王に仕えた者達編

第20話王に仕えた者達1

 王に仕えた者達1


「ベルゴよ…私はどうすれば良いと思う?」

「はい。依頼のターゲットであるオークを殺せば良いのではないかと存じます」

「ノエルも同じ考えなのか?」

「私は…少し…考え直してもいいのではないかと思います」


 ノエルはりんごのような木ノ実を見つめながらルシウスの問いに答える。ルシウスは今戸惑っているのだ。オークの生息地に向け出発したが、日が暮れても到着することは出来なかった。野宿と思った矢先、木で建てられた大きな家を見つけ一晩泊めてもらおうと近づくと、家の近くで草を食べていた親切な豚さんが木箱に入ってたりんごを三つ分けてくれたのだ。


「なあ…先の豚はオークじゃないのか?」

「そうだと思いますけど、依頼書で見た絵と全然違いますね」


 依頼書に描いてあった似顔絵のようなものでは、豚は豚でも凶暴そうで同族まで喰いかねない印象を受けたが、先の豚はピュアな子豚の顔をしていた。


「なあ…先の豚は農民みたいな服装をしてなかったか?」

「はい。確かにしておりました」

「可愛かったですねー!」

「いや…今はそれ関係なくないか?」


 悩んでも仕方ないと思い、ルシウスは家の扉をノックする。すると、先とは違う子豚の顔をしたオークがルシウス達を出迎える。


「夜遅くに失礼する」

「ブヒッ?」

「すまないが、一晩だけ泊めてもらえないだろうか?」

「ブヒッ」

「うむ…実に言いづらい事だが…何を言っているのか理解出来ない…」


 豚の鳴き声にしか聞こえない言葉に困っていると、背後から理解出来る言葉で誰かが話しかけてきた。


「何か用か?ブヒッ」

「旅の者だが、こちらで一泊泊めてはもらえないかと思ってな」

「ルシウス様!喋る豚さんです!可愛い」

「おい…」

「失礼な!ブヒッ オレはこう見えても十一歳だ!ブヒッ」


(なんだか突っ込みづらいな…そう言われても十一歳にしか見えないよ…)


 十一歳ならオーク族内ではいい大人なのだろう。しかし、成人した人間やエルフの目から見ると百四十センチしかないオークが大人ぶってる子豚にしか見えない。


「すみません…」

「私の仲間が失礼した。許してくれ」

「貴様!主人様が豚如きにその高貴な頭を下げさせるなど…そこへ直れ!叩き斬ってやる!」

「これまた大変失礼した。許してもらえると有り難い」

「ベルゴさん…そこへ直ってください。叩き斬って差し上げます」

「自分とした事が…せめてもの情けだ、一撃で頼む」

「おい…」

「愉快な冒険者達だな ブヒッ」


 正座するベルゴを止め、喋る豚の案内に従い家の中に入る。森での鍛錬以来、ノエルがベルゴに冗談を言える程仲が良くなった気がする。ベルゴは本気ではないかと思うが、それを冗談で返せるなら関係が大きく発展したと言えるだろう。


「なんだかよう…良い家だな」


 家の真ん中にはテーブルが並んで、その両側には柵で区切られて個人スペースがあった。そこにそれぞれ寛いでいた五十匹程の豚達を見たルシウスはつい、養豚場のようだと口を滑らしそうになったが、なんとか言い直す事が出来た。勧められた椅子が少々小さい気もするが、それでも一応座る。


「だろ?ブヒッ ここの森から木を運び、オレ達が加工して作った家だ ブヒッ」

「それに室内も明るい。これは魔法か?」

「違いますよーこれは魔導ランタンです」

「うむ…なら魔導石を燃料に使っているのか?」

「そうだ。ブヒッ 木ノ実や作物と魔導石を交換している ブヒッ」

「モンスターなのにか?誰と交換しているのだ?」

「オレを育ててくれた人間にだ ブヒッ」


 モンスターと人間の共存の可能性を垣間見えた気がしたが、骸骨と可愛らしい子豚とのあまりにも高い落差にルシウスはすぐに断念せざるを得なかった。


「それで人間の言葉が喋れたのか。で、今はその人間と一緒に暮らしてないのか?」

「人が少ない村落だったが、オレのことが皆んなにバレてしまってな ブヒッ」

「追い出されたということか?」

「そういうことだ。ブヒッ それにしても、あんたからは生きている者の匂いがしないな ブヒッ」

「ほう…匂いでわかるのか?まぁ相手もモンスターだし、隠す必要もないだろ。私とこの者はアンデットだ」

「アンデット?ブヒッ アンデットの冒険者は聞いたことがないな ブヒッ」

「私は記憶を失ったのでな。昔の自分を捨て、この二人と旅をしている」

「アンデットは人間と一緒に暮らせるのか?ブヒッ」

「まさか。姿を隠して騙し騙しやっているだけだ」


 ノエルが以前、ギルド会館で聞いて気になっていたことをルシウスに質問する。


「ルシウス様、記憶を失ったってどういうことですか?」

「主人様にぶ…」

「ベルゴさんはちょっと黙っててください!」

「おい…」


 大人しく黙るベルゴをみたルシウスは、ノエルとベルゴの序列が入れ替わりノエルが上位に立ってしまった瞬間を目撃した気がした。


「私にもわからない。だが、そのおかげでノエルとも出会い、三人で楽しく旅が出来ているのではないか?」

「それも…そうですね。ルシウス様と出会えなかったら、私は未だに…」

「すまない。嫌なことを思い出させてしまったようだな」

「大丈夫です。嫌な過去があったからこそ、今の幸せな私がいるんですから!」


 ルシウス安藤には毎日目的や目標があった。今日はこのアイテムを拾うまで寝ないとか、他のサブキャラのレベルアップを達成するまで飯抜きとか、一日二十四時間が足りないと感じる程切羽詰まったように生きていた。しかし、今は目的もなくただそのとき思うがままに行動するのも、予測がつかないことばかりで新鮮な毎日だ。変化しつつある、ベルゴとノエルを見ているととても楽しい。


「なんだ?ブヒッ できてるのか?ブヒッ」

「な…何を言っている。私はアンデットだ」

「そうですよ…私とルシウス様は"ただ"の仲間です」


 告ってもいないのに振られたような気がして、ルシウスは生まれ変わっても変わらぬ異性からの扱いにちょっと少しめっちゃかなり物凄くショックを受けた。


「そういうことにしておこ ブヒッ」

「んん…そういえば、自己紹介がまだだったな。私はルシウスという」

「ノエルです!」

「最後に、この者はベルゴだ」

「オレはビーフだ ブヒッ」


(なぜ牛肉なんだ?ポークと間違えたのか?)


「ああ、宜しく頼むポー…ビーフ」

「それで、この辺りに何か用があるのか?ブヒッ」

「実はそれで悩んでいたのだ」

「どういう意味だ?ブヒッ」

「私達はオークを倒しに来たんですよ」

「だが、依頼書の似顔絵と違い過ぎてな…」

「それは多分、肉を食うオークのことだ ブヒッ」


 ビーフの話だと草や木ノ実しか食べないオークと草と木ノ実プラス肉を食うオークに分けられるそうだ。元々オークは人も襲わないし、肉も食べない温厚なモンスターらしい。


「では、なぜ肉を食うオークがいる?」

「それは力を欲するオークのせいだ ブヒッ」

「オークが肉を食べると力が開花したりするのか?」

「そんな感じだ。ブヒッ 肉を食べたオークは凶暴化し、顔も恐ろしく変わる ブヒッ」

「そういうことですか…よかったー豚さん達と戦わなくて」

「変な冒険者達だな ブヒッ」

「何がですか?」

「普通冒険者はモンスターを問答無用で殺すものではないか?ブヒッ」

「私達がアンデットとエルフという組み合わせである時点で、既に普通ではない」

「いや、そうじゃなくてルシウス様が優しいからですよ」

「いやいや、そんな事はない。私が優しく接したいと思うのはベルゴとノエルしかいない。他は敵対ししない限り争うつもりがないだけだ」

「主人様、どう致しますか?この豚を自分がすぐにでも始末致します」

「ちょっと抑えんか。依頼のターゲットとは違うのだぞ」

「申し訳ございません…」

「よい。折角の遠出だ、オーク退治は諦めて別の所にも足を運んでみるとしよう」


 ルシウスはギルド会館で買った地図をテーブルに広げる。


「ここから一番近い街は…ヨミナン魔国か。ビーフ、ここにもギルド会館はあるのか?」

「オレは人間社会のことはよくわからない ブヒッ」

「そうか…ここはどんな所か知っているか?」

「悪いが、それもわからない ブヒッ」

「直接行ってみるしかないな」

「私はミレス六番街以外の街や国に行ったことがないから少しワクワクします!」

「私も行ったことがない。そこにギルド会館があるなら、他の依頼を受けるとしよう」

「冒険者達、食事はいいのか?ブヒッ」

「申し出は有難いが、大丈夫だ。買い込んで置いた干し肉を持っている」

「肉…ブヒッ」

「心配しないでくれ、食事は外で食べる事にする。それでだ、これが本題だが一泊泊めてはもらえぬか?」

「構わないが、余っているスペースが一つもないぞ?ブヒッ」

「ノエルだけ室内で寝かせてもらえればそれで充分だ。外は虫が多くてな」


 外で食事を済ませ、今日はもう就寝することにする。寝床はオークの人数分しかなかったが、警備係の者は夜寝ないということで使わせてもらう事にした。身長百七十三センチ程の長身であるノエルに、オークの寝床は足がはみ出て寝心地がそこまで良くはなかったが我慢して寝る事にする。


 そして、もしも発情したオークに襲われるという可能性もゼロではないと思い、ベルゴをノエルの横で守らせルシウスは家を出る。ビーフと十体のオークは今日夜の警備係らしく、鍬や鎌といった農機具を手に持って家の外を見張る。


「毎日交代でやっているのか?」

「そうだ。ブヒッ 他のモンスターが襲って来るかもしれないからな ブヒッ」

「質問があるのだが、この家のオークはオスしかいないのか?」


 家の中にいたオーク達の中にメスだと思われるオークはいなかった。ただ単に豚のオスメスを肉眼で見分けられないだけかも知れないが、気になっていのだ。


「オスしかいないよ。ブヒッ メスは争いの種になるからな ブヒッ」

「なんだ…その…オークも性的な…その…行為をするということか…な?」

「なななな何を聞くんだよ!ブヒッ」

「いや…先言った通り私は記憶を失ったのでな、知らないことばかりで好奇心が湧いただけだ」

「するけど…ブヒッ メスは最近肉を食うオーク達が集めていると聞いた ブヒッ」

「繁殖のためにするのか?快楽のため?オークはオーク同士としかその…しないのか?」

「何でそんな事しか聞かないのだ!ブヒッ」


(俺だって豚の夜の営みなど想像したくないよ)


「すまない。モンスターはどうやって生まれるのか気になってな」


 ゲームだとモンスターは生まれるというよりポップするイメージだったから、そこら辺がルシウスの一番の疑問点でもある。この世界ではモンスターと呼ばれる心臓の変わるに魔導石がその役割をしている生物は、自然に湧くのか、それとも父と母なる存在により生まれるのか確かめる必要があったのだ。






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