第21話王に仕えた者達2

 王に仕えた者達2


「普通は繁殖行為により生まれるよ ブヒッ」

「普通ということは、そうでない場合もあるということか?」

「そうだ。ブヒッ どんな原理かは知らないけど、土から生まれると聞いた事がある ブヒッ」


 ルシウスは自分の「スケレトン創造」の能力を思い出す。土でスケレトンを創造するというその能力により生み出されるスケレトンもまた、土より生まれたといえるのだろうか?

 久々に「スケレトン創造」スキルを使い一体のスケレトンを創造する。地面の土が人間の骨のような形となり、やがて骨と変わる。


「それって、こんな感じなのか?」


 魔法の袋が存在していなかったら、疲れを感じないスケレトンは荷物持ちとしてはこれ以上なく優秀なのであろう。しかし、荷物持ちは魔法の袋というスケレトンよりもっと便利な魔法の道具が存在するため必然的に使う必要性は感じられない。

 それでも「スケレトン創造」は何かの役に立つとは思うが、オウガキングとの戦いでその非力さゆえ、大してすごい能力とは思っていなかった。ルシウスにとってはその程の認識でしかない能力に、ビーフは丸でお化けでも見たような表情を浮かべていた。


「あんた…一体何者だ!ブヒッ」

「そういや言ってなかったな。私はスケレトンだ」

「そうじゃない!ブヒッ」

「急にどうしたのだ?」


 明らかにスケレトンを創造する前とは違うビーフの様子にルシウスは戸惑う。


「土から生き物を生み出すのは神の領域だぞ!ブヒッ」

「何を言っている?スケレトンは元から死んでいるのだ」

「そのスケレトンは飾りじゃなくて動けるのだろ?ブヒッ」


 血相を変えてスケレトンを指差しながら話すビーフの事がルシウスは理解出来なかったが、そのビーフも事の重大性に気付いてないようなルシウスが理解出来なかった。


「いいか?ブヒッ よく聞けよ ブヒッ」

「一体なんだというのだ」

「確かにアンデットは元から死んでいるが、動けるという点に置いては生物やモンスターと言えるのだ ブヒッ」

「言われてみれば…普通は死んだら動けないしな…」

「その通りだ。ブヒッ 動けるものを創造するというのはとんでもない事なんだよ ブヒッ」


 ビーフの話から察するに、無から有を生み出す「スケレトン創造」はルシウスが思うより高度なスキルなのだろう。単純にスケレトンを作れる能力としか思っていなかったルシウスはビーフの話で益々疑問が深まる。


(アンデットに繁殖は不可能だ。それなら、アンデットは俺と同じ能力を持つ者が創造したというのか?俺が知っているアンデットの設定は、死者が多い地域でなんらかの理由で湧くというものだがな…)


 一応スケレトンをずっと出して置くわけにもいかないと思い、試した事がなかったスケレトンを土に戻すイメージを浮かべてみる。すると、スケレトンが乾いた砂のようになり崩れて消える。


「土じゃなくて砂になるのか…」

「今何を…したのだ?ブヒッ 」

「スケレトンを土に戻そうとしたのだが、砂になってしまったようだ」

「考えるだけで生み出したものを殺せるというのか?ブヒッ」


 ルシウスとビーフは同じ事柄を見たはずだが、スケレトンを元の姿である土に戻そうとしただけのルシウスと一つの歪な生命体を殺したと感じるビーフとでは全く似ても似つかないものだった。


「殺す…か。そんな風に考えたことはなかったな…」

「記憶を失う前のあんたが何者だったのかは知らないが、きっと神かなんかじゃないのか?ブヒッ」

「はぁ?私は神などではない。確証はないが一応スケレトンキングだ」


 オウガキングから聞いた話では、本物のスケレトンキングは少なくとも四メートルは軽く超える巨大な骸骨とのことだ。百八十センチ程しかないルシウスはあの時以来、自分は何者なのかわからなくなっていた。


「そんなに上位の存在ならあの能力も頷けるな…ブヒッ」

「上位…そういえば!進化というものを聞いた事がある。知っているか?」

「オレが知っているのはモンスターしか進化出来ないということと、選ばれたほんの一握りしか進化出来ないということだ ブヒッ」

「なるほど…ここも格差社会が酷いものだな。いや…むしろこっちの方が酷いのか?」


 ルシウスはなんだか攻略サイトも攻略本もないRPGゲームをプレイしている気分だった。NPCに話をかけ情報を聞き出す、知らない情報はまた違うNPCに聞き出す。そして、一つ一つ知らなかったものが知っているものと変わるその瞬間、ハードゲーマーとしてのルシウスの知識欲は満たされる。

 スイッチが入ったかのように閃き止まらない感じがした。今度は逆に口に出さずスケレトンを創造してみると、見事成功した。出来ないと思っていた訳ではないか、出来るとわかるとそれまた違う感情がルシウスの中に生まれる。

 その勢いのまま魔法も試してみたが、それは失敗だった。思考を変え、創造の数を増やしてみることにする。頭一杯想像出来るだけのスケレトンを思い浮かべる。最低でも百体は想像したのだが、二十体程しか創造出来なかった。もう一度チャレンジしてはみたものの、既にいるスケレトン以上には増えないようだった。


「補助スキル:ボーンクリチャー」


(新しいスキルか!ボーンは骨で…クリチャーは生物っぽい感じだから…)


「スケレトン創造」の補助スキルと思われるそのスキル試すべく、スケレトンを解除しハウンドドックの姿を思い浮かべる。結果、骨しかない大型犬を創造することに成功した。それならと、出会ったことのあるモンスターを全て試してみたところ、オウガキングを除いては文句なく皮と肉が取れた骨型を量産することが出来た。


「先から何をしているんだ…?ブヒッ」

「ああ、これか?ちょっと面白くなって遊んでいたのだ」

「とんでもない能力で遊ぶとか呆れてしまうな…ブヒッ 魔力の方は大丈夫なのか?ブヒッ」

「魔力?」


 魔力とはこの世界の者なら誰しもが持っているが、それを使いこなすには少なからずの才能が必要となる。そして、スキルや魔法といった能力を使用するときはその能力に見合う量の魔力が消耗される。過度な魔力の消耗は下手すれば命を落とす可能性もある。

 その魔力の消耗は肉体の疲労感とは別の形で現れるため、自分がどれ程魔力が消耗しているのか大体は把握出来るのだ。ルシウスは創造スキルをかなり使用したが、魔力らしきものが減っている感覚も疲れも感じられなかった。


(創造スキルは、土さえあれば無限に使えるのか?もしそうだとするなら一番負担がかからないスキルということだな。しかし…ドラゴンとかも創造出来たら良かったのだが、流石に俺より強いものは創造出来ないんだな…)


 色々とゲームなどで知っていたモンスターも試して見たが、創造スキルが発動することはなかった。恐らく、ルシウスが倒した自分よりある程度弱いモンスターではないといけないのだろう。

 それでも今日の収穫物は大きかった。なんでも骨型になってしまうが「スケレトン創造」の補助スキルにより単調だったスキルが無限の可能性を秘めたスキルに変貌したからだ。それでも今はまだ他のスキルや魔法に比べれば性能はやや劣る。幸い、スケレトンよりは強そうなオウガを創造出来るだけ良かったと言えるだろう。


 ヨミナン魔国に向け出発する前に、ビーフに宿泊代として金貨二枚を渡す。高級ホテル並の金額だが、ビーフのおかげでこの世界について新たに色々わかったことだし、補助スキルも覚えることが出来た。そう考えれば激安と言える。


「ビーフ、世話になったな。これはお礼だ」

「金は要らないよ。ブヒッ またいつでも来いよ ブヒッ」


 ビーフに別れを告げ歩くこと十時間。ぬかるんだ森の道が思ったよりノエルの体力を奪っていたようだ。森を通らず遠回りしていくと交易路として使われる道もあるそうだが、ここを突っ切ると二倍は時間の節約が出来る。


「移動手段があったらよいのだがな…」

「すみません…私のせいで…」

「待てよ?」


 モンスターしか試してなかったことに気づき、馬の創造を試みる。ファンタジー映画に出るダークナイトが乗っていそうな立派な骨の馬が出来上がった。予想外だったのが手綱を除いては骨で出来ているが、鞍や鐙といった馬具がオマケに付いていたことだ。馬にまたがり走らせると、ぬかるんだ地形など物ともせず力強く走り出す。かなりスピードが出ているが、馬初心者の三人でも乗りこなせる程安定感があった。


「こんなのがあるなら、もっと早く言ってくれれば良かったじゃないですか…」

「思いつかなかったのだ。苦労をさせてしまったな」


 ブツブツと文句を垂れるノエルをあやし、到着したヨミナン魔国の跡地と思われる場所で休憩を取る。街の家は廃墟になっていて、ルシウスはヨミナン魔国は戦争で滅んだと思った。


「困ったな…食料は問題ないが、水がない」

「そうですね…この国で買えばいいかなと思って全部飲んじゃいました…」

「まさか、国が滅んでいたとはな」


 水を作れる魔法はないものかと考えるルシウスは違う魔法のイメージを構築し、新たな魔法の自作を試みるがゴブリン戦の時以来、全部失敗続きだった。断念しかけたその時、いいアイデアを思いつく。「氷の槍」の魔法を発動し、ノエルに渡す。渡しても消えないその氷の塊をノエルは相当喉が渇いていたのか、ガリガリと槍を歯で削り喉を潤す。


(シュールな光景だなおい…攻撃魔法で水分摂取か…それなら「炎の槍」で肉も焼けそうだな」


 予定が大幅に狂ってしまったが、地図を開いて近い街を探してみる。一番近い街は前にルシウス達が寄ったミレス六番街だった。逆戻りではあるがあの街も結構活気があるし、まだ見て回ってない所も多く悪くはない。地図を見て今、初めて気づいたがミレス六番街はブリュレ王国が治める領土の一つに過ぎなかった。(国名は読めない)真ん中の本土を囲むように七つの街があった。


(あんな街が後六つもあるのか…大国だったんだな。それなら真ん中の方に足を運んでみるか」


「ここで休憩をとって、前の街に戻るぞ」

「へへ、馬もあるし楽な旅になりそうですね」

「主人様に感謝するんだな」


 今度からは骨の馬があるため、より楽な旅となるだろう。無限の体力を誇るアンデットであるせいかスピードも落ちず、本物の馬より確実に優秀だろう。地面に寝転がり空を見上げながら、暮れていく夕日にセンチメンタルな気分に浸っていると、物凄い数の空飛ぶ何かが視界に入る。その何かは段々ルシウス達に近づき、周りを囲む。


「な、何ですか?この変な人達は!」

「私も知らないが、親切な者達には見えないな。それに数が多過ぎる…ベルゴ!ノエルを守れ!」

「畏まりました!」


 ルシウスは練習した通り、骨系オウガを最大の十五体創造する。二メートルの骨型オウガは手に木の棍棒の代わりに太く大きな骨を持っている。その骨系オウガは創造出来る他のものより多少強いせいか、十五体が限界だった。










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