第2話「開き直って有効利用」


 全部打ち明けてしまおう。そう思ったことは、実は何度もある。


 そもそも和人に相談をされたのは、小学校三年生の時。その時すでに私は、彼の15センチ以上近付くと惚れてしまう特殊能力の影響でメロメロだった。物心ついた時には好きだったから、幼稚園、もしかしたらその前からだ。

 にもかかわらず、大事な話があるんだ、と言われてなんの勘違いも緊張もせずについていった。小学生だったからしょうがないけど。

 そこで彼の特殊能力……フェロモン……いや、もう統一してしまおう、体質のことを知る。


 女の人に近付くと急に態度が変わるから、おかしいと思ったんだ。


 和人はそう言っていた。どうやら彼なりに色々試したらしい。

 原因を突き止めようと、私たち二人は実験を繰り返した。それでわかったのは、15センチ以上近付くと効果が出る、しかし一晩で効果が消える、という条件だけ。肝心の原因は未だにわかっていない。

 ちなみに実験方法は、クラスの女の子に和人にゆっくり近付いてもらい、私が定規でその距離を測るという原始的なもの。驚いた顔で赤面するのが、ジャスト15センチ。繰り返し試したから間違いない。……今思うとあの子には本当に悪いことをした。


 体質のことがわかってくると、和人は行く先々で女性を避けるようになった。

 が、すぐに面倒になった。

 道行く女性すべてを気にしていたら外も歩けない。電車もバスも乗れない。関わり合いのない通りすがりの人なんて、文字通り好きにさせておこう。どうせ一晩で忘れるんだから。気を遣うのは学校の中だけでいい。


 ……と、思っていたのも中学まで。

 高校に入って、彼はそれすらも面倒になった。誰が惚れようがしったことか、というスタンスになった。

 そのため一年の頃は頻繁に告白をされたが、和人は一度もオーケーせず、一日置くと逆にフラれたりなかったことにされる。しかしやっぱり何故かモテる。

 これで変な噂が立たないわけがなかった。


 隣りにいる私は、すごく複雑な心境。

 和人がモテるのを見るのはやきもきするけど、決して誰かと付き合うことはないと安心もしている。でもやっぱり和人が言い寄られているのは見たくない。


 今日も今日とて、登校すると和人の周りには女子が数人集まっていた。

 もう日常風景と化している。


「ねぇ相野君。放課後買い物に付き合ってもらえないかな」

「パスー。それよりさ、数学のノート見せてくれない?」

「いいよ! ちょっとまってて!」

「ノートなら私が見せるのに……」

「じゃあさ、次の小テスト、どこが出るか予想教えてよ」

「うん! 先生、こないだの授業でしつこいくらいこの問題を説明してたから、たぶん出ると思う」

「へぇ。サンキュ」


 和人のやつ……また成績いい子に近付いたな?

 テストが近い時に和人がよくやる手だ。

 これも高校に入ってからだけど、和人は自分の体質を利用することを覚えた。

 今のとことテストのヤマを聞いたり、ノートを見せてもらう程度だけど……。


『この体質、なんか上手く利用できないかな?』


 高校入学前に和人にそんな相談をされて、勉強方面に使うことを提案したのは何を隠そう私だった。

 この頃和人はある事件のせいで相当なストレスを抱えていて、体質について前向きに考えるのは事件を忘れるためにもいいと思ったのだ。

 狙いは功を奏したけど……まさか和人が平気で女の子を惚れさせるようになるとは思わなかった。


 私は時計を見て、和人たちに近付いていく。


「はいはい。そろそろ先生来るよー。散って散って」

「ああもう、榊さんがまた邪魔しにきた」

「まだいいじゃん、知奈ー」

「幼馴染みだからって横暴だよね」

「すみませんねー。でもほら、予鈴鳴ったよ」


 キーンコーンカーンコーン……。

 タイミング良く鳴ったチャイムに、みんなしぶしぶ自分の席に戻っていく。


「はぁ。おはよ、和人」

「おー。別に勝手に散るまで待ってもいいんだぞ?」

「そうだけど……なんとなくよ」


 日常風景になってしまっているけど、できればあんまり見たくない。


「でも知奈、あんな風にしたら女子と険悪になったりしないか?」

「え? ううん、それは大丈夫だよ。ていうか、そんな風に見える?」

「……見えない。色んな女子と仲いいよな、知奈って」


 邪魔をしても、私が邪険に扱われることはほとんどない。あってもその時だけ。一日で和人への好意が消えるように、邪魔した私への恨みも消えるみたい。


「まぁいいか。それより知奈、数学の小テストのヤマ、聞くだろ?」

「……うん。お願いします。あとノートも見せてね」


 なんだかんだで私も利用しちゃってる辺り……だめだめだなぁと思う。

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