第19話 魔王の侵略8
魔王の侵略8
「俺の役目は終わったか。メレンシア様の元に向かうぞ」
ミノタウロス達はミノタウルスを持ち上げ、その翼を羽ばたき空を飛んでいく。
「逃げんのかよ!」
「意気がるんじゃねーよ。遊びは終わりだ」
「どういう意味だ?」
冒険者の質問に答えることなく、ミノタウルスの姿が段々遠退いていく。これで一安心と思ったら女の甲高い悲鳴聞こえてたきた。
「何これ…誰か助けてください!」
ローマンとブセスに反論を述べていた、下級の女冒険者だった。最初は片腕だけ捕まったがいつの間にか足も捕まれ、人間が伸ばせる筋肉の可動範囲超え嫌の音と共に胴体から捥ぎ取られる。
「なんなんだよ!この手はよ!」
「カフッ!だ…だれか…たす」
自分から攻撃しよにも触れることも出来ない黒い靄の手に冒険者達は必死に抵抗を試みる。左腕と右足を失って助けを求めようとしたが、冒険者達は自分達のことだけで頭が一杯のように見えた。
「あなた…達もこ…んな…気持ちだったの…?」
女冒険者はローマンとブセスのことを思い出し、目からは涙が流れる。普通は自分の命が一番大事だ。それは間違ったことではないのだろう。だから、自分だけでも安全でいられればそれでいいと思った。間違った選択ではなかったはずのその結果も、安全だと思われたギルド会館はミノタウルスと謎の黒い手に襲われ、負傷した自分がどれだけ切実に助けを求めても、自分がしたことと同じく誰も救いの手を伸ばしてはくれないという現実だけが突きつけられた。
黒い靄の手が女冒険者の体を掴み、握りつぶす。一瞬にして体内からは物凄い圧が、体に比べれば無事といえる頭の方に向かう。圧の放出口となった頭は、元がなんだったのかわからない程にただの肉片と化す。
「もう…お終いだ…」
「一体何の魔法だこれは!」
「メレンシアはここまでの化け物ということか…」
物を投げても通り過ぎ襲って来る黒い靄の手に、冒険者達は為す術もなく蹂躙され全滅した。
「メレンシア様。北門に集まっていた住人の殲滅を確認致しました」
「そう…残った奴隷と兵をつれ撤収しなさい。妾は先に戻るぞぇ」
「畏まりました」
生者がいなくなり「ヘルゲート」の扉が閉まる。メレンシアは九割程溜まった「魂の鳥籠」を解除し、ウルベンと共に先に魔国に戻ることにした。ヨミナン魔国の悪魔兵の死者はゼロ、亜人兵の生き残りは一万弱でその中に負傷者も多数見られる。
この虐殺劇の犠牲となったブリュレ王国の国民は、兵士を含め十七万人を超えていた。敵襲の鐘が鳴ってから、ミレス六番街の外に出られた者は一人もいない。雄一昨日の内に適当な言い訳を見繕い街を抜け出した、貴族階級の者しかいない。
ブリュレ王国は街を放棄したということを内外的に公表する訳にはいかないため、後日意味のない援軍を派遣することにし、事態の揉み消しを図ることとする。
勇敢に戦ったミレス六番街の駐屯兵は劣勢の中、街を守るため努力し散っていった英雄達ではなく、敵の襲撃に負けた敗北兵という汚名を被り、ブリュレ王国の歴史に刻まれることになった。真相を知る者達は口を固く閉じ、永遠に真実が明るみに出ることはなかった。
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