第4話「よくあるマンガのお約束は無い」
「ねぇ和人。和人って、えっちなことに体質を利用しようとしないよね」
「なっ……なんだよいきなり?」
ある日、学校の帰り道でそんなことを聞いてみた。
「ほら、マンガとかアニメだとさ。そういうのあるでしょ」
「なにを見たんだよお前……」
彼に15センチ以上女の子が近付くと惚れてしまう。和人の体質のことを考えれば、えっちなハプニングの一つや二つどころかたくさん起きそうである。
だけど私が知っている限り、そういう類のものは起きていない。
先日の愛ちゃんの時はかなり際どかったけど、結局和人の方から引いてしまった。
だからこそ、こんな疑問が湧いたのだ。
「現実はそんなもんってことだろ。そもそも俺の体質は、そこまで強烈なもんじゃないし」
「まぁ惚れちゃうだけだもんね。でも上手く駆使すれば、なんでもできちゃいそうじゃない?」
「なんでもって知奈……お前なぁ」
「やれって言ってるんじゃないよ? でも、やればできそうなのに、和人は絶対しないよねって話」
「むっ……。それ、俺がヘタレだと言いたいのか?」
「違うよ。もしそんなことしたら、犯罪者扱いするからね」
「だろ、そういうことだ。……でも確かに上手く使えば……頼み込めば、触るくらいはできるのかもな。オイシイ思いができるかもしれない。でもやっぱ、俺はしないよ。そういうの」
「うん。どうしてか、聞いてもいい?」
別にヘタレ扱いしているわけじゃないよ、という意味を込めて、そんな聞き方をする。
「どうしてって、告白と一緒に決まってるだろ」
「告白と一緒……?」
「告白して、翌朝には好きだった気持ちが消えてるんだぜ。お互いメチャクチャ気まずい思いをするだろ。なんであんなヤツに告白したんだろって思う女子もいたと思うぜ」
そんなことない……とは、限らない。この間の高崎さんなんかは、そんな雰囲気があった。
「それと同じってことだよ。例えヘンなことになったとしても、次の日には……気持ち悪いと思うわけだ。そんなの思われたくないだろ?」
「……うん、そうだね。思って欲しくないよね」
「えっ。いや、まぁ、その……そういうことだよ」
和人は顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。
思われたくないって言うけど、相手にそんな思いをして欲しくないというのが本音だろう。
惚れてしまった女の子に対して冷たく接しているのも、全部相手のため。
なんだかんだで優しいんだって、私は知っている。
「……俺、普通の恋愛なんてできないんだろうな」
「和人……」
ぽつりと漏らした和人の言葉に、私は俯いてしまう。
自分の体質が効かない相手に好きになって欲しい。それが和人の望みだって、わかっているから。
小さい頃からずっと効果を受け続けて、好きになった私じゃ……その望みは叶えられない。
「あっ、いや、今のは忘れてくれ」
「……うん」
無理だよ、忘れないよ。
和人の言葉は、私に重くのし掛かる。
もし、和人の望む人が現れたら。その時は……私は、どうするんだろう。
潔く身を引くのが、和人のためなのかな……。
私の中に生まれたもやもやした感情は。
思いの外早く、答えを迫られることになる。
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