第15話 魔王の侵略4
魔王の侵略4
大きな円卓に偉そうな人間達が集まっていた。三十人程いるが皆表情が暗く、なぜこうなったのか訳がわからないという顔をしている。
「どういうことだ?」
一人の男が円卓に拳を振り下ろし、苛立っていた。
「こっちが聞きたいものだ」
「誰か心当たりがある者はないのかね?」
「あるわけないだろ!」
「我が国がヨミナン魔国の指揮官を討った…か」
「ここ八十年、戦争もなく平和に暮らしていた我々がそんなことをするはずないであろう」
「これは完全に言いがかりですな」
「そうだ!宣戦布告の書状がたった一行というのはふざけているのか!」
「確かに。内容といっても指揮官が討たれたから宣戦布告する…筋が通らないな」
「話し合いの場を設けるというのはどうだ?」
「こうなってしまってはこの論議に意味はあるまい」
「シスタイン卿!貴殿はこの馬鹿馬鹿しい話に納得していると申すか!」
シスタインは落ち着いた様子で現状を皆に淡々と説明する。
「そうではない。私も納得しているわけではないが、この後のことを考えるべきだと言っているのだ」
「どういうことですかな?」
「ヨミナン魔国は我がブリュレ王国を次の獲物と見なしたわけだ。それに内容も滅茶苦茶だが宣戦布告状も送ってきた。攻めて来るのは時間の問題だろう」
「ならは、どうしろというのかね?」
「簡単だ、迎え撃つのだ。ヨミナン魔国の兵力は数が多くない」
「それこそ無茶だ!ヨミナン魔国の魔王であるメレンシアは、"魂を狩る魔女"という異名を持つ強敵だ。彼女一人で一国の軍事力と同等の力を持っているのだぞ?」
「だが、話し合いに応じるとも思えないのだが?我々に選択肢は二つしかない。街を差し出すか、ヨミナン魔国と全面戦争を行うどちらかのな」
黙って静かに貴族達の話に耳を傾けていた、ブリュレ王国の国王ライオネル・ルイ・クリストーファ五世は決断を皆に伝える。
「ミレス六番街をヨミナン魔国に差し出すこととする」
貴族達は激しく反発した。その中でもミレス六番街に領地を持つ貴族の反発はより激しいものだった。
「国王にあるまじき行為ですぞ!」
「何の抵抗せず、領地を差し出すなど戦う前から敗北を認めているのと同じではないか!」
「なら、他に妙案があるとでもいうのか?」
「し…しかし、この方法は間違っていることはだけは確かですぞ!」
「陛下!その方法で敵が満足するとは思えませぬ」
「宣戦布告状に記されていたのは、王国そのものではなく街一つだ。そこの民と兵士は心が痛むが見捨てることにする」
「なんという…頭がいかれておるとしか言えぬ方法ですぞ!」
代案を出すこともなくただ感情の思うがままに騒ぎ立てるだけの貴族達とは違い、ライオネルは決断を下すしかないのだ。
「黙らんか!魔国の狙いが街一つだけと思っておるのか!我々が全力で抵抗すれば、それを新たな大義名分と掲げ本格的な侵攻を始めるだろう。そうなれば街一つでは済まなくなるんだぞ!」
「それならば、尚更引く訳にはいかないのではないですかな?」
「では、代案を言ってみよ」
貴族達は黙り込み議題の書類を見つめたり視線を逸らし、ライオネルの問に答えることが出来る者は誰もいなかった。
「話はこれで終わりだ。これ以上口を開く者は国家反逆罪で極刑に処す」
ライオネルは席を立ち会議室を後にすると、ライオネルに続き国王親衛騎士団がその後に続く。一定の距離毎に警備兵が立っている廊下を歩くライオネルに、後ろにいた騎士が話しかけた。
「陛下…本当にそれでよろしいのですか?」
「貴様まで私に不服の意を申すのか」
「せめて自分だけでも行かせてください!」
「ならん!このブリュレ王国の最高戦力であるお前を行かせる訳にはいかんのだ」
「国民が殺されることを黙って見過ごせとおっしゃるのですか!」
「仕方ない、街一つなら被害を最小限に抑えられる。もし、戦い勝てたとしても被害が大きく復興には数十年単位の時間がかかるだろう。それに負けたらこの国は終わりなのだ」
「なぜ陛下はそこまでヨミナン魔国との戦いを避けるのですか?」
「人外の者は人間の想像を超える力を持つものが多い。それが幾つもの国を滅ぼした者なら尚更言うまでもないだろう」
「確かにそうかもしれないですが、戦いもせず国民を見捨てるのは納得出来ません!」
「耐えるのだ。平和に慣れ、我が国は軍事力にあまり力を注いでいない。今は耐え凌ぎ、次このようなことがないよう力をつけるのだ」
「自分は行きます。後でどんな罰だろうと甘んじて受け入れます」
「ならん!皆の者!この者を捕らえ地下牢獄に入れて置け。逃げないよう監視も厳重にせよ」
国王の命令に他の騎士達も戸惑いながらも、国の最高権力者の言葉に逆らうことは出来なかった。武器を取り上げられ、拘束されてもライオネルと話を続けるため抵抗したが、大勢の兵士に引きずられて行く。
「陛下!陛下!」
「許せ…リカルド。お前を失う訳にはいかないのだ…」
遠くから響く「陛下」と叫ぶリカルドの声に、ライオネルは小さく呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
宣戦布告から二日後の夜、ハウンドドックの退治からルシウス達が戻って来た。森で一泊し、ハウンドドックやオランウータンのような猿型モンスターと戦いながらノエルの鍛錬をしていたのだ。結果から言うと大成功という感じだ。剣の上達も思ったより早く、風の魔法に適性があるようで「ウィンド・カット」を覚える事が出来た。
「無事に戻れてよかったー」
服が泥だらけになり、クタクタになったノエルが安堵のため息をもらした。
「上出来だ。剣の腕だけなら私より上かもな」
「もう…からかわないでください!これでも大変だったんですよ」
ルシウス的には事実を言っただけだが、ノエルはからかっていると思い拗ねたような態度を取る。
「別にからかってなどいない。ベルゴはノエルの成長をどう思うのだ?」
「はい。森に入った時と比べれば目覚ましい成長だと思います」
「ベルゴさんが私を褒めてくれるなんて…初めてじゃないですか?」
「言われて見ればそうだな。ベルゴもノエルを認めたということではないか?」
「貴様!自分を愚弄するのか!」
「すみません…ただ嬉しかっただけです…」
ルシウスはベルゴにその堅苦しい性格をなんとかして欲しい気もするが、ノエルもベルゴのあの態度にすっかり慣れたようでチームという感じがして嬉しく思っていた。
「さて、ギルド会館に到着したことだし中に入るとしよう」
ギルド会館の中は相変わらず活気があり、ワクワクしてくるのを感じる。ルシウスはカードを集め、昨日とは違う若い受付嬢に集めたカードを見せた。
「すごいですね!初依頼で百体以上倒したんですか?」
「仲間の鍛錬を兼ねているのでね」
「なるほどーそうなんですか?この依頼で昇級条件を満たしたので、カードの更新を行なってください」
実際、倒したハウンドドックの九割はノエルの手柄なのだ。受付嬢から受け取った報酬からすると決まった数以上を倒しても報酬は増えないようだった。
ハウンドドックの魔導石も持ち帰ろうかと迷ったが、量も多いし金になりそうな気はしなかったので捨てることにした。カード発行と同じカウンターで更新を行うようで、向かうと昨日と同じ受付嬢がルシウス達を迎えてくれた。
「一日で昇級とはお強いですね!」
「そんなことはない。皆頑張っただけなのさ」
「冒険者は威張ってナンボなんですよ?では、カードをお預かりしますね」
この普通の会話がルシウスの心を熱くさせる。当たり障りのない会話だがこういう些細なことが非現実感に現実味を帯びせるという訳だ。受付嬢との楽しい会話を終え、ルシウスは再発行された緑のカードを持って下級冒険者の掲示板に向かう。
「ノエルよ、どうする?今度は下級にチャレンジして見るか?」
「ん…自信はないけどやってみます!」
「ベルゴ、モンスター退治の依頼を教えてくれ」
「畏まりました」
ベルゴから教えてもらった中ではオークが一番相手しやすそうだった。オークは人間と似たような動きをするし、ステップアップの敵として相応しい相手と思い依頼書をカウンターに持っていく。受付嬢にハンコを押してもらい、銀貨三枚で情報屋から地図と情報を買いギルド会館を出る。
「ノエル、これを受け取れ」
「え?なんでですか?私は大丈夫です」
「正当な報酬だ。それにお金はあって困るものではない」
ルシウスがハウンドドック退治の報酬金を渡すと驚いたようだが、なんとか受け取ったもらえた。オーク退治の依頼には明日出発することとし、今日は昨日泊まった宿で一泊することにする。
お風呂に入り心と体をリフレッシュし、夜宿で洗濯に預けた服に着替えたノエルとオーク退治に向け準備を整える。食料を入れる用途で使う五十キロの魔法の袋を金貨十枚で購入し、保存が効く干し肉や飲み物を最低三日は持つほど買い込み袋に入れる。
「すみません…私が昨日の報酬金で払います…」
「遠慮するな。お前の食事代くらい主人である私が持つとしよう」
「あ…私もアンデットなら良かったな…」
ルシウスは一瞬自分の耳を疑った。
「ノエル…そんなことは二度というな」
「でも…私のせいで夜は休むことになるし、それに食事代だって…」
「気にすることはない。今が丁度いいのだ。金だってまだ沢山残っている」
「ルシウス様がそう言ってもくださるのはとても嬉しいです。私はルシウス様とベルゴさんと一緒に旅するのが楽しいです…見たことのない物を見て、戦い方や魔法も使えるようになりました…それでもまだ全然足りない…足手まといになりたくないです!」
ノエルとの過ごした時間は短いが、色んなことが凝縮されている感じもする。そんな短い時間にノエルの中の何かを変えてしまうほどルシウスとベルゴの影響は大きかったのだろうか?アンデットの体は確かに旅に向きの体でかなり便利ではあるが、どんなものにも長所があれば短所もある。それに、ノエルをアンデットにするとしてもその方法をルシウスは知らない。
「ノエルよ、焦るな。私とベルゴには時間が無限にある。もし、お前をアンデットにする方法を見つけたとき、そのときも今の気持ちと変わらぬのなら、それも良いだろう」
「本当ですか?約束ですよ?」
「約束しよう。しかし、今はお前の知る世界が狭すぎてそう考えるという可能性もある。問題を一つ一つ解決して行くとしよう」
「わかりました…でも!約束ですからね!」
しょんぼりしていたノエルがルシウスとの約束でまたイキイキしてきたように見えた。まさか、ノエルがそのようなことを考えていたとは想定外だったのだ。エルフの寿命も長い。ルシウスは今この段階で考える必要はないと頭の隅に入れて置くだけとする。準備も整い、街からかなり離れているオークの生息地に向けルシウス達は歩みを進める。
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