おしゃべりをしたりするの」


「なんだか、つまんなそう」


「お姫様って、いつもはどんな遊びをするの?」


「貝合わせとか、絵物語を読んだりとか」


「それって、どんなの?」


「屋敷で、遊んでみる?」


「遊ぶ!」


 公家の屋敷にあがれると、子どもたちは歓声をあげた。


「いいわよね、芙蓉」


「お好きになさるために、いらしたのでしょう?」


 芙蓉が含み笑いをして、朔は大きくうなずいた。


「それじゃあ、屋敷に戻りましょうか」


 わぁっと子どもたちが、屋敷に向けて走り出した。


 ◇◇◇


「近頃、里の者たちと仲良くしていらっしゃるようですな」


 穴多守に夕涼みの茶会はいかがですかと誘われて、ゆったりと湖に落ちてゆく夕日をながめていた朔は、静かにほほえんだ。


「ええ。こちらの方が来られないときは、里の子どもたちが遊びに来てくれています」


 笑顔のまま、穴多守は不快そうに眉の間にしわを作った。


「下々の者たちと仲良くするのは、どうかと思いますがね」


「どうして」


「姫様の品位にかかわるかと」


「私の品位」


 あきれた口をした朔は、傍に控えていた芙蓉と顔を見合わせ、笑った。


「そのようなことで失ったり、かけてしまうようなものなら、必要ないわ」


 キッパリとした朔に、穴多守は苦虫をかみつぶしたように、唇をひんまげた。


「なるほど。姫様はウワサどおりに、ずいぶんと変わったお方のようですな」


「あら。私があなたの息子に、どのように案内をされ過ごしているのか、聞いていらっしゃらないようね」

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