第9話 スケレトンキング2
スケレトンキング2
ゴブリンに案内されるまま、ルシウス達は道なき草原を歩いていた。
(オウガは、ゲームでいうとレベル20くらいのモンスターだったな)
ルシウスは「GSO」でのオウガの情報を頭の中で整理する。流石にオウガというものを知らなかったら、軽率に滅ぼしてやってもいいなどと偉そうなことは言えない。ルシウスの中でオウガは、武器として棍棒を持ち体がデカくて知能は低いが力持ちのイメージだ。一番の懸念要素は"力持ち"ということだ。
ゴブリン達は身長百三十センチ程で細い手足をしている。そんなゴブリンの攻撃なら、スケレトンの骨を砕くのは難しいだろう。そしてルシウスが受けた、矢のように"点"を狙う武器では体面積の狭いスケレトンにあまりダメージを与えられないことも頷ける。
しかしオウガは違う。巨体の怪力に任せた棍棒の一撃を食らうと、常識的に考えればスケレトンは砕け散ってしまうだろう。
(まぁ…骨が歩いてる時点で常識も糞もないけどね)
長い一人生活で癖になってしまった突っ込みをいれながら、
(あれ?そもそも俺の
これはとても大事なことだ。ジョブで耐久力や戦う時のポジション取り、役割などがわかる。だが、王をどのカテゴリーに入れればいいかルシウスは見当もつかない。
(原始的な方法ではあるが、体で体験してみるしかないな)
ルシウスは、ベルゴにゴブリンから回収した弓と矢を一本要求した。受け取った弓を構えることまでは、それなりに雰囲気がある。かっこよく遠くにある木を目掛け矢を放ったが、飛んでいくどころかヒョイっと地面に落ちる。
「プフッ…」
ノエルは笑いを堪えきれず声が漏れる。確かに自分でもこういのを見れば笑ってしまうかもしれない。
(はずかすぃーいーあ…なんか死にたくなってきた…もう死んでるけど…)
「貴様っ!主人様を嘲笑うとは不敬過ぎるぞ!」
ノエルの行動がベルゴの逆鱗コードに触れてしまったようで、ノエルに対し激怒する。そんなベルゴの初めてみる姿にルシウスは驚いた。正直自分もその声にビビってしまったのだ。生物が感じる、一番根幹的な恐怖は"音"だと聞いたことがあるが、ルシウスも実際そうではないかと思うくらい威圧的だった。
「も…申し訳ありません!お許しください」
ノエルがその場にひれ伏し、恐怖で体を震わせている。それになぜか案内係のゴブリンまでひれ伏している。もはや、ゴブリンの平伏は"ノリ"としか思えなくなってきた。
「よい。弓が下手な私が悪いのだ。お前もそう怒るでない」
「しかし、主人様をぶ…」
「もうよいと言っている。お前の私を思う気持ちはとても嬉しいことだ。だが、ノエルも我々の旅の仲間だ。許してやれ」
ベルゴは納得はいかないが、主人の言葉に逆らうことは出来ないという感じに見えた。
「ノエルももうよい。お前が我々に少しは慣れてくれたようで私も嬉しい。それにゴブリンよ、ひれ伏すさなくてよい」
ひれ伏し頭を垂れるのも最初は気持ちのいいことだったが、よいよいよいよいよいよいとウンザリしてきた。ノエルは立ち上がりもう一度謝ったが、笑ったりするのを見ると嬉しいことに最初よりは慣れてくれたようだ。やはりベルゴとは違いノエルは行動が完全に予想できない分、二人だった頃よりは楽しい旅と感じた。
(雰囲気悪くなかったのにな~予期せぬ自虐ネタだったけど…)
思わぬハプニングだったが、流石にこのようなことが続くと主人として示しがつかなくなる。
(弓は扱えないか…剣なら扱えるかな?)
剣を扱えるか試そうにもベルゴ相手だとまた自虐ネタを披露することになりそうなので、オウガに試すことにした。
「ノエルよ」
「はびっ…」
ルシウスが急に話しかけたためか、ノエルが言葉を噛んでしまった。
「お前は武器や魔法を使えるのか?」
「申し訳ありません… 武器も…魔法も…使えません…でもっ!掃除ならできま…す…」
ノエルが自分で言いながら気づいたようだ。毎日帰る家があるならともかく、旅に掃除などなんの役に立たないことに。自分がなんの役にも立たないことにノエルは涙が出てしまった。ルシウスが親指で涙を拭きながら優しく声をかける。
「案ずることはない。誰しも向き不向きがある」
それでも止まるぬ涙にルシウスが話を続ける。
「それにまだ、何もできないと決まった訳ではない。時間をかけてお前にしかできなことを探せばいい」
その言葉にノエルはもう、大丈夫という顔を見せる。ルシウスは今のところ戦闘能力が皆無のノエルをどうすればいいか悩む。オウガの住処で万が一対処が遅れたりでもしたらノエルが死んでしまう可能性がある。それはなんとしても避けたい。
(そうだ!オウガの住処近くで「スケレトン創造」スキルを使って護衛をつけよう)
オウガの住処は、今歩いてる方向からして恐らく近くに見えてきた小さい山脈辺りに住処があるのだろう。ルシウスは気を引き締めて新たなる未知の敵に備え心の準備をする。
「#############」
案内係のゴブリンが指をさしながら理解できない言葉で喋りかけてきた。指さす方向に視線を向けると、森の入り口らしきところの周辺の木の皮が剥がれて、何か塗ってあるように見えた。ゴブリンの様子からしてあそこからオウガの縄張り内に入るのだろう。
「ここからは我々だけで行くとしよう。もう帰ってよい」
案内係のゴブリンを帰らせ、ルシウスは五体のスケレトンを創造しノエルの警護に当たらせる。戦闘能力は期待できなくても身がわり程度にはなるだろう。
「ノエルよ。ここからはオウガの縄張りだ。万が一だが、危なくなったらあの者達を身がわりに使え」
頷くノエルの顔からも緊張の色が伺える。ルシウスは森を歩きながら周囲を警戒する。オウガはそう器用ではないはずだから弓で遠距離攻撃を仕掛けてくることはまずあり得ない。それでもそれは自分の勝手なイメージに過ぎないため、ノエルの正面に立ち警戒を怠らない。
警戒しながら十分程森を歩いただろうか。前方に木に体を預け、心地よく昼寝をしているオウガ三匹が目に入る。その横には一メートル程の木の棍棒も置いてあり、削り具合は多少差はあるようだが似たようなものだ。
(多分警備の連中だろう。その警備が、警備もせず寝てていいのか?せめて交番制にしろよ!まぁ…こっちは助かるけど)
ルシウスはベルゴとノエルにここで待機するように命じ、寝ているオウガのすぐ近くまで距離を縮める。オウガとの距離が三メートル程まで縮まったというのに全然起きる気配がない。近くで見たオウガの姿は、身長はベルゴぐらいで髪の毛はなくツルツルな頭をしている。そしてお腹は出ているが腕は筋肉質で、下半身は上半身に比べれば細い。下半身肥満ならぬ、上半身肥満のような体型をしている。
(この似たような棍棒は誰が制作販売しているのかね?それにスケレトンといい、オウガといい前の世界で見た姿とあまり変わらないな…最初に漫画とかで描いたやつは異世界帰りなのか?)
今となってはどうでもいい疑問を振り払い、わざと大きい声で咳払いをする。すると、目が覚めたのかオウガ達が目をこすりながらルシウスを視界に捉える。
「ん…?ホネ…テキ?」
オウガの話し方からして、思ったよりもっと知能が低いようだ。これでルシウスのオウガに対するイメージはより確かなものとなった。
「ホネ…テキ?」
「メイレイ…モリ…ハイル…テキ」
「アア…」
オウガの会話を聞いたルシウスは呆れてしまった。言葉は理解できるが、オウガは自分達の敵を認識するだけでもかなり時間がかかるようだ。ベルゴがいかに優秀なのかがわかる。
(命令と言ったが、誰かがオウガを使役しているのか?それなら本拠地に行く前に、こいつらで色々試せるのは大きい)
考えていたルシウスの頭に、オウガが棍棒の一撃を食らわせる。不意打ちに一発食らってしまったが、殴られた感覚はあっても痛みはなかった。あの巨体からの繰り出される一撃でも無傷であることに、驚きながらも戦闘に余裕が出てきた。
(レベルの差か?オウガは20程だし、スケレトンキングは25くらいだから…いや、それでもこれからも起こるであろう戦闘に、一々体で確かめるのは利口ではない)
オウガ三匹が交互に棍棒で頭を攻撃し続けるが、ダメージを受けた気が全くしない。
「アレ…?ホネ…コワレナイ…」
「どうやらお前達は、私の敵ではないよだ」
「ホネ…テキ…チガウ?」
ルシウスの言葉にオウガ達の攻撃の手が止まる。どうやら知能が低過ぎて紛らわしい言い方だと、言葉の意味すら理解できないみたいだ。ルシウスは腰に装備しているロングソードを抜き両手で構える。すると頭の中の靄が少し取り払われる感じがした。
「
「ホネ…テキ」
オウガ達が構えるルシウスを敵と再認識し襲いかかる。振り下ろされる棍棒を剣で受け止めると、棍棒の方が真っ二つに切られた。ルシウス自身はそこまで衝撃を感じなかったが、地面に少々足がめり込むことからかなりの力のようだ。棍棒が真っ二つにされたのはルシウスの体と、思ったより性能のいいロングソードと、オウガの力が合わさったコラボレーションの結果なのだろう。
「ブキ…」
真っ二つにされた棍棒を悲しげに見つめるオウガに向け、ルシウスは新たに習得した「真空斬」を試しに使ってみることにする。
「
スキル名を唱えると動かしてもいないのに勝手にロングソード持ち、構える両手が近くにいた武器を見つめるオウガのすぐ手前の空を斬る。空振りかと思ったが、オウガの胴体部分に斬られた空から暗い異次元のような隙間が出現した。
すると、オウガが爆散するかのように血肉が飛び散る。そして、出現した隙間が急激に周りのものを吸引し始めると、オウガ二匹が隙間に吸い込まれて行く。吸引により吸い込まれた木の枝や葉っぱ、石ころは隙間に触れると粉となり消えてしまった。
仲間の無惨な姿を見た二匹のオウガ達は吸い込まれまいと足に力を入れ踏ん張ろうとしたが、激しい吸引力に耐え切れず隙間に触れた途端ミンチとなり血肉が四方に飛び散る。空にできた隙間が消えると、ルシウスの白い骨は、大量の血を浴びて赤いスケレトンとなる。
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