第22話王に仕えた者達3
王に仕えた者達3
ルシウスは骨型オウガをノエルとベルゴの周辺に展開させる。どうも見逃して貰えそうな雰囲気ではないが、まだ可能性がないと確定したわけてはない。
「無断で入ったことは謝る。私達は戦いを望まない」
「メレンシア様が支配なさるこの地に無断で入ったということは死を意味するのだ!」
人間の頭にツノが生えた翼付き半獣のような者達から惜しみない敵愾心が伝わってくる。ルシウスには戦うという選択肢しか残されていなかった。それなら相手が攻撃に出る前に仕掛けるとし、骨型オウガに攻撃を命令する。
意外と思ったより骨型オウガの戦闘力は高く敵を力技で倒して行くが、軽く見積もっても千体を超える敵の数の暴力の前では十体そこらの数では相手にならなかった。敵にやられたオウガ砂ではなく土に還る。その度ルシウスは新たなオウガの創造に徹する。ベルゴはノエルの側を守り、ノエルは「ウィンド・カット」でオウガの支援に当たる。
(敵が多いのが幸いと言える訳でがないが、スピア系が役に立ちそうだ)
ルシウスは傷口を焼かせ、よりダメージを与えられそうな「炎の槍」を唱える。そして無造作に方向など関係なく、敵がいるならどこにでも投げ続ける。「炎の槍」は敵を容易く貫き、視線の先へと消えて行く。
「固まるな!飛んで出来るだけバラけろ!」
ミノタウロスが空を飛び、お互いの間隔を空ける。距離をとってくれたおかげで少しは態勢を立て直すことが出来た。しかし、その分攻撃の効率が落ちてしまった。
(ハイリスクじゃないとハイなリターンはないということかよ!)
「敵が空を飛んで道ができました!」
周囲を包囲され逃げ道が塞がれていたが、ミノタウロスが空を飛んだことにより道が出来た。ルシウスは骨型オウガを三体解除し、骨型の馬を創造する。ベルゴとノエルは馬にまたがり出発しようとしたが、ルシウスが馬に乗ろうとしないことに気づいた。
数体のミノタウロスがメレンシアとウルベンがいる廃城の塔の最上階にある部屋に慌てた様子で報告に入る。
「メレンシア様!敵の侵入です!」
「ほう…?相手は誰かぇ?ブリュレ王国かぇ?」
(まさか、中立国か!対応が早すぎる…儂は早く逃げねば!)
「数は三人!所属は確かではないのですが、恐らく冒険者のようです」
メレンシアとウルベンは何馬鹿なことを言っているのだと眉をひそめる。三千人でもなく、たかが三人で慌てて報告する部下が、メレンシアは情けなくて怒る気にもなれなかった。
「三人なら早く始末すれば良いじゃろて!」
「しかし…相手が思ったより強く、既にかなりの者がやられました」
「妾の悪魔兵を持ってしても始末できない程の冒険者…面白いのう」
玉座に座っていたメレンシアは背中から翼を出し、天井の空いている部分からその冒険者を直接試すべく自ら向かうことにした。ウルベンもミノタウロス達に担ぎ上げられ、メレンシアの後ろに続く。
「ルシウス様!この隙に早く逃げましょ!」
「私は敵を引きつける囮になる。お前達は先に行け!」
「主人様!」
ルシウスは空を飛んでいるミノタウロス達から目を離さず、ベルゴとノエルに先に逃げるよう命令する。そのミノタウロス達の視線が少なくなったように感じ、廃城のような建物の方に視線をやるとこの者達のボスと思われる美しい女が飛んで来るのが見えた。
「あれがボスか…早く行け!オークのところまで振り向かずに走れ!私もすぐに行く」
「しかし!ルシウス様を置いて私達だけ逃げるなんて…」
「お願いだ…今の私の力ではこんな大勢の敵の中からお前達を守れる自信がない!オウガキングのときと同じような思いは、私はしたくないのだ!」
オウガキングとの戦いでベルゴは死にかけ、ノエルは殺されそうだったあのときを思い出したルシウスは、前回の強敵は雑魚をほとんど削った後の一人だったからこそ勝てたのではないかと感じた。しかし、今回は今までの経験と比べものにならない程敵が多い上に、オマケにボスまで付いている。女だから強くないのではと淡い期待を寄せるが、ルシウスの常識では大体の美形は最強の能力まで兼ね備えているものだ。そんな中でベルゴとノエルを守りながら戦える程の力はない。
「しかし…」
「主人様がそこまでおっしゃるのだ。我々は足手まといでしかない」
「ベルゴさん…わかりました!絶対…絶対私達のところに戻ってくると約束してください!それなら豚さん達のところでルシウス様の帰りを待ちますから」
「ああ、約束する。必ず生きてオークのところまで行く!」
ルシウスの言葉を信じ、ベルゴとノエルは後ろを振り向かず全速力で馬を走らせる。追いかけようとするミノタウロスに「王の威圧」と魔法で撃墜させる。
「思ったよりできる冒険者のようじゃのう」
上からの物言いに声のする方向に目を向ける。そこには今まで見たこともない絶世の美女が吸い込まれそうな笑みを浮かべこちらを眺めていた。
「お前がここのボスか」
「そのようなものじゃ。それよりそこのアンデットは主のものかぇ?」
「答えてやってもいいが、条件がある。今逃げている私の仲間を見逃せば教えてやる」
上から目線で交渉できる立場ではないが、もしかすると骨型オウガが交渉材料として使えるのではないかという賭けに出ることにした。
「いいわ…手出しはしないと妾が約束しよう」
「では、飛んでるやつらをお前の後ろに集めろ」
ミノタウロスがベルゴとノエルを追いかけるかどうか一目で確認するために一箇所に集める必要があった。メレンシアはルシウスの言う通り散開していたミノタウロス達を自分の後ろに集める。
「言う通りに全部やったぞぇ」
「いいだろ。先の質問に対する答えは、そうだ」
「ほう…アンデットを使役できる者がいるとは、驚きよのう」
「使役ではない。私が生み出したものだ」
急にメレンシアの目が凍りつく程に冷たいものと変わる。
「妾は嘘つきは好きじゃないぞぇ」
「嘘ではない」
ルシウスは一体の骨型オウガを解除し、骨型ゴブリンを創造して見せる。すると、メレンシアはそのクールビューティな顔に似合わない程に純真無垢な子供のような表情を浮かべ目を輝かせる。メレンシアの隣にいたウルベンもその大きな目玉が飛び出しそうだった。
「馬鹿な…ありえんことじゃ」
「爺、主も見たじゃろ?あの者はアンデットを創造したのじゃ!」
「しかし、メレンシア様。アンデットを創造する能力は、神話のアンデットと呼ばれるロード級のアンデットでも、できるかどうかのとんでもないことですぞ…」
「だが爺…今現に!目の前でそれ成し遂げて見せた者がおるぞぇ」
二人の会話を聞いていたルシウスはビーフもそうだったが、この二人も自分の予想を斜め上にいく反応を見せることに戸惑いを隠せない。
(なんだ…これってそんなにすごい能力なのか?まぁいいや、時間を稼げるなら今はそれで充分だ)
「久々に妾が惚れそうな男が現れたようじゃのう…名を聞かせてはくれぬかぇ?」
「ルシウス…だ」
「ルシウスか…良い名じゃのう。できれば顔も見せてはくれぬかぇ?」
何であれ仲間から気を逸らし、自分に興味を示してもらえるのは好都合だ。ルシウスはヘルムを外し、スケレトンであるその素顔を見せる。メレンシアとウルベンは先よりもっとすごい表情でルシウスを楽しませてくれた。
「これは驚きよのう!主はアンデットだったのかぇ?」
「馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な!儂もそれなりに長く生きておるが、会話が通じるアンデットは初めてじゃて!」
「しかも、アンデットを創造できるアンデット…妾は主が欲しい…」
「メレンシア様、こやつは危険ですぞ!アンデットを創造できるアンデットならロード級以上じゃて!」
「妾はこの者に全てを捧げてもよいぞぇ…無限に増やせるアンデットの死の軍勢で世界を相手に戦争じゃ!」
(初めてモテた気がするけど…なんかやべなこの女)
二人の話でルシウスは自分の存在について、色々わかった気がした。オウガキングに言われる前まではスケレトンキングだと思っていたが、「スケレトン創造」というルシウスの予想を遥かに超えた能力を持っていたということは少なくともスケレトンキング以上、もしくはスケレトンロードであるということのように思えた。この二人はルシウスが出会った中で、一番情報を持っていそうだったので素直に聞いて情報を聞き出すことにする。
「聞きたいことがある」
「何かぇ?妾が全て答えてやろう」
「実は私は記憶が失ってわからないことが多い。それでだ、スケレトンキングはどんな姿なのか知っているか?」
まずは自分のアイデンティティを取り戻すことにする。
「儂は一度見たことがある。それは四メートルを超える巨大な骸骨じゃった」
(クッソ…オウガキングの言う通りかよ!)
「では、スケレトンロードは見たことあるのか?」
「グヘルヘルヘルっ何を言っておるのじゃ。ロード級のアンデットは神話にしか出ないものじゃて。それを直接見た者は今の時代誰もおらん」
結局、ルシウスは自分の正体を掴むことはできなかった。それでも一応整理すると、ベルゴを簡単に倒したオウガキングを倒せたことから、ただのスケレトンではない。そのことでキングと同格かそれ以上の存在であることは何となくわかる。それに新たな情報として「スケレトン創造」はロード級の神話のアンデットでも使えるかどうか曖昧な程の能力らしいとのことだ。それを使えるということは最低でもスケレトンロードということなのだろう。
(進化して縮んだのかよ…)
なんだかんだ、一時間は時間を稼いだ気がする。ルシウス自身も、そろそろ逃げ出そうと思っていると後ろから無数の足音が聞こえる。振り向くとそこには気の抜けた表情の亜人達が、ミノタウロスの数倍以上の数でこっちに向かっていた。
(まずいな…このままじゃ本当に逃げられなくなる)
今はベルゴとノエルを気にしたくていいため、強引に突破を試みる。骨型の馬に乗り、スピア系の魔法で敵を倒し道を作る。上手くいっていると思ったら、大勢の亜人が群の中を馬で走るルシウスをサンドイッチのように挟む。無数の手に捕まり馬から振り落とされ、その上に乗りかかる亜人達の重さで身動きが取れない。遠くから見ると千を超える死体でピラミッドを作ったようにも見える。
「どけ!チキショー!俺は行かなきゃいけねんだよ!」
百トン以上の重さで鎧が完全にぺったんこになるのを感じるが、それでも必死で抜け出そうともがくルシウスの前にメレンシアが降りてくる。
「オウガキングが死んでから面白いことばかり起きるのう」
「オウガキング…?もしかして、廃鉱山にいたオウガキングのことか?」
「知っておるのかぇ?ああ…もしや主が倒したのかぇ?」
「そこにいたやつを倒したのは俺だ」
「主と妾は何かの糸で繋がっているようじゃのう」
メレンシアは自分はなんという幸運に恵まれているのだろうという表情を浮かべる。
「主がオウガキングを倒してくれたおかげで戦争も楽しめた。そして、戦争が終わると主が妾の元に現れた。主と妾は結ばれる運命のようじゃのう」
「戦争…?どういうことだ!」
「オウガキングを倒したのがブリュレ王国の者という言いがかりをつけ、街を一つ滅ぼしてやったのじゃ!」
ルシウスにミレス六番街のことが頭をよぎる。嫌なやつだが換金所店主とか、ギルド会館のババや受付嬢達、ハウンドドックの情報をくれたヒゲオヤジ、その他街の人達。自分がオウガキングを倒したことで大勢の人が死んだと思ったら、その罪悪感に心が壊れそうになる。
「最後の思念体」
ルシウスは体から引き離された感覚がして目を開けると、真っ暗の空間に浮いているようだった。自分は確かにそこに存在するのに、自分を見ることも触ることも出来なかった。
「貴様も心を病み始めたか」
「誰だ!」
「私はお前の言う、体の前の主人という者だ」
「前のスケレトンキングだと…?」
「正確には自我を保つため、切り離された思念体の一つに過ぎない」
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