第10話 スケレトンキング3

 スケレトンキング3


 オウガの血を浴び顔も鎧を真っ赤に染まり、血生臭さがないはずの鼻腔を刺激する。それでも初めての範囲系のスキルにルシウスは喜びを感じた。「真空斬」の範囲は四方五メートル程のようだが、威力は申し分ない。スピア系の魔法は敵が重なっていれば多数を一度にやっつけられるけど、範囲攻撃とは呼べないものだ。それに、スキルと魔法の一番大きな違いとはスキルは決まった行動を意思と関係なく行うが、魔法は自分の意思で操れるということだ。


 まだスキルが「真空斬」しかないので断定はできない。もしスキルがルシウスの思う通りのものなら、ある意味では助かると思っている。剣を持ってみてわかったことだが、剣をどう振り回せばいいかわからない。スキルに連撃のようなコンボ技があるのなら、剣を使えないルシウスでもそれっぽく見せることができるというものだ。


(使い勝手はかなりいいし、何よりかっこうぃー!けど、仲間が触れるとどうなるんだ?ゲームのように味方には攻撃判定は生じないのか?仕方ない…ベルゴ達が近くにいるときは、「真空斬」は封印だ)


 もしも「真空斬」にベルゴやノエルが巻き込まれたりでもしたら、笑い事ではすまない。それに、誰がオウガを使役しているのかも気になる。オウガの中でも強い個体が使役しているのかもと思ったが、知能が低過ぎるオウガに警備をさせたりそれなりの命令をくだすのは無理だろう。


(直接確かめるしかない。強敵かもしれないし、油断は禁物だな)


 ルシウスは気をより引き締め、ベルゴ達を呼び戻す。


「素晴らしい剣技でございます!主人様!」

「す…すごいです!私もあんなの初めて見ました」


 離れていた場所から見ていたベルゴとノエルが、ルシウスの新たなスキルに賞賛する言葉を送る。それに対し「そう~?まぁ先覚えたばかりだけどね~」とは口が裂けても言えない。オウガの攻撃を防御し、剣の扱いに慣れているかのように見せることもできたし、新たなスキルでオウガも蹂躙できた。これでゴブリンにより砕け散ったルシウスの威厳も完璧に取り戻せただろう。


「うむ。オウガとの会話で気づいたのだが、オウガを使役している者がいるようだ。油断せずいこう」


 アニメで聞いて使って見たかったセリフを、かっこよく決められた気がする。ルシウスはノエルの警護にスケレトン五体を追加して十体で警護に当たらせる。そしてオウガの本拠地に向け再び歩き出す。山脈に近づくと木で囲まれてはいるが、開けた場所に廃鉱山のような洞窟の入り口が見えた。入り口の両側には二体のオウガが門番をしていた。


 近づくと集まってきた二匹のオウガは、先のオウガ達と同じ反応をこのオウガ達も見せる。ルシウスは先倒したオウガ達が、特別知能が低いわけではないと思った。今度の二匹をベルゴと戦わせてみることにしてベルゴに命じる。


「ベルゴよ。あの者達を見事倒して見せよ」


 主人から初めて命じられる戦闘命令にベルゴからは従順じゅうじゅんな配下ではなく、戦士としての気迫が感じられた。命に従いベルゴが飛び出し素早くオウガとの距離を縮める。そして、骨の剣を一匹の首元に突き刺し剣を手放したかと思うと持ち方を変え、そのまま下の方に下ろし胴体を切り裂く。


 ベルゴが一匹を襲っている隙を突くかの如く、他の一匹がベルゴ目掛け棍棒を振り下ろすが横に目でもついているかのように盾で防御する。胴体が開き血と内臓がこぼれ落ちるオウガに、まだ刺さっている剣を持ち直し引き抜く。


「アレ…?」


 胴体が切り開かれたオウガは巨体だけあって生命力が強いのか、こぼれ落ち胴体から垂れている内臓を棍棒を手放した手で再び腹の中に何度も押し込むが、内臓が元の位置に戻ることなく生命力が尽き倒れこむ。


 剣を持ち直したベルゴは、盾で防御した棍棒を力強く押し退ける。棍棒を持つオウガの手が、押し退ける力で高く持ち上がりオウガは少しバランスを崩すように見えた。ベルゴはすかさず足を引っ掛けると、オウガが仰向けに倒れる。仰向けに倒れたオウガの頭をベルゴが思い切り踏み潰す。踏み潰されたオウガの頭は、潰れたトマトのようになっていた。いくら生命力が強かろうと生物である以上、頭を失うと生命力など関係ない。


 ルシウスはベルゴのあまりにも素晴らしい戦闘技術に開いた口が塞がらない。ルシウス自身はただ、スキルや魔法を使用しただけに過ぎない。体の能力はすごくても、中身は運動神経ゼロに近いただのおじさんだ。


 二匹のオウガを始末したベルゴがルシウスの前に跪く。


「主人様の御命に従い、あの者達の始末を果たして参りました」

「う…うむ。素晴らしい働きであった」

「お褒めに預かり、光栄至極に存じます!」


 ベルゴの優秀さがより伝わってきた一戦に、ベルゴが敵ではなくて良かったとルシウスは思った。それに仲間であることにこれ以上なく心強くも感じた。


(マジやべーベルゴと戦ったら負けるな俺…)


 もし、ベルゴが敵でスキルや魔法を唱える隙を突かれたら一貫の終わりだと、ルシウスは考えるだけで寒気がしてきた。配下に対しても卑屈なことを考えていたら、外の騒ぎを聞きつけたのか洞窟内からオウガが集まってくるのが見えた。幸いなことに洞窟の入り口はそう広くない。これならスピア系の魔法である程度数を減らせると思い魔法を唱える。


炎の槍フレイム・スピア


 迸るほとばしる炎の槍を、オウガがより重なったときを見計らって力一杯投擲する。ベルゴとの戦いで見た感じだと胴体では一発で仕留められそうになかったため、頭を狙うことに全神経を集中した。前回と同じく物凄いスピードで飛んでいき、次々とオウガの頭を吹き飛ばしながら炎の槍が遠くに消えていく。内部の壁にぶつかったのか轟音が響き渡る。


「誰だ?!俺様の昼寝を邪魔した命知らずは!」


 洞窟内部に、誰かが激怒する声が鳴り響いた。話し方がオウガと全然違うことから恐らくオウガを使役している者なのだろう。ルシウスは身構え敵の襲撃に備える。しばらくすると、洞窟内部にまだ生き残ったオウガ達が誰かに道を空けるかのような行動を取る。そして、そこを誰かが歩いて来るのをルシウスの目が捉える。


「ああ~酷いことしてくれるな…下僕達の頭が旅立っちまたじゃねーか」


 そう言いながら姿を現した男は身長はオウガとあまり変わらず、全身を筋肉の鎧で武装していた。オウガの青み掛かった肌と同じ色をしていて、裸ではなく短パンを履いていた。髪の毛もあり顔立ちもいい、ルシウスが子供の頃から憧れていたた"男"の姿だった。


「スケレトンナイトか…珍しな。そこの鎧を着た赤いスケレトンと女もお前の下僕か?」


 男がベルゴに話しかけながら面倒臭さそうにあくびをする。ベルゴが何か反論しようとするのをルシウスが腕を伸ばし阻止する。


「まずは、お互い自己紹介からするのはどうかね?」

「自己紹介?別にいいけどよ、なんだお前は?」


 男はルシウスのことを、ただの雑魚スケレトンと勘違いしているようで不機嫌そうな表情を浮かべる。


「そうだな…私はルシウス・ヴァーミリアンという者で、スケレトンキングでもある。後ろにいる者は私の配下で 、ベルゴとノエルという」


 ルシウスは一応丁重な感じで自己紹介を行なったが、男の顔を見るとより不機嫌そうな表情を浮かべていた。


「はっ!テメェ如きがスケレトンキングだと?」


 男は笑止千万しょうしせんばんといわんばかりに鼻で笑い飛ばし、話を続ける。


「俺様もオウガウォーリアだった頃一度スケレトンキングに殺されかけたときがあったけど、俺様の二倍ほどデカかったぞ。そんな見え透いた嘘は俺様には通じねぇぜ?」


 ルシウスはその言葉にこの世界での自分のアイデンティティーが、総崩れになるような気がした。確かに、自分がスケレトンキングである確証はどこにもない。ベルゴから聞かされたのをそのまま信じてきたが、もしかすると、ベルゴも入れ替わる前の主人に騙されたというのだろうか。男の言葉にルシウスは言葉を失い、黙り込んでしまった。


「オウガキングに進化した今の俺様なら、スケレトンキング如き打ち殺せるけどな。そうだ、自己紹介がまだだったな。俺様はアックスだ」


 主人が侮辱されていることに我慢の限界がきたのかベルゴがアックスに襲いかかり、骨の剣を振るうがアックスは巨体の重さなど感じさせない軽い動きで剣を避けると、片手を地面につき、逆立ちの体勢から繰り出される強烈な蹴りがベルゴの顔面を直撃する。ベルゴは蹴りで飛ばされ、大きな木に体を強く打ちつけられた。その衝撃で人間の形をしていた骨が半分ほど崩れる。ベルゴが簡単にやられてしまったことに、驚愕を禁じ得ないルシウスはベルゴの方に視線を向けると、頭蓋骨にはヒビが入り右肩や肋骨が崩れ落ちていた。


「や…やめろ…もう…やめてくれ…」


 ルシウスは震える声で小さく呟く。同格かそれ以上と思われる強敵に足が竦んで動けない。


「何言ってるのか、わからねーよ!」


 アックスは地面がめり込む程の力で跳躍し、猛スピードでルシウスの方に飛んで来ては拳でルシウスの顔面を地面に叩きつける。地面に叩きつけられた衝撃で金属プレートの鎧の背中部分が歪むのが感じられる。


「お前はそこで寝とけ。あの女は俺様が美味しく頂いてやる」


 唇を舌で舐めずり回しながらノエルの方に段々近づく。警護に当たらせているスケレトン達がノエルを守ろうとするが、アックスの軽い一撃に生命力を失い土に還る。ノエルは仲間をすべて失って自暴自棄になってしまったのか、その場に座り込む。


「どう料理してやろうかな?まずは目玉を引き抜いて~口から内臓を引きずり出して~腹を開きハラワタを引き裂いて~そこに顔を埋めてすすりたいね~」


 アックスは邪悪な笑みを浮かべた顔をノエルの顔に近づけ、ヨダレを垂らしながらノエルに自分をどう殺すのか親切に教えてやっているという雰囲気を|醸(かも)し出している。


「許さねぇ…」


 地面に寝転がっている、ルシウスが小さな声でまた呟いた。ルシウスの中から今まで感じたこともないほどの怒りに精神が支配される。


「パッシブスキル:狂気」「パッシブスキル:王の怒り」


 普段はベルゴと変わらぬ青い光を目玉のある場所に宿しているが、その光が目から飛び出て強く赤く光る。丸で、目から炎が溢れ出ている感じのように。


「許さねぇ…」


 ルシウスが立ち上がり、また小さく呟く。今度はその声がアックスに聞こえたのか、喋りながら振り向く。


「まだ、いき…」


 アックスよりもっと地面がめり込むほどの跳躍でルシウスはアックスに飛び掛かり、ルシウスの鎧の拳がアックスの顎を外し、前歯を全て折りながら口の中に埋め込まれる。その勢いのまま、アックスの頭を地面にめり込ませる。アックスは何が起こったのか理解できない顔をしている。それはノエルも同じだった。


 アックスの目の前には赤いスケレトンが目から炎を吐き出しているように見えた。立ち上がろうとしても、自分の強靭な肉体をもってしても、あの軽く細い筈のスケレトンを振り落とす事が出来ない。


「はへ、ふぺめほんほほひいほんはひははだ…」

(なぜ、スケレトン如きにこんな力が…)


 埋め込まれた拳でアックスの言葉がよく聞き取れなかった。ルシウスはマウント体勢から顔をアックスの耳元近くに近づけ、小さく無感情な声で呟いた。


「何言ってるのか、わからねーよ」


 ルシウスの言葉にアックスは怒りでもがいているのか、自分がこれからされることに気づきもがいているのかはルシウスにはわからない。ルシウスは口から手を抜き、アックスの左目をスプーンで抉り取るかのように指で引き抜く。


「こうか」


 そして右目も引き抜く。


「こうか」


 アックスが激痛に体をバタバタしながら顎が外れ前歯が全て折れて、発音が可笑しくなった声で叫び散らす。


「ひゃめほ!ふっほろひへひゃふ!」


 ルシウスは構わず、アックスの口の奥まで手を入れ内臓を引っ張り出そうとしたが、内臓を掴む事が出来なかった。体内を引っ掻くと裂けた部分ができ、それを掴みそのまま引っ張りだす。


「こうか」


 剥がされた壁紙のように体内の一部が口から飛び出て、口の中からは血が溢れ出ている。アックスは死んでしまったのか、それともただ気を失っているだけなのか、ビクとも動かない。ルシウスは鎧の手の部分を外し、指を分厚い筋肉に覆われている腹部に差し込み、無理矢理こじ開けると内臓を引き裂く。


「こうか」


 ルシウスの言葉にアックスが反応を見せることはなかった。





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