第7話「真実は突然に」


「昼はすまなかった。まさかあんなことになるとは」

「いや本当に、俺が悪かったんです。ほら、制服も乾きましたし。大丈夫です」

「それでも、申し訳なかった」


 放課後、生徒会室の前で私たちは山辺先輩と会っていた。

 今日は天気がよくて、午後の授業の間干しておいたら和人の制服はちゃんと乾いた。

 しかしそれでも先輩は謝り続ける。私は声をかけずにはいられなかった。


「山辺先輩。気にしすぎですって」

「あぁ……すまない。どうしても、またやらかしたかと考えてしまうんだ」

「やらかした……ですか?」

「ん……まぁ話してしまってもいいか。こう見えてわたしは結構やらかすんだ。……つまり、ドジなようでね。殆どの場合は自分で処理するんだが、たまに今回のように周りに迷惑をかけてしまうことがある」

「はぁ。……えぇ? 先輩がですか?」

「とてもそんな風に見えないよな……」

「よく言われるよ。完璧な山辺ゆかりがドジなんてするわけないってね。……でもわたしは本当によくドジをする。隠し続けているだけで、完璧でもなんでもないんだ」


 よくドジをする……。そう言われても、昼休みのを見ても、私は信じることができなかった。というか、隠せてる時点で完璧なのでは?


 隠せている間は本当になる。……あぁ、それって私もそうだ。


「生徒会長になってますます完璧さを求められ、わたしはそうであろうとした。……だからこんな不確定要素は、はっきりさせなくてはならないんだ」

「なにをですか……?」

「それはな……」


 先輩はじっと和人のことを見つめる。


 その目を見て……和人がハッとした顔になる。

 同時に、先輩がくるっと後ろを向いてしまった。


「や……なんでもない! なんでもないんだ、今のは忘れてくれ。頼む」


 私はわけがわからず、先輩と和人を交互に見る。

 先輩の顔は見えないけど、和人は……真剣な、どこか悲しい顔をしていた。


「そうですか。先輩、気にしないでください。一晩たてば大丈夫ですよ」

「えっ……?」

「ちょっと和人?」

「ほら、行こうぜ知奈」


 和人は私の腕をぐいっと引っ張って歩き出してしまう。私は振り返った先輩に小さく頭を下げて、和人に並んで歩き出した。


「俺さ……この体質になってから、もうだいぶ経つだろ。だからわかるんだよ」

「……なにが?」

「俺を見る相手の顔で。俺に惚れちゃったかどうか」

「そう、なんだ。じゃあ先輩は」

「ああ。最初は完璧に隠してた。でも今のでわかったよ。やっぱり体質のせいで惚れたみたいだ」

「…………」


 顔を見ればわかるなんて、そんなの知らなかったよ。

 でもそりゃそうだよね。今までどれだけの女の子が和人に惚れて、次の日にはその気持ちを忘れてしまったのか。和人はずっと相手の顔を観察していたんだ。


「……ねぇ和人。山辺先輩、ちょっとお姉ちゃんに似てたと思わない?」

「えぇ? そうか? ……まぁ雰囲気は似てたかもな。クールでなんでもできちゃいそうなところとか」

「実際はそうじゃないみたいだけどね。意外なこと知っちゃった」


 ちなみに千絵お姉ちゃんも、クールに見えて実はなんにも考えてない、フィーリングで生きる人なんだけど。和人は好きだったくせに、そこに気付けていなかった。


「もし山辺先輩が本当に効果無かったら、和人どうしてた?」

「どうもしないよ。条件とか知りたかっただけだし」

「そうなの……?」

「そりゃそうだろ。今のとこ、幼馴染みには効かないってことしかわかってないし。先輩にも効かないなら新しい発見だったのに。……まさかあんなに完璧に隠せる人がいるとは思わなかったぜ。わかんなかったの初めてだ」


 初めて? 和人、私のこと見抜けてないじゃない。

 すぐ隣に、先輩以上に完璧に隠している人がいるんだよ。


 本当はずっと昔から好き。

 言ってしまいたいけど、私の気持ちは和人の望むものじゃない。それどころか……。


 幼馴染みにも効果がある。効かない人なんていない。


 そんなことを知ってしまったら、和人は絶望をしてしまう。

 だから私は、これからもずっと隠し続けなくてはいけないんだ。


「…………っ!」


 不意に涙が出そうになって、慌ててそっぽを向く。

 こんな顔、見られちゃいけない。隠さなきゃ、隠さなきゃ……。

 幸い和人はまったく気付いていない。後頭部で手を組んで、ぼそっと呟く。


「結局、、知奈だけなんだよなぁ。効果がないの」


 ……今、なんて言った?

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