第3話「迫られて、放課後」


「ねぇ相野君。あたしと付き合ってみない?」

「いや俺はいいよ。そういうの」


 また和人が言い寄られている!

 放課後、人のいなくなった教室で、和人はクラスの女の子と二人っきりだった。私は教室のドアに隠れ、廊下から様子を窺う。

 相手は唐沢からさわあいちゃんだ。彼女はいわゆる清楚系ギャルで、黒髪で肌も白い、カワイイ女の子。制服のリボンを外し、胸元を大きめに開いている。

 ……明らかに和人を誘っているのがわかった。


「いいじゃん。あたし、魅力無いかな?」

「そういうことじゃないっていうか……」


 ああもう、きっぱりその気は無いって言っちゃえばいいのに。

 和人は告白されたり迫られたりしても、自分から断ることは少ない。

 一晩経てば、治まるから。だからとりあえず放っておく。そういうスタンスだ。


 でもだめだよ和人。愛ちゃんはそれじゃ引き下がってくれない。


「そういうことじゃないって、どういうこと? なにか問題あるの?」

「問題は……まぁあるけど。とにかく、今日は帰ろう。明日また、な」

「ダメ。今返事してよ」


 グイグイ行くなぁ。さすがの和人も困った顔になる。

 ていうか……体寄せすぎじゃない? なにあれ、ぴったりくっついて!


「ねぇ……それとも、相野君ってさ……」


 愛ちゃんの声が聞こえなくなる。さすがにめよう。恨まれることになっても、これ以上はだめだ。


「ななななななっ! なんでそこであいつが?! 俺は別に、そういうんじゃなくて!」


 突然、ずさささささっと和人が壁に激突する勢いで後ずさった。

 ぽかんとする愛ちゃん。私も、教室の入口で固まってしまう。


「ふぅん。じゃあいいや。あたし帰るね」

「えっ? あぁ……」


 愛ちゃんがこっちに来る。ばっちり目が合い、隠れるタイミングを失った。


「あ、知奈っち。あとよろしく」

「よ、よろしくって?」

「ばいばーい」


 愛ちゃんはあっさり私の横を通り抜け、教室を出て行ってしまう。


「おまっ、知奈……見てたのかよ」

「た、たまたまね。和人、まだ帰ってなかったみたいだから。一緒に帰ろうと思って」

「そ、そうか……」


 なんだか気まずい。

 告白シーンなんて何度も見てるのに、今回のは、なんか……いつもと感じが違った。よくわからないけど愛ちゃんすごいと思った。

 でも最後、どうして和人はあんなに勢いよく離れたんだろう? 愛ちゃんはあっさり引き下がったんだろう?


「……ねぇ和人。最後、愛ちゃんになんて言われたの? 聞こえなかったんだけど」

「えっ?! な、なんでもない。なんでもないぞ。それより早く帰ろうぜ」

「待って、なんでもないことないでしょ? あんなに慌ててたじゃない」

「そう、慌てたんだ。見てただろ? すげー近付かれて……さすがにやばいって思ったんだ」

「確かにやばかったけど……。でも愛ちゃん、なにか言ってた気がするんだけどなぁ」

「なんでもないって。忘れろ」


 結局、和人はこの時のことを話してくれなかった。でも……。


『ななななななっ! なんでそこであいつが?! 俺は別に、そういうんじゃなくて!』


 あいつって、誰のことなんだろう?

 まさか…………。ううん、まさかね。

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