第6話 知らない世界5

 知らない世界5


 ベルゴは体に噛み付いて地面に倒そうとするハウンドドックを骨剣で軽く始末する。

その体を体をバレないよう横目で観察して見ると、かすり傷一つないことに気づいた。そして、人間を含め生物なら急所である頭部に矢を受けた自分も、痛みも傷一つ付かなかったことを思い出す。


(スケレトン体は意外と頑丈なようだな…それともレベルの差か?ゴブリンは精々2ー3レベルだしな)


レベルの差なのか、ただゲームと同じ仕組みではないのか。まだ、確証が持てない。確かなのは、アイテムやゴールドをドロップしたりはしかいということだけ。

 

三体の死体と二匹のゴブリンが捨てた弓と矢をベルゴに回収させる。

 やることのないルシウスは死体から短剣を一つ拾っては骨盤の穴に差し込んでみた。


(ぴったりハマるが見た目が可笑しいなこりゃ)


 慌てて差し込んだ短剣を引き抜きベルゴに視線を向ける。幸いな事にベルゴは、弓と矢を回収していたので見られてはいないようだ。


 弓と矢の回収を終え、二人はゴブリンが逃げた方向に進路を決め歩き出す。ルシウスは最弱モンスターにビビりまくってたと思うとまた恥ずかしさや、怒りが込み上げる。


(まずは、ベルゴから威厳を取り戻さねば……だが、どう言い訳すればいいのだ…?)


 言い訳に悩んだが、下手な言い訳より男らしく素直に話すことにする。

軽く咳払いをした後、砕け散った威厳を掻き集め


「ベルゴ、先程は見っともない姿を見せてしまった。許せ」

「主人様の怒りは|御尤(ごもっと)もでございます。ゴブリン風情が主人様の御身に向け矢を射るなど、万死に値すること!!」


 えっ?なんか…話ちがくね?


(地べたに這いつくばった件は?尻もちをついた件は?)


 話の論点がズレていることは確かだが威厳を失ったわけでもなさそうだし、敢えてその件に触れないだけのことなら、今回はベルゴの優しさに甘えることにしよう。


(苦手だったけど気に入ったぞ!)


 "ルシウスは、ベルゴに対する好感度が50上がった"と、ギャルゲーまがいな評価をつける。





 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 二匹のゴブリンが出発から四時間程で村に帰ってきた。

村に到着して早々、ゴブリン達は再び驚愕の光景を目にする事になる。村の広場で三人の人間らしき者と、ゴブリン達が対峙していたからだ。

広場には既に死体となった者達も結構いる。


急いで子供達と一緒にいる年老いたゴブリンの元へ向かう。


「村長!何があったんですか?!」


 二匹の内、一匹のゴブリンが村長ゴブリンに問いただすと


「あの者達の話じゃ、街の附近にゴブリンがよく出没するから冒険者ギルドに退治依頼が出されたそうじゃ……」


 村長ゴブリンが最早打つ手がないという顔をしている。村長ゴブリンをよく見ると斬られているのか、布を繋いだだけの衣類から血が滲み出ていた。


「狩に出掛けた他の者はどうしたのじゃ?」

「…」


 二匹のゴブリンが浮かぬ表情でお互いに顔を見合わす。

そして、震える声で事実を口にした。


「死にました…」

「なんじゃと?!何があうっ………」


 戻って来たゴブリンの話に驚き、激しく動いたせいで傷口が開いたようだ。

まだ話は理解はできなくても雰囲気で察したのか、子供のゴブリン達も心配そうにその様子を見つめている。


「壁の近くに行ったんですが…そこに化け物がいました!」

「そう…あれは化け物です! 人間の形をした骨の化け物に皆やられました……」


 二匹のゴブリンは無惨な姿で殺された仲間達を思い出しては涙を流す。


「死の壁辺りを縄張りにしていると言われる化け物……その伝説は本当だったのじゃな…この状況ではそうも言えないが、お前らだけでもよくぞ無事に戻って来てくれた」


 村長ゴブリンから掛けられた優しい言葉に、二匹のゴブリンはより心が痛くなって来たように感じた。


「なぜ……なぜ我々がこんな目に!!」

「何もかもオウガ共のせいだ!そいつらが要求する大量の肉のせいで、化け物に殺され、人間に殺された挙句、村まで襲われる始末だ!!」






 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 奏功そうこうする内に、二人の視界には木々の合間にある小さな村が見えてきた。


(クソゴブリン共め…皆殺しにてやる)


 一応、ゴブリンの本拠地だからそれなりの数がいると予想できるが、ゴブリン如きにスケレトンを創造し万全の準備を期して乗り込むのは流石に主人として示しがつかない。


 それに今はゴブリンが何百、何千といようと負ける気がしなかったのだ。


 沼地帯を歩きながら有り余る時間を利用してファイア・ボールの他に、違う魔法のイメージを構築していたのだ。

それをゴブリンに試したところ見事成功した。そうしたら、なんと!頭の中からスキル名が浮かび上がったてきたのだ。

丸で深海から海面に浮かび上がるかのように。


 浮かび上がったスキルは三つ。


炎の槍フレイム・スピア」「氷の槍フローズン・スピア」「稲妻の槍ライトニング・スピア


 まだ使ったことはないが、明らかに今の魔法より上位魔法だ。

新たな魔法を習得出来た理由はわからない。もしかすると、ルシウス本人が気付いてないだけでレベルアップをした可能性もありうる。

しかしだ。前世でゲームをしていたからこそ、レベルアップと言われる概念を知っているに過ぎない。

果たしてゲームの世界ではない、異世界とはいえ現実であるこの世界に、レベルアップという概念は存在するのだろうか?

わからないのなら、またゴブリンを殺して確かめるしかない。


 なんの妨害もされることもなく、ゴブリンの村の近くまで来れてしまった……


(普通見張りとかさ、いたりするもんじゃないの?)


 村の様子を覗いて見ると戦意を喪失し、一箇所に固まって怯えているだけのゴブリンを殺すことが楽しくて仕方がないと見える輩が視界にに入った。

ルシウスがやるはずだったが、他人がやっているのを見ていると腹が立って来た。

ルシウス自身がやれなくて、ではなく、戦意喪失した者を面白そうに殺す輩に。


 ルシウスは堂々とした振る舞いで村を突っ切ると、輩と向かい合う。


「###############」

(村長!仲間を殺したのはこいつらだ!)


 ゴブリンの一匹が何かを言っているみたいだが理解出来ないし、ルシウスは無視する。

周りを見渡すと、輩に対抗したと思われる何十匹ものゴブリンの死体が転がっていた。状況を確認した後、視線を再び輩の方に向ける。


 高価そうな金属プレートの鎧に身を固め、これまた高価そうなロングソードを持っている男が一人。

その横に、上半身だけ革製の防具を装備してショートソードを持ち、ゴマスリをしているゲスい感じの男が一人。

その後ろで地べたに座り、ボロい布切れの服を身につけ、首を鎖で高価そうな鎧の男の腰に繋がれている耳の長い金髪の女が一人。


 高価そうな鎧の男がルシウス達をみて少々驚いた顔をする。


「ほう?ここのゴブリン共はアンデットを使役しているのか?」

「ゴブリンはともかくアンデットを使役出来るなど、しょんなことは聞いたことがございやしぇん」


 骸骨にビビるどころか、見下されているような二人の会話が、ルシウスのかんさわる。

どうやらゴブリンの言葉は理解出来ないが、人間の言葉は理解出来るみたいだ。


「始めまして諸君。私はルシウス・ヴァーミリアンという者だ。見ての通りスケレトンである」


 主人の自己紹介にベルゴは両足を揃え、剣を胸の前で持ち、背中を伸ばしては敬意を込めた姿勢を取る。


「この者は私の配下である、ベルゴという。自己紹介はここまでにして一つ尋ねるが、この者達を殺したのはお前達なのか?」


 ルシウスが不愉快な声で輩に尋ねる。


「聞いたかおい!ゴブリンもそうだったが、スケレトンまで喋ったぞ?俺も何度か墓地の近くでスケレトンを倒したことがあるが、喋るやつは初めてだ!あれはいいコレクションになる。あいつを生け捕りにするぞ!」


 高価そうな鎧の男が珍しい個体に興奮気味にゲスい男に向け話す。


「なるほど…私の同胞を手にかけたと言うのか。それに私の質問には答えず…か。それならば、同胞の恨みも晴らしてやらねばな」


 別にスケレトンに仲間意識を持っているわけでない。ベルゴの前という事もあるし、それっぽい言葉を言っているだけに過ぎない。


「スケレトン如きが抜かすな!おま…」


 高価そうな鎧の男とルシウスの会話に、ゲスい感じの男が割り込んできた。


「旦那!スケレトンがしゃべるなんて普通の事ではないでしゅぜ…こいつはやばいんじゃないでしゅか?」

「愚か者めが!スケレトン如きに何をビビっている!」


 ルシウスはワザと少し声を出して笑った。そして、


「お前とは違いその男は、人を…いや、スケレトンを見る目があるようだな。褒美というのもなんだが、先に苦しむことなく楽に殺してやろう」





















 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る