彼に15センチ以上近づくと惚れてしまうらしいけど私には効かない
告井 凪
第1話「告白されても虚しいだけ」
「好きです! わたしと付き合ってください」
学校からの帰り道。
彼、高校二年生、
隣には私、同じく高校二年生、
私は顔を引きつらせるが、彼女は気付きもしない。眼中にないようだ。
まぁいいんだけど。だってどうせ……。
和人が少し気怠い声で彼女に尋ねる。
「あー……一応聞くけど、俺のこと、いつから?」
「えっ?! 一目惚れ……かな。今朝、学校ですれ違って。いいなって」
彼女はその素っ気ない感じに驚いたみたいだけど、すぐに恥ずかしそうに答えた。
この子、隣のクラスの高崎さんだったかな? 結構かわいくて、人気もあるはず。普通ならこんな子に告白されたら舞い上がっちゃうよね。
でも残念ながら和人は普通じゃない。予想通りの答えに、和人はますます面倒くさそうにため息をついた。
「はぁ……。じゃ、一日考えさせて」
「え……? うん、いいけど……」
和人の返事にきょとんとする高崎さん。一日保留にされてプライド傷ついた?
でもね、これがお互いのためなんだよ。
きっと自信あったんだろうな。今朝好きになって、放課後には即告白。しかも私が隣りに居るのに。よっぽど自信がなければできない。自分のことがカワイイとわかっているタイプだ。
それに和人の噂だって知らないわけではないはず。それでも告白してくるんだから、自分ならと思っていたに違いない。
高崎さんは去り際にようやく私のことをチラッと見たけど、特に表情を変えることもなく駆けていってしまった。……私なんて相手にもならないってこと? やな感じ。
彼女が見えなくなるのを待って、和人が盛大なため息をついた。
「はあぁぁぁ~……。面倒くさいことにならなきゃいいな、明日」
「カワイイ子だったよね。和人、オーケーしとけばよかった?」
「虚しいだろ、そんなの」
「だね。ま、きっと大事にはならないよ」
相野和人。彼は特異体質、もしくは特殊能力がある。
女性が15センチ以上近付くと、彼に惚れてしまう。
原因はわからない。そういうフェロモンが出ているんじゃないかと思っているけど、調べてもらったわけではない。今までの経験から出した答えだ。
そう、私たちは経験から知っている。きっと高崎さんは……。
「ごめんね、相野君。昨日の、やっぱり無かったことにしてもらっていい?」
「あぁいいよ、別に」
翌日、朝一で和人はフラれた。いやフラれたというのはかなり語弊があるけど。
この結果がわかってたから、和人はわざと一日保留にしたのだ。
和人の特殊能力だか特異体質は、一晩経つと効果が消える。
告白した翌日に無かったことにされるのは、これが初めてではないのだ。
「やっぱり無かったことにしてきたね。あの子、プライド高そうだからそうくると思ったよ」
「最近は減ったんだけどな。告白してくんの」
「そりゃね。告白しても絶対にオーケーすることはない。なんて噂が立ってるから」
「どこがイケてるのかわからないけど、何故か妙にモテる、なんて噂もな」
「それ、自分で言う? ちょっと自虐入ってない?」
「言いたくもなるって」
告白してもオーケーしないのは、もちろん次の日には好きだった気持ちが消えてしまうとわかっているから。
どこがイケてるかわからないなんて言われるのも、やはり次の日には冷めてしまうから。
妙にモテる、というよりは、妙なモテ方をする、が正しい。
「こんなこと言えるのも、知奈だけだしな」
「うん。和人のそれ、私には効果無いから。ずっと側に居るからかな?」
惚れてしまう効果は、私には発揮されない。
幼稚園より前からずっと側にいる、幼馴染みだから。私には効かない。
――ということになっている。
「持つべきものは理解のある幼馴染みだ」
ぽんぽんと頭に手を置かれ、私は慌てて俯く。
あぁ~もう! どうしてそういうことするかな!
ずっと側にいたから効果が無い?
逆だよ! めっちゃ効きまくってるの! ずーっと浴びせられて、もうずーっと効果が続いてるの! 好きで好きで仕方がないんだよ! なのに!
「ありがとな。本当、助かってる」
「う……うん」
私は真っ赤になった顔を隠して頷く。
もう……こんなこと言われたら打ち明けられないじゃない!
かくして私は、自分の気持ちを隠し、彼の良き理解者として隣りに居続けている。
それはこれからも、ずっと変わらないと思っていた。
彼に15センチ以上近づくと惚れてしまうらしいけど私には効かない。
これは私が、和人にすべてを打ち明けるまでの物語だ。
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